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FireEmblem 覚醒:希望に咲く闇 6
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FireEmblem覚醒

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<6話目>




ヘンリーがファウダーと対峙する少し前。
ガイアはヘンリーと同じ山林へ足を踏み入れていた。

雨脚が強くなり視界が悪く足が土砂に取られ、なかなか思うように進まない。
何処へ行ったのか方角すら分からず、気だけが焦ってしまう。

「くそ…」
それでも足を止める気にはなれず、勘だけで前へ進む。

空が光り雷鳴が轟き、本格的な嵐になってきたなと、目を細めて遠くを見つめた。
また光り、今度は爆発が起こる。
「ん?」
落雷か?と思ったが、稲妻が走った方角とは違う。
爆発が起きた方角を見ていると、さらに大きな爆発が起きた。
「これは、魔法か?」
そう思った瞬間、全速力で走り出す。
ヘンリーから受けた傷がまだ痛むが、そんな弱音なんて吐いてられない。
何度も起きる爆発を夢中で追いかける。
この爆発はヘンリーの攻撃魔法だろうと、理由は特に無いが確信していた。
何に攻撃しているかは知る由もないが、爆発が続いている限りヘンリーは無事だと…。

しかし近づくにつれ、その爆発は小さくなり、着いた頃には遠くで雷鳴が鳴っているだけになっていた。
爆発が何度も起きただけあって着いた先は、木々も草も薙ぎ倒され真っ黒に焦げ、ブラックホールのようだった。
周辺には黒こげの死体が数えきれないほど折り重なっていて、黒い煙が雨の中あちこちから立ち上っている。
「屍兵…か?」
死体に少し近づき、屍兵独特の容姿を確認する。
「焦げてはいるが、これは人間の肌の色じゃない。なんで、こんな大量に…」
足の踏み場もなく、どす黒い物体の上を歩いて進む。それは踏むと嫌な音を立てて、焼けた臭いが鼻をついた。
耳を澄ませば何か別な音が聞こえるかもしれないと、雷雨の中、聞き耳を立てる。
ここにヘンリーは居るはずだ…。
しきりに降る雨の中、異臭のする屍兵をかき分けヘンリーを探す。
こんな中に埋まっているとすれば、生きている可能性は低いだろう。
だが諦める事が出来ず、必死に探しまわる。

何の手がかりも見つけられないまま時間だけが過ぎていく。
雨の止む気配がなく、雷鳴も未だ鳴り響いている…。
もう駄目なのかと天を仰いだ瞬間、空が光り雷鳴が轟く。そして、すぐ落雷の微かな振動が伝わり、屍兵の山が音を立てて崩れる。
音に気づき視線を向けると、見慣れた銀髪が目に飛び込んできた。
「ヘンリー!?」
黒い物体に足を取られ転びそうになるが、体勢を崩しながらも何とかそこへ滑り込む。
そして、邪魔な屍兵をどかして、銀髪の人物に手を伸ばした。
「ヘンリーッ!!」
すぐ抱き寄せて、名前を呼ぶ。…が、返事はない。
雨に濡れた身体は重くぐったりとしていて、頬に触れてみるが冷たく生気が感じられなかった。
「おい、目を覚ませ!」
必死に声をかけ揺すってみるが、反応はまったく返ってこない。
「ヘンリー…」
顔を近づけて息を確認し、おそるおそる胸に耳をあてる。

トクン、トクン…

微かな呼吸と心音が聞こえ、ホッと胸を撫で下ろす。
「生きてるんだな…」
しかし、身体は傷だらけで出血も多く、喜べる状態ではなかった。
体温も殆ど感じられず、このままでは本当に命を落としてしまう…。
「今、助けてやるからな。野営地まで、頑張ってくれよ…」
泥を払い自分のマントでくるんで抱き上げ、頭を優しく撫でながら歩き出す。
少し雨がよわまってきたが、道はぬかるんで走りづらく、転ばぬように足下を確認しながら確実に足を進めた。


屍兵の山から少し離れ、視線を感じ足を止める。

「誰だ…」

「何処へ行く気ですか?」
「お前は…、ルキナか」
声をかけられ顔を上げると、未来から来たという少女が立っていた。
少女と言っても、その容姿は父クロムに似ていて勇ましい。
その頼もしい眼差しでガイアを見つめ、手にはしっかりファルシオンが握られている。クロムが持つ宝剣と同じ物で、未来から持ってきた剣らしい。
封剣ではなく裏剣と名付けているようだが、今はどうでもいい事だ。
「そこを退け。俺は急いでるんだ」
「すみません、ガイアさん。それは出来ません」
剣に手をかけてはいるが、相変わらず敬語で話してくる。育ちがいいせいなのか、それとも下手に出れば言う事を聞くとでも思っているのだろうか…。
「早く手当てしないと、コイツが死んでしまう」
「分かっています」
「じゃあ、道をあけろ」
逆に敬語で制止されるとイラっとし、悪気はないが睨みつけてしまう。
「ごめんなさい…」
そう言い、剣を抜きガイアに向ける。
「お前…、未来で何を見てきたんだ?」
剣を向けられると、今度は不思議と冷静さを取り戻す。
恐怖心とかではない、必死なルキナもヘンリーと同じく、助けなければならない存在だと気づいたからだ。
「あなたには言えません。ですが、ヘンリーさんはルフレさんと一緒に居て良い存在ではないんです」
「それは知ってる。そんな事で、俺の邪魔をするのか?」
「そんな事って!?」
声を荒らげるルキナを冷静に見つめる。
「邪竜復活の何とかって言うんだろ?コイツの事を」
「知ってるなら何故!?私の未来はそれで…」
「いいや、違うな。お前の未来は違う」
「どういう意味ですか…」
厳しい顔でルキナはガイアを見る。
ガイアの言う意味が本当に分からず納得がいかないのだろう。
握った剣にぎゅっと力を込めて、感情を押さえ込んではいるのが、ルキナの震える肩を見て分かった。
「未来は既に変わっている。お前が居る時点でな?元の未来に戻ろうとする力が働いているって言うんだろうが、その逆もしかりだ」
「だからこそ、同じ過ちが繰り返されないために、私はここに居るんです」
「俺もそのつもりだ。ヘンリーは連れて戻る」
剣を向けるルキナを眼前に捉えながらも、躊躇いなくガイアは歩き出した。
横をガイアは通り過ぎ、ルキナは振り向いて呼び止める。
「待ってください!また、同じ過ちを繰り返すつもりですか?」
親父同様甘いな…と少し呆れ、ガイアも足を止めルキナに向き直った。
「そうだな…俺じゃなくてもクロムもこうすると思うぜ?仲間を犠牲にした上での平和は本当の平和じゃないんだ。俺はこいつの居ない未来なんて想像出来ない」
「お父様は…」
「分かってるんだろ?自分の親父の考えくらい。因にコイツを殺したって、邪竜は居なくならないぞ?」
「分かっています。ですが、少しでも不安は排除すべきです」
だが、ルキナの言う事は少しも甘くはない。まあ、それだけの未来を見てきているのだろうが…。
とはいえ「はいそうですか」とヘンリーを見殺しに出来るわけがない。
「コイツが居ても不安は排除出来るさ。お前の見てきた未来を、もう少しルフレに話してみろよ。未来を変えるには、まず未来を知る事からだ。知ってこそ、有利な選択肢が増えるってもんだろ?その選択肢は一つじゃないはずだ」
「犠牲を出さずに…、変えるって事ですか」
「ああ。それが、お前の親父のやり方だ。納得出来ないか?」
「…信じて良いのでしょうか?」
真っすぐな目でルキナは見て来る。汚れを知らない目だ。
そんな奇麗な瞳で見つめられると、嘘を言ったつもりはないが目をそらしたくなってしまう…。
「俺より親父を信じてやれよ。とりあえず、コイツを連れ帰って最悪な事態になったら、俺が責任を取る。命に代えてもな」
「分かりました。そこまで言うのなら…」
「よし、戻るぞ。コイツの息があるうちにな…」
ルキナは剣を鞘に納め、ガイアに向け一礼する。
「す、すみません。足止めしてしまって…」
「いいって、謝んなよ。お前の気持ちも分からないでもないからな。あとは、コイツが天に召されないように祈っててくれ」
「は、はいっ!」

後は何も言わず、二人は野営地まで走り続けた。

気づくと雨は止んでいて、重かった雲は何処かへ消えてしまっていた。
澄んだ空から木々の間を抜け、微かに柔らかな光が差し込んでくる。

やっと朝を迎えたんだ…。



ただ、そう思った。







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つづく

ルキナは一生懸命なだけなのです。
とても優しい子だと思います。

関係ないですが、ドラマCDを聴いてると、ガイアの台詞の言い回しを格好良くしなくちゃと、意識してしまいます…。
ドラマCDのガイアの台詞が格好良すぎて…。


7話目に続きます>>

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