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FireEmblem 覚醒:はちみつの味 後編 |
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それから何日かに一度、ヘンリーは蜂の巣を採ってきて、ガイアに渡すようになった。 ガイア自身も蜂の巣を採りに行くのだが、ヘンリーの方が頻度が高く効率よく採ってくる。 何もしないまま蜂の巣を渡されて野営地へ戻る事が多く、蜂の巣を貰った日は蜂蜜入りの焼き菓子を作り、一緒にお茶をするようになっていた。 「じゃ、またな。いつも蜂の巣ありがとうな」 「うん、またねー。お菓子ありがとー」 ヘンリーは残った焼き菓子をいつものように分けて貰い、笑顔で自分の天幕に戻って行った。 ガイアは厨房に戻り、瓶に詰めた蜂蜜を手に呟いた。 「だいぶん蜂蜜が溜まってきたな…。かなり食べてるんだが…減らない」 「ふふふ。ヘンリーになつかれてるわね〜。ガイア」 背後から話しかけられ、振り向くとルフレがこちらを見て微笑んでいた。 ガイアは溜め息をついて言葉を返す。 「いや、あれは俺にじゃなくて蜂蜜入りの焼き菓子になついてるんだろ。俺の部屋は蜂蜜だらけになってきたぞ…」 「良かったじゃない、大好きな蜂蜜に囲まれて寝れるんだもの。それと、焼き菓子になつくってヘンリーを馬鹿にしてない?」 「な、馬鹿にしてるわけじゃ…。焼き菓子を食べたいから、蜂の巣を採ってきてるんだと思ったからで…」 流石に人を馬鹿にしたつもりはなかった。思った事を言ったまでなのだが、そう思われてしまったのかと少し気まずくなる。 「ガイアはヘンリーの事を知ってる?」 「え?」 不意に訊かれ、何も言葉が出てこなかった。不意をつかれなくても、多分何も言えないだろう。考えた所でヘンリーの事は何も知らない…。 「知らないかな…。一緒にいてもそんな話しはしないからな」 「だと思った。焼き菓子が気に入ったからって、誰にでも近づくような子じゃないわよヘンリーは。ガイアに心を許してるから、蜂の巣をガイアに渡すし一緒に お茶をするんじゃない。焼き菓子だけが好きなら、菓子だけ貰って帰れば良いでしょ」 「まあ、俺は焼き菓子だけ渡しても良いんだが。お茶するのは菓子だけ渡すのは素っ気ないかなと思っただけでだな」 ルフレに心を許してると言われても、あまりピンとはこなかった。 やっぱり蜂蜜入りの焼き菓子が食べたいからだと思ってしまう…。そこにしか、なつかれる理由が見当たらない。 考え込んでいると、ルフレはガイアの持っていた蜂蜜入りの瓶を取り上げた。 「案外ガイアって、自分の事わかってないのね〜」 「あ、蜂蜜…。まあ、欲しいならやるけど…」 いきなり甘い物を取られて、ちょっとムッとしてしまったが、思えば天幕にまだいっぱいある。 「ありがとう。ガイアに良いところはちゃんとあるわよ?焼き菓子になんて負けてないわよー?」 「はあ?」 「ふふ。焼き菓子に嫉妬して、ヘンリーに冷たくしちゃ駄目よ?じゃあね、蜂蜜ありがとうー!」 「あ、待て!おい!」 ルフレが後半何言ってるかサッパリ理解出来ず、呼び止めて理解出来るような説明をしてもらおうとした。だが、ルフレの方もそれに気づいたのか、颯爽と姿を 消してしまった。…あいつは盗賊の素質もあるかもしれない。 しょうがなく自分の中でルフレの言葉を反復し理解しようと試みる。 「焼き菓子に嫉妬って何なんだよ…」 そう思われるような事を言ってしまったのかと、自分が言った事を思い返す。 手ぶらになってしまった腕を組み、考えながら自分の天幕に戻った。 考えてはみたが、納得のいく答えが出ないまま数日が過ぎた。 どうもスッキリしない気分を変えようと、今日は蜂の巣ではなく木の実でも集めようと森へ赴く。 蜂蜜はまだいっぱい部屋にあるのだ。それに採らなくてもヘンリーが持ってくる。 良さそうな木の実を拾いながら歩いて行くと、木陰にうずくまっている人影を見つけた。 マントの柄からしてヘンリーだろう。 「おい、どうした?気分でも悪いのか?」 声をかけると、いつもの笑顔でヘンリーは振り向いた。 具合が悪いわけではなさそうで、少し安心する。 「あれ〜、ガイア」 「何やってんだ…?」 ヘンリーのしゃがんでいる地面には、円と何か文字みたいなのが描かれていた。そして、その真ん中には…。 「小鳥の死骸か…。ヘンリーがやったのか?」 「うん、呪いに使う生け贄だよ〜」 「そうか、呪いで蜂の巣採ってたのか…」 「そうだよ〜。生け贄さえ用意出来れば簡単だからね〜」 さすがペレジアの呪術士と言ったところか。小鳥とはいえ命を奪うのにまったく抵抗がないようだ。 それどころか、複雑な表情をしているガイアを不思議そうな顔で見てきている。 「どうしたの?ガイア」 「いや…。そうだな、呪いで蜂の巣を採るのはやめた方が良いな」 「え〜、どうして?刺されないで採れるんだよ〜?」 「そうかもしれないが、生け贄を使うんだろ?小動物が可哀想じゃないか」 ヘンリーはまだ不思議そうな顔をガイアに向けている。 「かわいそう?いずれは死んじゃう命だよ?今、死んじゃっても変わりはないよ〜」 「他人に奪われなきゃ、もう少し長生き出来る命だろ。命は勝手に奪っていいもんじゃない」 簡単ではあるが命の重みとやらを説明する。理解出来てるとは思えない表情をしているが…。 「戦争で殺すのは良いの?」 「それは別の話だ。ホラ、戻るぞ」 リベラじゃあるまいし、そこまで説明する気にはなれなかった。自分だって戦争での殺し合いは、何が正しいのか分かってはいない。 何かまだ納得していないヘンリーの頭を軽くポンポンと叩き、立つように促す。 ガイアは小鳥の死骸を拾い、木の根元に埋める。そして木の実を数個供えて手を合わせた。 「ヘンリー、生け贄を使って呪いをするなとは言わない。だけど、蜂の巣採りでは使うなよ。いいな?」 呪術士に生け贄を使うなと言うのは酷な話だろう。せめて自分の回りだけでも、安易に命を奪う行為はやめさようと思った。 蜂の巣を採るたびに命を狙われたんじゃ、小動物もたまったもんじゃないだろう。 「ガイアが嫌なら使わないよ〜。でも、蜂の巣採れなくなっちゃうよ〜?」 「まだ戻れば蜂蜜はあるから作ってやるよ。今日もこれからお茶にしようぜ」 「はーい。作るの手伝うよ〜」 野営地に戻り、蜂蜜を取りに一度自分の天幕に戻る。 蜂蜜の他にも材料を集めて厨房に入った。 先に厨房に来ていたヘンリーは、調理器具を用意して待っていた。 「これ、どうするの〜?」 袋から出された木の実を見て、ヘンリーは小首をかしげている。 「焼き菓子に入れようと思ってな。蜂蜜だけじゃそろそろ飽きるだろ」 「もっと幸せな味になるかな〜?」 「ああ、なると思うぜ」 「ふふ、楽しみだな〜」 いつも通り蜂蜜を入れて生地を作る。今回は焼く前に木の実を上に数粒ずつのせて焼く。 焼き上がるまでの間、使った器具を片付けて、出来上がる頃に紅茶を入れる。 回を重ねるごとに、そのタイミングは絶妙なモノになっていった。 「どうだ?」 焼き上がった菓子を黙々と食べるヘンリーを見てガイアは訊く。 「うん、美味しいよ〜。木の実も幸せだよ〜」 いまいち木の実も幸せって意味は分からなかったが、木の実をのせたのは成功だったのだろう。 ヘンリーは相変わらず、片手に焼き菓子を一枚常備している。 「欲しい物は決まったか?」 「ほひぃもの〜?」 「それ、飲み込んでからで良いよ…。ルフレの言ってた慰謝料ってヤツな」 紅茶を飲み口の中の菓子は飲み込んだようだったが、考えているらしく口を開こうとしない。 「遠慮しなくて良いぞ。前にも言ったが別にルフレに言われたからじゃない。ちゃんと形のある謝罪をと俺も思ってるんだ」 ヘンリーは手に取った焼き菓子を見つめている。さすがに何か言わないと食べちゃ駄目だと思っているのか…。 「何も決めてないよ〜。もっと考えてても良い?」 「いや、無理にとは言わないが…。何も思いつかないなら、俺が見繕って何か贈ろうか?そんなプレゼントの趣味は悪い方だと思ってないんだが、嫌か?」 「え〜?そこまでしてもらわなくても〜。決めたくないだけだから、いいよ〜買ってくれなくても〜」 「決めたくない?何でだ?物貰うのとか嫌いだったか…?」 もともとヘンリーの事は良く知らないし理解もあまり出来ていないが、本当にどう接して良いか分からなくなってしまった。 理解しようと近づけば、躱されて距離を置かれるような、そんな雰囲気がヘンリーにはある。 これ以上どう言っていいか分からず、ヘンリーから何か言ってくるのを待つ事にした。 そのヘンリーは、まだ焼き菓子を食べないで見つめている。 「理由が無くなっちゃうから…」 やっと喋ったが、ガイアには理解出来る言葉ではなく、反復してしまう。 「理由?」 「ガイアと一緒にいる理由。蜂の巣も採れなくなっちゃったし、物まで貰ったら一緒にいる必要も理由も無くなっちゃう」 「…俺と一緒にいたいのか?」 「うん〜。でももう一緒にいられる理由、無くなっちゃったね。あはは」 急に胸が締め付けられるような罪悪感に気持ちが支配され、ヘンリーの顔をまともに見れなくなってしまった。 結局はルフレが言ってた事が正しかったという事か…。 ずっと焼き菓子目当てだと思いながら接してきて、とりあえず何か買ってやれば良いと思っていた自分を責める。 冷たく接したつもりはないが、寂しい思いを今させているんだと感じた。 どうにかそんな思いから解放してあげれないかと言葉を探して伝える。あまり気の利いた言葉は出てこないが…。 「理由なんていらないだろ?一緒にいたけりゃいていいんだ」 「必要ないのに一緒にいるのって迷惑じゃない?邪魔じゃないの?」 「そんなわけないだろ。必要ないから駄目だなんて誰が決めたんだよ」 必要の無い奴は要らないという事か…。どういう環境で育ってきたのかと改めて考えてしまった。 要らない子と言われて育ってきたのかと思うと、何とも言えない気持ちになる。 すぐに考えを変える事は難しいだろうと、一緒に居ても良い理由を探し提案する。 「そうだな…。これからは一緒に蜂の巣でも採りに行こうか」 「え、良いの?」 「ああ、一人より二人の方が効率良いだろ。その後はいつも通り焼き菓子作ってお茶でもしよう」 「呪い使っちゃ駄目なんでしょ?僕、邪魔じゃない〜?」 「使わなくても平気だろ。手伝ってもらえれば俺が助かるんだよ。それじゃ駄目か?」 駄目かと訊かれて、ヘンリーは複雑な顔をしている。 ガイアとしては、喜んでもらえると思って言ったのだが…。 「ガイア、無理してない?邪魔なら邪魔って言っていいんだよ?僕が勝手に一緒にいたいって思ってるだけだからね〜」 「いや…違う…」 言葉って難しいなと思う。それじゃ、とか言われりゃ確かに良い感じはしない。苦肉の策ってヤツに聞こえなくもないことは確かだ。 さてどうしたものかと、焼き菓子ではなく紅茶を飲みながら考える。 ヘンリーはすっかり食べるのをやめて、焼き菓子を眺めるだけになってしまっている。 常時手にしていた焼き菓子も今は持っていない。 その手を見て、ふとある事を思いつく。 「おい、ヘンリー。左手出せ」 「ひだりて?」 出された左手を掴み、ポケットから出した物をヘンリーの薬指にはめた。 「これって指輪。て、え?ええええ〜?」 すぐ理解出来たらしく、流石に引いてしまっている。 「ま、形だけな。これなら一緒にいる理由とか心配する必要ないだろ。いや、サイズもピッタリで驚いたな」 ヘンリーの手を掴んだまま、ガイアは指輪のピッタリはまった指を感心して見つめている 「女の子にあげるために用意してた物じゃないの?僕が貰うのおかしくない…?」 まだヘンリーは引き気味にしている。 ただ引いてはいるが、嫌がる素振りをみせていないのは、ガイアにとっては救いだろう。 「いや、あげる相手はいないんだ。用意はしておこうと思って作ってただけだから、ヘンリーにピッタリで良かったよ」 「良かったのかなあ〜。なんか変な気分だよ〜?」 「そうか?まあ、恥ずかしかったら外して持ってるだけで良いよ。これで、いつでも一緒な?」 やっと理解出来たのか、ヘンリーは指輪を眺めて微笑んだ。 「うん。ガイア、ありがとう〜。無理させちゃったかもしれないけど、嬉しいよ〜」 「だから、無理してないって…。なんなら、誓いのキスもしてやろうか?」 「え〜?」 「指輪受け取ったんだから、それぐらいの覚悟は出来てるんだろ?」 「えええええ〜〜〜?」 ちょっと悪ふざけが過ぎるかと思いながら、ヘンリーの頬に手を添える。 盛大に引いてみせたヘンリーだったが、添えられた手を払いのけたりはせず、自分の手をその上に重ねた。 ガイアが顔を近づけると、ゆっくり目を閉じる。 そして、キスを交わす。 お互いの気持ちを確かめ合い、ヘンリーは指輪を眺めて言う。 「指輪、着けとこうかな〜。訊かれたらガイアがくれたって言っちゃおう〜」 「引いてたわりには積極的だな…。いいぜ、別に。これだけ一緒にいる時点でアヤシイからな」 これからは、蜂の巣採り意外でも一緒にいる事が多くなるだろう。 隠し通すのは流石に面倒くさい…。 「じゃあ、披露宴でもするか?」 「え〜、それはちょっと…」 今日は引くヘンリーを何回見ただろうか? そんな事を考えながら、幸せそうに焼き菓子を頬張るヘンリーをガイアは眺めていた。 ーーーーーーー おわり なんか、ヘンリーの「えええ〜〜」で始まって「ええええ〜〜〜?」で終わったみたいな…。 もっとロマンチックに指輪ネタやりたかったですね…。 ヘンリーがドンびきしてるっつーなんとも雰囲気がないモノに。 ヘンリーは大抵の事は抵抗無く受け入れると思うんですが、流石に女の人にあげる指輪を貰うのは抵抗あるんじゃないかと…。 UP |