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FireEmblem 覚醒:無題
絵と文とか

FireEmblem覚醒

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いつものガイヘンで。
過去はいつも通り痛く捏造。
そして、痛く辛い展開です。そして、変な男が出てきます。そういうのが苦手な方は読まないように。
最後はお約束?でハッピーエンドです。




野営地を離れて、久々に一人で買い物をする事になった。
いつもは連れがいてデートのようなコースを巡り、甘い菓子をいっぱい抱えて野営地に戻るのだが、今日は「甘い菓子」ではなく目的は「呪いの道具」だ。
一緒に買いに行くとしても、呪いの知識がなければ見ていてもつまらないだろう。じっくり品定めをするのも、相手を待たせてしまい申し訳ないと思う。
なら「一人で行ってくるね」と伝えて、一人で出かける方がお互い気が楽だ。
彼は菓子の材料を抱えて「帰ってきたら一緒に茶でもしよう」と、笑顔で送り出してくれる。
その言葉が嬉しくて、時間をかけて買い物をしようと決めていても「早く帰ってくるからね〜」と笑顔で言ってしまう。
なんとなく新婚夫婦みたいだね〜と笑いながら、大きく手を振って野営地を後にした。


イーリスに来て、こんなに幸せになれるなんて…


街に着き数件店を物色し、必要な物や気に入った物、そして使えそうな呪いの道具を数点購入する。
そして最後に菓子屋に寄って、ガイアの好きそうな甘い菓子を探す。
「新作の菓子って書いてあったから、ガイア喜ぶかな〜?」
店を出て幸せそうにヘンリーは菓子袋を眺めた。
きっと帰ったら、菓子を焼いて待っていてくれてるんだろうなと想像し、自然に笑みがこぼれる。

早く帰ろうと歩き出す。が、人にぶつかってよろめいてしまう。
「あ、ゴメンね〜」
すぐ頭を下げて謝り、急いで落とした荷物を拾おうとかがむ。
「奇遇だな」
「ん?」
声をかけられ誰かな?と顔を上げると、そこには確かに見知った顔があった。
「よう、ヘンリー。久しぶりだな」
「あ…」
それ以上、口から声は出てこなかった。
「まさかイーリスで会うとはな」
その男はニヤニヤしながらヘンリーを見下ろす。
だが、ヘンリーの顔にはいつもの笑顔はない。
「どうして、ここに…」
「ペレジアがどうなってるか知ってるだろ?施設ももう無ぇ」
「…」
「これも何かの縁だよなぁ?久々に付き合えよ」
「ご、ごめんなさい…」
今がすごく幸せで忘れかけていたが、とっさに口をついて出た言葉で、一気に過去へ引き戻された気がした。
忘れたと思っていた感覚を思い出し、身体が恐怖で硬直する…。
「謝っても無駄だって、教えてやったじゃないか。忘れたか?」
「本当に、ごめんなさい…」
「おいおい、成長してねえなぁ?施設が無くなって、つまんねぇんだよ。せっかく会えたんだから、昔みたいに楽しもうや」
そう言って、強引にヘンリーの腕を引っ張って立たせる。
「許して…」
「あー、そうだ。施設に居たガキの居場所は大体把握してる。どういう意味かわかるだろ?俺は拒否されても痛くも痒くもねぇんだよ」
「…」
「お前は冷徹なようで完璧じゃねぇ。大事なモンがある時点で甘ぇんだよ」
「…荷物」
「ソレが大事なモンだってか?そんくらい持ってやるから、もたもたすんな。ほら歩け」
背中を押され強引に歩かされる。
本当は逃げたい、助けを呼びたい…。でも、今の自分は抵抗できない。…してはいけない。

結局、過去から逃れる事はできないんだ。
やっと手に入れた幸せは、闇に塗りつぶされて見失ってしまう。
やっぱり僕は幸せにはなれないんだ。
幸せになっちゃいけないんだって…


ガイアがくれた幸せを僕は掴みきれなかったんだ……


「ヘンリーのやつ遅いな…」
呪いの道具は種類が豊富だということは、なんとなく知っている。自分が菓子に没頭するのと同じで、きっと悩んでいるのだろう。
「いや、それにしても遅すぎるだろ…」
リズの夕飯を知らせる声が天幕の外から聞こえてくる。
その声を聞きながらガイアは、ヘンリーが戻ってくるまでにと拵えた菓子を眺めて溜め息をつく。
「とりあえず菓子は、夕飯後でも良いか…」
そう呟き天幕を出た。

食堂代わりに解放された広間に着き、二人分の食事を配給係から受け取る。
「あら、ガイア。二人分は食べ過ぎじゃないの?ソールじゃないんだから」
「ん?ああ、ルフレか。いや、これはヘンリーの分だ。まだ街から帰ってきてないから、確保しといてやろうと思ってな」
きっと時間を忘れて買い物をし、腹が減ったと笑いながら帰ってくるだろうと。
「…駄目だったか?」
「駄目じゃないけど、ヘンリーなら戻ってきてるみたいよ?さっき、見かけたけど…」
「え?」
「自分の天幕にでも居るんじゃない?夕飯時だし、呼んであげたら?」
「あ、ああ、そうだな…」
帰って来てるのに一言もないなんて、行く前のヘンリーからは想像出来ない。
何かあったのかと考えてみる…。例えば、金が足りなかったとか、欲しい物が品切れだったとか…?流石にそんな事で、ヘソは曲げないと思うが…。
真剣に腕を組み考え込んでいると、ルフレが不振な目で見てきていた。
「何かしたの?」
「するわけないだろ…、むしろ菓子を作って帰りを待ってたくらいだ」
「それはそれで、あやしいくらいに仲が良いのね?」
今度は笑顔をガイアに向けてくる。きっとヘンリーとの関係を推測しているのだろう。
「ほ、他の奴には言うなよ」
「はいはい、早くヘンリーのところへ行ってきたら」
「ああ、そうする」
つい口が滑ってしまったが、ルフレなら平気だろう。
それより今はヘンリーの事が気になる…。

天幕の入り口を開け、声をかける。
返事は返ってこないが、床に無造作に置かれた買い物袋や包装、そしてヘンリーがいつも付けている金色の装飾品が転がっているのを見つけ、居るのが分かった。
踏まないように歩き、寝台の前でもう一度声をかける。
「ヘンリー、どうした?」
「…」
やはり返事は返ってこない。
静かな部屋でヘンリーの息づかいだけがハッキリと聞こえてくる。
それはいつもより荒々しく、壁を向いて丸めた背中が小刻みに震えていた。
「何があった?」
尋常ではないと思い、肩を掴み強引に自分の方を向かせる。
「あ…」
「ヘンリー!?」
表情より先に、腕に目がいってしまった。
まくれた袖から見える腕には、切り傷にも似た無数の痕が付いている。
賊にでも襲われたのか?と一瞬思ったが、血肉の付いた爪を見てヘンリー自身がつけた傷だと分かった。
「自分でやったのか…」
「…」
触れた手は冷たく血の気を感じない。
何があったか訊きたかったが、強引に訊く気にもなれなく…。
「…手当をしたほうがいいな」
「ガイア、僕のことはもういいよ。やっぱり駄目みたい…僕は幸せになっちゃ駄目なんだよ。だからもう構わないで…」
ヘンリーはうつむき、ガイアは無言で肩を抱き寄せた。そして、優しく腕を取り傷の深さを確認する。
爪で傷つけた皮膚はボロボロで滲んだ血が痛々しい。どれだけ、強く掻きむしったのかと思う。
「…とりあえず、手当だ」
「ヤダ、優しくしないで…」
「それは無理だ。大事な奴をほっとけるわけないだろ」
「…ガイア」
不安そうに顔を上げたヘンリーの頬に、ガイアは優しく触れ額に唇を寄せた。
「少し待っててくれ、手当の用意をしてくる」
「待って、ガイアッ!」
立ち上がってガイアは出口に向かうが、らしくないヘンリーの声に足を止めて振り向く。
「構うなって言っても無駄だぞ?」
「ガイア、助けて…。昔に戻りたくない、もう苦しいの嫌だよ。僕だって幸せになりたい、ガイアと一緒に居たいよ…」
初めて助けを求められた気がする…。その顔は苦痛に歪み、今まで誰にも頼らないで生きてきた奴だなんて想像出来ない。
頼ってもらえるのは嬉しいが、この状況では喜ぶ気にはなれない…。
「街で何があった?いや、誰に会った?」
「施設の…人に」
「ペレジアの時のか、それで…」
昔と言うのだからイーリスでの事ではないだろう。
施設で育った事は何となく知ってはいた。そこでどのような仕打ちを受けていたかも…。
「僕が拒否したら、他の施設に居た子に迷惑がかかるから…」
「…どうしてそんな時だけ優しいんだよ。お前は…」
自分を大事にしろよ。と、聞こえないくらいに呟き、優しく抱き寄せる。
「仲間を守るのがイーリスだから。僕は学んだんだよ、ここで色んな事を」
「…ヘンリー」
学んだ結果がコレかと、名前に続く次の言葉が出てこなかった。
ヘンリーがイーリスで学んだ事は悪い事じゃない。それは分かっている。分かってはいるが、今は褒める気にはなれない…。
「ゴメンね、ガイア」
「謝るなよ。俺が助けてやるから」
「ゴメンなさい…」
「ヘンリー、そこは「有り難う」だろ?」
そう言って優しくヘンリーの頭を撫でる。
「そいつの特徴を教えてくれ。それと、次は何時何処で会うんだ?今日で終わり…じゃないんだろ?」
「明日…」
「まさか毎日のつもりじゃないだろうな…」
何考えてるんだと溜め息が出た…が、それはすぐ怒りに変わった。人の弱みに付け込んで好き勝手やるなんて、最低な人間のする事だ。
そして最悪な事態を想像し、野営地に戻ってきてくれて本当に良かったと心の底から思う。
「ガイア、どうするの?」
「イーリスから出て行ってもらうさ。二度と戻って来れないようにな」
「そんなこと出来る?」
「俺の職業を忘れたか?」
余裕な表情でガイアはヘンリーを覗き込む。
頼もしいガイアの台詞に安堵し、少しヘンリーの表情が和らぐのが分かった。
「依頼料、高そうだね」
「そうだな、ヘンリーの笑顔で手を打とう」
「あはは、タダだね〜それ」
やっと笑顔を見せたヘンリーに、ガイアは優しく微笑んだ。
「やっぱり、お前は笑顔が一番似合うよ」
「うわ〜、言ってて恥ずかしくない?」
「訊くなよ、恥ずかしくなるから…」
「ふふ」
微笑むヘンリーに満足し、ガイアは傷ついた腕に優しく触れる。
「よし、傷の手当てをしてしまおう」
「うん。ありがとう〜、ガイア」
「治療費は取るからな?」
「え〜」


もう一度、幸せを掴めるかな…


次の日、目を覚ますと、隣で寝ていたはずのガイアが居ない。
何処へ行ったのかな?と身体を起こし、机の上に置かれた食事が目に入る。
食事は多分、朝食だろう。パンが主体のヘルシーな感じが、何となく朝っぽい。
パンを手に取って一口噛み、飲み物を手にしようとしてメモに気づく。
「えっと…「出かけてくる。しっかりメシ食って、甘い菓子でも用意して俺の帰りを待ってろ」」
メモを取って、声に出して読み上げる。
誰が聞いてる訳でもないが、ちょっとだけガイアの口調をマネして…。
「ふふ、難しいな〜。あ、そういえば、昨日買った菓子が…」
何処に置いたかな〜と、パンをくわえたまま天幕を探し始める。
腕は包帯だらけで痛々しいが、ヘンリーは鼻歌まじりに歩き回った。

何の確証もないが、絶対ガイアが助けてくれる。
そして何事も無かったかのように、僕に幸せを分けてくれるんだ。


…そう信じてる。


ガイアは街の裏路地を行き、一軒の古びた酒場で足を止めた。
ここは、クロムに出会う前に、よく出入りしていた店だ。
扉を開け中に入ると、うさんくさい奴らがテーブルを囲み賭博に没頭している。
酔いつぶれて床に転がってる輩も居て、煙草と酒の臭いが鼻につく。それは昔と何一つ変わっていない。
良い思い出は特にないが、悪い思い出もそれほどなく、少しだけ懐かしさに浸りながらカウンターの席に座る。
「久しぶり、マスター」
「ああ、ガイアか。久しぶりだな。儲かってるか?」
「今は…まあ、個人営業ではないから、なんとも」
ほう?と、白髪まじりのマスターはグラスに酒をつぐ。見た目は50くらいのオッサンだが、かなり前から変わっていない気がする…。
「いや、飲みに来たんじゃないんだ」
「サービスだよ」
そう言われても、酒に手をつける気ににはなれず、グラスはそのままに話しを切り出す。
「訊きたい事がある」
「依頼か?今日はオマエ向きの仕事は無いよ」
「いや、違う。ここに来る客の事を知りたくてな」
「構わないが、店で問題を起こすのだけは勘弁してくれ」
「ああ、分かってる。そいつを見つけたらすぐ出るよ」

ヘンリーから聞いた情報を詳しく伝える。
いつからここに出入りをしていて、普段何をしているかは分からないままだが、ここに来いと言われたのなら姿を現すだろう。
ただ、店の者が何処まで客を把握してるか分からず、自分も顔を知ってる訳じゃない。
「結構特徴があると思うんだが…分からなければ、待たせてもらいたい」
「浅黒い肌ね、それだけでも十分だよ。最近来るようになったペレジアの人間ったら、そう多くないからね」
「…そうか」
店内を見回してみるが、確かに色黒の奴は少ない。
無法地帯の路地裏で、色んな国の人間相手に商売する者ならば、見た目で何処の人間かが分かるのだろう。
「今日、来るって言ってたのか?そのペレジア人は」
「ん、ああ…。俺が言われた訳じゃないが…」
「依頼か?たまには、ここの仕事も受けてくれよ」
「だから、もう個人営業じゃないって」
言って更に、俺向きの仕事は無いって言ってたじゃないかと、軽く突っ込みを入れる。
「お前みたいな奴が組織にいるのか?らしくないな」
「いや、それとは違うんだが…、まあ今は軍にいるよ」
確かに群れるのは好きじゃない。
ひとりでいる方が気楽で好きだが、イーリス軍は心地が良く愛着すら今は感じている。もちろん軍に留まる理由はそれだけじゃないが。
「やっぱり、らしくないじゃないか」
「…否定はしない」
酒は飲む気になれなかったが、一緒に出されたつまみを口にする。



カラン。
「…!」
反射的に、そいつが来たと分かった。
顔を見た訳じゃないが、とても気に食わない気配を感じ、吐き気がする。
「あいつだろ?」
マスターに言われ、念のため容姿を確認する。
そして、やはりそうかと席を立つ。
「おい、ちゃんと確認しろよ?」
「言われるまでもない」
だが、それ以上確認する気はない。もう、確定だろう。呪いではないと思うが、ヘンリーに「こいつだよ」と言われた気がした。
「世話になった」
一言マスターに礼を言い、ゆっくりカウンターから離れる。

「少し顔を貸してもらえないか?」
「誰だオマエ?」
いきなりのガイアの台詞に、当たり前の反応を返す。
男はどっかりとイスに座り、不快な表情でガイアを睨みつけた。
「誰でもいいだろ」
「俺は忙しいんだ。名乗れねぇんなら失せろ」
面倒くさそうに言い、ガイアから視線を外し、どっか行けと手で払う。
そんな態度を取られたところで引き下がる気はない。
「男、待ってんだろ?」
「あ?」
言われて男は顔を上げる。
それは明らかに「何故知っている?」とガイアに問う顔だ。
「多分、そいつは来ないぜ。代わりに俺が相手してやるよ」
「何言ってやがる…」
「言葉通りの意味だ。店を出ようぜ」
男の肩を掴み無理矢理立たせ、強引に引っ張って出口に向かった。



店を出て路地裏を更に奥へ進み、ひとけの無い場所で足を止める。
周りを見渡すが、人はもちろん生き物すら見つけられず、下に目を向けると骨らしき物が散乱していた。
ここなら何が起ころうと、人の目に留まる事はないだろう。そう、何をしようと…。
「さて、ここら辺で良いか」
ガイアは足を止め、男の肩を投げるように解放する。
「言っとくが、逃げようなんて馬鹿な事は考えない方が良い。俺は強いぜ?」
「俺をどうする気だ…」
「イーリスから出て行ってもらう」
「あ?何の権限だそりゃ」
「さあな。二度と戻って来れないようにしてやる」
「ペレジアに帰れと?」
「いいや、ペレジアじゃ甘いな。また戻ってくるかもしれないだろ?二度は無いと言ってるんだ。二度とヘンリーの前に現れるな」
この男の前で初めてヘンリーの名前を口にした。
名前を聞いた男は、にやついた表情でガイアを見る。想像はできていたが、やはり胸くそ悪い。
「なるほど、そう言う事か…。なかなかの淫乱だなアイツ。男だがな、クク」
「言いたい事はそれだけか?」
「分かった分かった、謝るよ。それで良いだろ?もう姿は現さねぇよ」
「それは甘いな」
無表情でそう呟き、腰の剣の柄に手をかける。そして数歩進み、男に近づいた。
「な…、どうする気だ…?」
ガイアが進んだ分、男は後ろへ退く…。
「最近、盗賊からクラスチェンジしたんだ。アサシンってヤツにな」
「何の話しだ…?」
「ん?ああ、こっちの話しだ。アサシンは暗殺者とも言う。今の俺にピッタリな呼び名だろ?」
言いながら、剣を鞘から抜き、男に向ける。
「なっ、やめろ…」
「ちょっと暗殺とも違う気はするが…。まあ、良いだろう」
「や、やめてくれ!許してくれっっ!!」
逃げようとする男に、ガイアは素早く詰め寄り、肩に手をかける。
力を込めた手が肩に食い込み男は悲鳴を上げる。振り払う事ができず、足はすくみ恐怖の表情でガイアを見上げた。
廃屋の隙間から微かに太陽の光が差し込む。高く上げた剣にそれは反射し、男は剣先を見失ってしまう。

「お別れだ」



…今度はちゃんと、幸せを掴めたかな?


天幕と野営地の出入り口を何度も行き来して、ルフレに会うたびに笑われてしまう。
そんな事を数えきれないくらい繰り返す。
「ヘンリー、少しくらいじっとしてたら?疲れちゃうでしょ?」
「ん〜、落ち着かないんだ〜。ガイアに早く…あっ!」
ヘンリーは会話を一方的に中断し、走って野営地の入り口に向かう。
その姿を目で追い、ルフレは野営地に入ってきた人物を見て微笑んだ。

「ガイア、おかえり〜!」
「と、迅速な出迎えだな…」
「ふふふ」
満足そうに笑うヘンリー越しに、ルフレと目が合う。
「おかえりなさい、ガイア。帰ってきてくれて良かったわ〜。そろそろヘンリーが転ぶんじゃないかって心配してたのよ」
「ただいま。って、何してたんだ?おまえ…」
ルフレに言われて、ヘンリーに視線を移す。
ヘンリーは笑顔でガイアを見てくるだけで、訊かれてもルフレの言葉に補足はしなかった。
「甘い菓子、用意しといたよ〜」
「あ?ああ…」
「天幕に早く〜」
「そう急かすなよ…」
ヘンリーの後ろを歩きながら、ちらっとルフレの方を見ると、こっちを見て笑っている。
「愛されてるのね〜」
「はあ?」
「ガイア、早く〜」
「あ、待て!引っ張るなって…」
ルフレに何か言い返そうと口を開くが、ヘンリーにマントを引っ張られ、そっちに気が行ってしまう。
その様子を見て、ルフレはもう一度笑った。


天幕に入り、ヘンリーは笑顔で菓子の包み紙をガイアに渡す。
「はい、約束の菓子だよ〜。昨日買ったヤツなんだけど、新作なんだって〜」
渡されてガイアは、小さく息を吐いて微笑む。
まるで何事もなかったかのように振る舞うヘンリーに、街でしてきた事を言っていいモノかどうか悩んでしまう…。
「ねえ、ガイア。食べよう?」
「あ、ああ。茶の用意してくる」
とりあえず、ヘンリーのペースで事を進める。
そのヘンリーは菓子の事を繰り返すだけで、結果を訊いてこなかった。

茶の用意をして、イスに座り新作だと言う菓子を手に取る。
ヘンリーも隣に座って、菓子を満足そうに眺めていた。
「美味しい?」
「ああ、甘くて、すぐ口の中で溶けて、これは何個でもいけるな」
「あはは、良かった〜」
じゃあ僕も〜と菓子を一つ口にする。
その様子を見ながら、ガイアは言いにくそうに口を開いた。
「なあ、ヘンリー。その、訊かないのか…?」
「ん、なにを〜?」
もぐもぐと口を動かしながら、紅茶を手にする。
一気に口に入れ過ぎだ…と思ったが、今はそこに突っ込みを入れるタイミングではないだろう。
「今日、俺がしてきた事」
「訊かなくても分かるから」
「呪い…でか?」
呪いは何でもアリだ…と思ってしまうのは、偏見だろうか?むしろ、遠隔で呪い殺せるんじゃないだろうかと、自分のしてきた事に対し少し疑問を感じてしまう…。
「ううん、違うよ。血の臭いがしたから」
「…」
「ゴメンね。ガイア、イヤな思いしたよね」
「謝るなって。これくらいなんて事はないさ」
相変わらず謝ってくるヘンリーに、余裕の表情で答える。
遠隔で呪い殺せるような呪術士でも、そりゃ人に助けてもらいたい時だってあるだろうと。
いや、本当に遠隔で殺せるかどうかは知らないが…。
「僕のせいで、ガイアの手、汚れちゃった…」
「はあ?なに言ってんだ?俺の手は、いつも奇麗だよ」
「でも、血の臭い…」
「ああ、テキトーに大きな戒めの痕を付けてイーリスから追い出した」
「じゃあ、生きてるの?」
「まあ、何処に追い出したかは企業秘密だ。だが、もう二度と遭う事は無い。お前専属の暗殺者が居る限りな」
「あはは、ガイア面白い事言うね〜」
「おい、そこ笑うとこじゃないだろ?」
決めたつもりの台詞を笑われ、締まりが悪く格好がつかないと、ヘンリーに文句を言う。
「だって、ルフレがアサシンの次はトリックスターだって〜」
「じゃあ、お前専属のトリックスターだ…」
「なんか、変だよ〜」
「苦情はルフレに言え…」
天幕に入る前に見たルフレの笑いを思い出し、何とも言えない気持ちになってしまう。
そして後で自分もルフレに文句を言おうと心に決める。

とりあえずレベル20まではヘンリー専属の暗殺者だ。
その後の事は…まあ、職種は考えないでおく事にしよう…。

ヘンリーを守れれば良い。
幸せになってくれれば、それで良いんだ。



…きっと幸せを掴めただろう。





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おわり。

まず、ガイアが人を殺したかどうかは企業秘密です。
ヘンリーにしろガイアにしろ、今までも殺しの描写が全くなかった訳じゃないので、どっちでも良いんですが…。
殺してたとしてもヘンリーには伝えないと思います。
お前のために殺してきたぜ!なんて、私のガイア像には無い…。
ヘンリーも僕のために殺してきてくれて有り難う!は私の中には無い…。

最後の下りは、ルフレのせいで台無しです。
後味悪くならないように〜と、可愛くしたかった(らしい)

そして、途中途中に入る「〜掴めた〜」とかは、最後のみガイア視点の言葉になってます。
というか、なってしまった…そんな感じです。
あれ?最後ヘンリーぽくねえな?と、思ったらそれはガイアです。

最後は意地でもハッピーエンドです!
痛い話しではありますが、最後まで読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字は〜


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