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FireEmblem 覚醒:スキキライの菓子
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FireEmblem覚醒

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食べ物のお話です。





程よい日差しと優しく肌を撫でるような風がたまらない野営地の広場。
雨も降らず強い風も吹かない、ここで食べる食事は格別なうまさだ。
特に腹を空かした戦闘後の食事は最高に美味い。
そう、いつものメニューでどんな食材であろうと美味しく食べることが出来る。

「残ってるわよ?」

「ん?」
食事を終え、食器を重ねようとしたところで、横から声をかけられる。
「それ」
食器の中に残っている緑色の物体をこの軍の軍師ルフレは指をさす。
それは肉と一緒に合えてあったモノだが、今は一緒にいた肉と離されソロの状態だ。
「苦手なんだよ…」
「良いトシして好き嫌い?味はイマイチでも栄養がいっぱい詰まってるのよー」
「それは分かってるが、パサパサしてて苦いのがな…」
嫌そうに皿の上に残った食材を眺めながら言うと、ルフレは呆れ口調で小さく呟く。
「…子供みたい」
「じゃあ、僕が食べてあげようか〜?」
後ろから声がして振り向くと、呪術士が微笑みながら立っていた。
「駄目よ、ヘンリー。甘やかしちゃ」
「あはは、ご飯食べてないんだよね〜」
お腹を擦りながら呪術士のヘンリーは言う。
「また忘れちゃったの?」
「術に集中しちゃうと忘れちゃうんだよね〜。今、貰いに行ったんだけど、僕の分が無かったんだ。誰か食べちゃったのかな〜?」
「ん〜、ソールかしらね?いつも足りないみたいだから…て、食べられちゃう前に来なきゃ駄目よ」
「は〜い」
返事をしながら、ちゃっかり皿の上の残り物を頬張っている。
食べて良いとは言ってないが、まあ腹が減ってるんだろう…。
あの苦いパサパサした食材を美味そうに食べ満足そうに微笑んでいる。
「なあ、ヘンリー。それだけじゃ足りないよな?」
「ん〜?美味しかったよ〜、有り難う〜」
自分が残した物を美味しそうに食べて礼まで言ってくる姿に、少し罪悪感を感じてしまう。
そして苦手だと残した自分が少し情けない。
「礼なんてしなくていいのよ。ガイアが嫌いだからって残した物なんだから」
「まあ、確かに礼はいらないが…」
だからと言って自分以外の奴に言われるのは少し癇に触る。
「何か言いたそうね?」
「い、いや…。まあ、誰だってキライな食べ物くらいあるだろ?」
「僕は無いよ〜、食べ物は大事だよ〜」
「そうよねー、栄養とらないとねー、糖分だけじゃ駄目よねー」
ルフレとヘンリーは相づちを打ち合って、こちらの意見に賛同しようとしない。
好き嫌いってそんなに駄目なことなのか?と、つい愚痴ってしまう。
「ヘンリーなんて栄養が足りてるようには見えないけどな」
「僕は食べ忘れただけ〜、好き嫌いはしないよ〜」
「そうよねー、食べ忘れるのは褒められないけど、好き嫌いはしてないもんねー」
「…」
こんな兄になってはいけませんよ…と、母が弟に言聞かせる台詞だ。
おかげさまで母と子供二人の日常が頭に浮かぶわけだが、ルフレは母親じゃないしヘンリーは弟ではない。
この居たたまれない状況はなんなんだ…。
「ヘンリー、あれだけじゃ足りないだろ?俺の菓子をわけてやるよ」
「本当〜?」
「ああ、さっさと俺の天幕に行こうぜ!」
ヘンリーの笑顔を見て、本当に腹が減っていたことが分かる。まあ、いつも笑顔だが…。
背中を軽く押し、こっちだと自分の天幕の方向を指差し、言葉通りさっさとこの場を後にする。
背中にはルフレの視線が突き刺さるわけだが、ルフレ母さんの小言はもう食べ飽きた。


逃げるように夕食の場から離れ、天幕でやっと食後の一息をつく。
「助かったぜ」
「あはは〜」
あとから入って来たヘンリーにガイアは軽く礼をし、菓子をテーブルに並べた。
「ほら、菓子。それと飲みモン」
「ありがとう〜」
ヘンリーは出された菓子を手に取り口に運ぶ。
そんな様子を見つつガイアは飲み物を注いだ二人分のコップをテーブルに置く。
「ねえねえ、他に嫌いな食べ物ってある〜?」
もぐもぐ菓子を頬張りながらヘンリーは言う。
人の嫌いなもんなんて聞いて、何が面白いのかと思うが…。
「数えきれない程あるな。特に甘くないもんは嫌いだ」
「あはは、それって殆どそうなんじゃ〜?」
「大体は我慢して食べてるけどな」
言いながら甘いもんに舌鼓する。
我慢しなくて良い甘いもんは、やっぱり最高の食べ物だ。
「今日のは〜?」
「あれは我慢しても食べれない。本当に嫌いなんだよ」
思い出しただけでもテンションが下がる。
あんな食いモンをよくガツガツ食えるなと思う。
「ふ〜ん」
「まっ、食べなくたって死にはしないさ」
「栄養のある食材だよ〜?」
菓子を口に運びながら、ヘンリーは首を傾げる。
嫌いな食いモンが無い奴にしてみれば、理解できないことなのだろう。
「それは分かってるよ。でもまあ、他の栄養あるもんで補えるだろ」
「まあね〜」
お互い何を納得したのか、頷き合って菓子を頬張る。
これからはヘンリーに嫌いなモンを食ってもらうのも手かもしれない、なんてつい思ってしまう。
見た目、食が細そうなヤツだが…。


数日、嫌いなもんがテーブルに並ぶことなく、平和な飯を口にした。
だが、その平和は今日の夕食で終わりを告げる。
「せめて一週間サイクルにしてくれ…」
大きな溜め息をつき、皿の隅っこに数日前ヘンリーに食べてもらった食材を寄せる。
今日もタイミングよく登場してくれればと願うが…。
「そうウマくはいかないか」
残した食材を皿と皿の間に挟め、ルフレに会う前にとササッと片付ける。
「ガイア〜」
「!?」
挟んだ食材を何処に捨てようかと、キョロキョロしていると後ろから声をかけられる。
「ヘ、ヘンリーか…」
「ふふ、ルフレだと思った〜?」
「い、いや…」
どうでも良いことはすぐ忘れてしまいそうな奴なのに、口ぶりからして数日前のことを覚えているようだ。
目線はしっかり残した食材に向けられており、少し後ろめたさを感じてしまう。
「えーと…、腹空かしてるか?」
「ん?ん〜、今日はちゃんと食べたよ〜」
「そっか」
じゃあ捨てるしかないかと、もう一度捨てる場所を求め周囲を見回す。
「ね、ね、この前のお礼にと思って、お菓子を持って来たんだけど、天幕に行って良い?」
「礼?別にいらないが…」
むしろ嫌いなモンを食べてもらったこっちが礼を言うべきなのだが…って、礼は数日前に言ったが…。
いや、タダで菓子が貰えるんだ、ここは素直に礼を受け取るべきか。
「じゃ、天幕に行くか」
「は〜い」
まあ深くは考えないでおこう…。


数日前と同じく天幕に入り、飲み物を用意する。
「お前も食べてくだろ?」
「ん〜、じゃあそうしようかな〜」
一瞬考えてヘンリーは持っていた袋をテーブルの上に置き、中から菓子を取り出した。
テーブルの上に置かれたそれは、形が歪で不揃いなうえ色も菓子らしくない。
「手作りか?」
「うんうん」
ヘンリーは頷くが、コイツが料理できるとは思えない。
「お前の?」
「ん〜、少しだけ正解〜」
「なんだそれ」
呪いで料理〜なんて言ってきそうな口ぶりに、少し警戒してしまう。
そんなデタラメな料理を食べさせられるのはゴメンだ。
「僕がひとりで作れると思う〜?」
「いや」
と警戒したが、本人も自覚しているようだ。
「ガイアのために協力してもらったんだ〜」
「俺のため?」
「うん、誰だか知りたい?」
「いや、別に」
話題作りに聞くのもアリだが、そこまでして会話をつくる気はない。
協力者が誰なのかは気にならないわけでもないが、聞くほど気になるわけでもなく…、つまりは興味がない。
「ふ〜ん、じゃあ食べてみて〜」
「ああ、いただきます」
そして会話は思った通り途切れてしまう。
別に会話を楽しむためヘンリーはここへ来たわけではない。
自分も会話をしたいわけじゃなく、気になるのは菓子だけだ。
「ん…」
「おいしい?」
見た目とは裏腹に自分好みの甘さと味だ。程よい堅さで舌触りも良い。
食べる前は不安しかなかったが、予想以上の美味さに満足げな表情を浮かべる。
「ねえ?」
不安そうにじっと見てくるヘンリーと目が合い、ハッと我にかえる。
美味しさのあまり、すっかりヘンリーの存在を忘れていた…。
「あ、ああ、うまい」
「よかった〜、もっと嫌いになっちゃったら、どうしよう〜って心配してたんだ〜」
ホッとした表情を見せ、身を乗り出していたヘンリーは椅子に座り直す。
「もっと?」
「うんうん、ガイアのキライな食材」
「へ?」
思いがけないヘンリーの言葉に、思わず耳を疑ってしまう。
食べた菓子は確かに美味くて、あの苦手な食材の味はまったくしなかったが…。
「美味しかったのなら、大成功〜」
「…」
美味しかったとはいえ、気づかず食べてしまうなんて…。舌にはそれなりの自信があったつもりだったが…。
少しショックを受けていると、ヘンリーがもう一度心配そうに覗き込んできた。
「やっぱり、キライ?」
「い、いや…」
まさかの菓子の材料で、つい狼狽えてしまう。
口に残っていた菓子を一気に飲み込み、何とも言えない顔でヘンリーを見る。
「なんで俺に…」
「ガイアの苦手な食材だからだよ〜」
「だからどうして嫌いなモンを…」
「とっても栄養のある食材なんだよ〜、だからちゃんと食べないとね?他の食材でも良いけど〜、良く使われる食材だからね〜。毎回残してたらガイアは栄養が足りなくなっちゃうよ〜」
いつもの口調だが、どことなく説教されているような…。
ルフレに感化でもされたのか、それとも本当に心配してくれてるのか?
「お前に言われたくないんだが」
「あはは、僕はちゃんと食べてるよ〜。たまに食べるのを忘れるだけ〜」
「ちゃんと食べろよ」
「ガイアもね〜?僕は心配してるんだよ〜」
「お前が?」
感化ではなく、後者の方。
いや、まだ分からないが…。
「うんうん。だめ?」
「駄目じゃないが、なんか意外だな…」
「そう?甘い物ばっかり食べてるのが目についちゃってね〜、心配だったんだ〜」
「そんなお前の前で菓子ばかり食ってたか…?」
「どうだろう?ついつい奇麗なお菓子に目がいっちゃうんだよね〜」
「なるほど。ありがとな、気を使ってもらって」
どうやら後者が正解のようだ。
ルフレのような保護者っぽい口調ではなく、ヘンリーの言葉で心配されるのは少し気恥ずかしく感じる。
叱られるのはともかく、他人に心配されるなんて慣れていない。
「どういたしまして〜」
「なあ、今度一緒に菓子でも作らないか?」
心配かけてしまったお礼のつもりで、ヘンリーを菓子作りに誘う。
ヘンリーが興味のある奇麗な菓子を作れるわけじゃないが…。
「嫌いな食材のレシピで〜?」
「ま、まあ、それでもいいが…」
「ん〜、レシピならあげるよ?ちゃんとメモしてあるからね〜」
メモをマントの中から取り出して、目の前でピラピラしてみせる。
その表情はいつもの笑顔でイヤそうには見えない。まあ、コイツの感情表現は普通と違うようなので、何を考えているかサッパリ分からないけれど。
「一緒にって言ってるんだが?」
「ん〜、でも僕はヘタだよ〜?ガイアの足手まといになるよ」
「そんなの関係ないだろ。一緒に作ろうぜって俺が言ってるんだからさ。二人で作った方が楽しいだろ?」
一緒に作った方が楽しいなんて、自分は何を口走ってるんだ?
今までの自分なら有り得ない発言だ。
「ガイアは僕と一緒に作って楽しい?」
「お前は俺と一緒じゃつまらないか?」
だが、ひとつの確信がある。
「ううん」
「だろ?」
「どうして分かったの?」
「お前は好きでもないヤツに、菓子作ったりするのかよ?」
しかもその菓子はタダの菓子ではなく、心配して作ってくれた気持ちのこもった菓子だ。
「ガイアは?」
「好きでもないヤツを菓子作りに誘うわけないだろ」
だから嬉しくて誘ってしまったんだ。
自分を気遣ってくれる人なんて、そう居ない。
「あはは、それって好きってこと〜?」
「ああ…って、お互い様だろ?」
「ふふ、そうかも〜」
そして好きって言い合える相手も、そう居ないはずだ。
同性、異性は関係ない。
好きという気持ちが芽生えてしまったことに素直になるべきだろう。

「ガイアの嫌いな食材で色んな菓子を作ってみたいね〜?」
「俺の嫌いなモンに固執しなくても良いんだぞ…」
「ふふ」
ちょっとした拒否を口にしてみるが、かえってくるのはいつもの微笑み。

他人の嫌いなモンにではなく、俺に固執しているのか?
なんて、流石にそれは自意識過剰か…。






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おわり。

食べ物の好き嫌いな話しです。
特定の食材は何なのかは決めていませんが…。
ガイアは野菜が嫌いそうというイメージで書いてみました。
ヘンリーは食に困ってそうな幼少期なので、好き嫌い無さそうかなーなんて…。
ガイアも食に困ってそうな幼少期かなーとは思うんですけど、昔は好き嫌い無かったけど甘い物に目覚めてからは好き嫌いが激しくなったというイメージ(妄想)が…。
そんなヘンテコ妄想から出来た作文です。
少しでも気に入っていただけたら幸いです。
誤字脱字が無ければ良いのですが…いつもですけど;
最後まで読んでいただき有り難うございます!


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