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FireEmblem 覚醒:見つけたモノ |
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少し風は強かったが、日差しが気持ち良い午後の昼下がり。 野営地から少し離れた森の中で、蜂の巣を探す男がひとり。木々を見上げながら歩いている。 「お兄さ〜ん」 蜂の微かな羽音に聞き耳を立てていると、どこからか人の声が聞こえてきた。 「…」 「そこのお兄さ〜ん」 この声、そして「そこのお兄さん」という台詞。 「……」 ああ、あの呪術士がクロムを呼んでるのか? 「お〜に〜さ〜ん〜!」 「………」 いや、しつこすぎる。 いやいやそうじゃない、クロムはココにいない。アイツは野営地に居るはずだ。 ということは…。 「俺を呼んでるのか?」 まさかなと思いつつ振り返ると、そこには想像通りのペレジア装束に身を包んだ呪術士が立っていた。 「うんうん、他に誰もいないからね〜」 周りを見回してみたが、確かに自分とコイツだけのようだ。 「で、何か用か?」 訊かれて呪術士は木の上を指差す。 「あれ、取ってもらえないかな〜?僕は木登りが苦手で〜…」 呪術士の指差した先を見上げると、木の枝に白い物が引っかかっているのが見えた。 「紙切れか?」 「魔道書の切れ端なんだけど、風で飛んでっちゃったんだ。古くてバラバラな本でね〜」 呪術士の説明を聞き、枝に引っかかってはためいている紙切れを眺めながら、ひとつ溜め息をつく。 「しょうがないな」 どこをどう見ても呪術士より、盗賊の自分の方が木登りのスキルは高いだろう。 少々面倒くさいが断る理由もなく、木の幹に足をかける。 …が、急に突風が吹き、木に登ろうとした体が風に煽られバランスを崩してしまう。 「おっと」 「あっ」 術士が空を見上げ、つられて上を向く。 そして木にかけていた足を地面に下ろした。 「残念だったな」 枝を離れ風に乗って飛んで行く紙切れを二人で見つめる。 「追いかけるか?」 どんどん小さくなる紙切れを眺め、呪術士に問いかける。 残念そうな素振りを見せた呪術士だったが、そんな態度はすぐに消え笑顔をこっちに向けてきた。 「大丈夫だよ〜、大した物じゃないから平気〜。ありがとう〜」 「そっか」 実のところ訊いたところで追いかける気はあまりなく、呪術士の言葉に安堵する。 なら紙切れのことは忘れて良いかと、蜂の巣探しを再開させようとした…が、もう用の無いはずのペレジア装束の呪術士は去ろうとしない。 「まだなんか用か?」 「ねえねえ、キミは何をしていたの?」 「俺か?まあ、ちょっと探し物をな」 言いながら辺りを見回す。 急いでいるわけじゃないが、性分なのか体が勝手に次の行動に移ろうとする。 「手伝おうか〜?」 「いや、大したモンじゃないんだ」 蜂の巣だなんて、甘い物に興味無さそうな奴には何となく言いたくない。 「さっきのお礼だよ〜」 「何もしてないけどな」 「でも、キミの時間使っちゃったからね〜」 「使ったってほどじゃないだろ」 確かに辺りを見回しながら会話をしているが、別に時間が惜しいわけじゃない。 ただの性分だ。 「そういえば、名前何て言うの?」 「訊くより名乗るのが先だろ」 これも性分。 「あはは、そうだね〜。僕はヘンリー、よろしく〜」 「俺はガイアだ」 「で、ガイアは何を探してるの?」 どうやら答えるまでこの場を離れる気はないらしい。 ずいぶん好奇心旺盛な呪術士だなと思う。じゃなくて、人の時間を使ってしまったという後ろめたさか?まったく理解できない感情だが…。 「まあ、蜂の巣だ」 「はちのす?」 ここは予想通りの反応だ。 何に使うかなんて、まったく想像できていないんだろう。 「このご時世じゃ、甘味料も手に入りにくくてな」 「あ〜、甘い物大好きなんだっけ〜、ルフレから聞いたことがあるよ〜」 ポンっと手を合わせヘンリーは言う。 何を納得してるんだと、呆れた表情でその仕草を見る。 「なんだよ、俺のこと知ってるんじゃないか」 「名前を聞いて思い出したんだよ〜」 「同じ軍なのにな」 さらに呆れてしまう。 確かに大所帯の軍だが、同じクロム直属の隊で、顔を合わせている方だと思うが…? 「あはは、お互い様だよ〜。僕、あっちのほう探してくるね〜」 「あっ…」 ガイアが立っている逆の方を指差し、ヘンリーは森の奥へ入って行ってしまった。 一瞬止めようと声がでかかったが、躊躇いのない背中を止める気にはなれず…。 「まあ、いいか…」 きっと暇なんだろうと適当に決めつけ、ヘンリーとは反対側の道を進み、蜂の巣探しを再開させる。 しかし、今日はまだ一つも発見できていない。 探しながら、つい自分が採れなくても、もしかしたら…なんて甘い考えが脳裏に浮かんでしまう…。 「甘すぎるな…」 もちろん考えが、だ。 「…甘すぎた」 暮れてゆく空を見上げ、ガイアは小さく呟く。 いつものようにちゃんと注意深く探していた。そう、探していたつもりだった。 ヘンリーに任せれば良いなんて、そんな甘い考えは直ぐに消えたハズだ。 じゃあ、何が甘過ぎたんだ? それは進行方向だろう。ヘンリーが向かった先は、これから自分が探索しようとしていた道だ。 呼び止められ足を止め、木に登ろうと移動して…。じゃああっちへ〜と言ったヘンリーをそのまま行かせてしまい、自分は適当に逆の方向へ…。 その適当な方向が駄目だったのだろう。別に来た道を戻ったわけじゃない。ちゃんと別の道を探して進んだんだ。ただ、その道で蜂の巣に出くわす確率が低いと感じていただけで…。 「で、収穫0。っていうのは、やっぱり自分の甘さだよな…」 ヘンリーを引き止め、自分がそっちに行くって何で言えなかったのだろう。 他人に蜂の巣奪取を期待したわけじゃないが、「まあ、いいか」がこの結果だ。 …とはいえ、面倒くさい。 これ以上考える気にはなれず、手ぶらのまま野営地に引き上げる。 少し日は陰ってきたが、まだ外は明るく屋外で夕飯の支度が進められていた。 まだ早いかと思いながらも、用意されたイスに座り飯が出来上がるのを菓子を眺めつつ待つ。 たまに忙しなく動く飯当番の奴と目が合ったりするが、手伝う気は毛頭ない。 もし手伝えと言われたら、自分の天幕に引っ込むまでだ。そして頃合いを見て顔を出す。 これもまた、面倒くさいからだ。 「ねぇ、ガイア」 名前を呼ばれ、菓子から声の主へ視線を移すと、そこにはこの軍の軍師ルフレが立っていた。 先ほどの思考が頭をよぎり、警戒心を表情に込めてしまう。 「今日、蜂の巣採りに出かけてた?」 そんな暇があったら手伝えとか、愚痴を言いに来たのだろうか。 やはり思考はすぐには変えられず、なかなか警戒心を解くことが出来ない。 「ああ、出かけてたが…」 「森でヘンリーを見なかった?」 「ヘンリー?」 まったく予想していなかった名前が耳に入ってきて、その名前を口に出してしまう。 この名前は、今日改めて知った軍の仲間の名前だ。 「覚えてない?」 「いや、見たな。紙切れを探してたぞ」 「やっぱり…」 「それがどうかしたのか?」 「まだ戻ってこないのよ」 「…」 つまりは、まだ蜂の巣を探しているということだ。 ルフレは知らない事実で、紙切れをまだ探していると思ってるのだろう…。 ただ、それを伝えると、ガイアのせいでヘンリーの帰りが遅いということになってしまうため、軽く言う気にはなれない。 下手したら、人使いが荒いとか注意される可能性だってある。 まったくもってそんなつもりはないが、自分のせいでヘンリーの帰りが遅いのに違いはない。 「大事な魔道書なのはわかるんだけど…」 「ん?大したモンじゃないんだろ?」 大事と言われ、聞き間違いかと訊き返す。 確か、あの呪術士は「大した物じゃない」と言っていたはずだ。 「とっても貴重な魔道書よ。古い魔道書で、同じ物は残っていないわ」 「へえ…」 「だからヘンリーは解読に必死だったの。凄い魔道書なのよ」 「へえ…」 そんな必死にも見えなかったし、残念そうにしたのも一瞬だった。 ルフレの口ぶりでは、かなり貴重な魔道書なんだろうなと予想はつく。だが、アイツからはそんな感じは全くしなかった。 「でも、諦めも肝心だから。このまま探しに行ったヘンリーまで戻ってこなかったら、シャレにならないわ」 「流石にそれは無いんじゃないか?」 そこまで思い詰めていたようには見えない。いや、早々に諦め、人の手伝いをしようとしたヤツだ。 あの薄っぺらな笑顔が頭に浮かび、ルフレの言う必死さは何も伝わってこない。 「考え過ぎだろ、暗くなったら戻ってくるって」 「だと良いんだけど…」 うーんと唸りながら、ルフレは自分の食事を取りに席を離れる。 どうやら話している間に、夕飯の準備ができたようだ。 なら自分もと、ルフレの後を追うようにガイアも席を立った。 食事を終え、辺りはかなり暗くなってきている。 何となく周囲を見回すが、ヘンリーの姿はまだない。 「ったく…」 人のために動くのは少々面倒くさい。 だが、蜂の巣を探してまだ森に居るんだとしたら、野営地に留まっているのは居心地が悪い。 もしかしたら、紙切れを諦めきれていない可能性もある。 「あの表情からは分からんが…」 などと呟きながら野営地を離れ、草むらをかき分け注意深く周辺を見回し、森の中を進む。 そう簡単に見つかるとは思ってはいないが、やはりヘンリーの姿はなく、紙切れも見つからない。もちろん蜂の巣もだ。 ピィピィ、ガサガサッ… 「ん?」 鳥の鳴く声が聞こえ、木の上に目を向ける。 「…鳥の巣か」 やたら騒ぐ鳥の声が気になり、巣のある木にのぼる。 「これか?」 親鳥が巣作りに使ったのだろうか?白い紙が巣から半分はみ出た状態で詰められていた。 それをひな鳥が腹を空かして啄み、別のひな鳥が邪魔だと鳴き声を上げる。 この紙が大事な魔道書かどうかは分からないが…。とりあえず、取って確認するしかないだろう。 「鳥どもには悪いが…」 巣に手を伸ばすと、ひな鳥は異様な声で鳴き出す。もちろん原因は自分だ。 親鳥が戻ってくる前にと思ったが、そう世の中は甘くない。ひな鳥の必死な声に反応し、親鳥が何処からか現れ攻撃を仕掛けてきた。 「ぐ…少し邪魔するだけだ。取って食ったりしないっ…て、イテッ!」 などと言ったところで、鳥に通じるわけがない。 ひな鳥を木の下に落とさないように、そして親鳥に気を使いながら紙切れを手に入れ、ささっと巣を離れる。 そして紙切れを広げ魔道書かどうかを確認する。 確認したところで、盗賊の自分には分からないが…。 「分からないからこそ、魔道書なんだろう」 良くわからない模様は、きっと呪術の言葉だ。 そう決めつけポケットに紙切れを押し込み、次はそれを扱う呪術士ヘンリーを探す。 銀髪は月の光に反射し、少しくらい暗くなったって、闇に溶け込みはしないだろう。 人物的には光より闇なヤツだが…。 あの笑顔も別に明るい印象はない。どちらかと言ったら能天気。何を考えてるか分からない笑顔だ。そして、影のある笑顔。 そう思ってしまうのは、ヤツの過去を風の噂で聞いてしまったせいだろうか…。 「いないな…」 雲と月が交わり、月明かりに照らされていた森は、ところどころ闇が支配し始める。 「そろそろ潮時か」 そう呟きガイアは捜索を諦め、森を後にした。 野営地に戻ると、まだ広場に明かりが灯っていた。 そろそろ寝静まる頃だと思っていたが、これもまた平和だと言う証拠か。 戦時中に何を言ってるんだと叱咤されそうだが、こういう日もあるだろう。 「ガイア〜」 広場を通り過ぎたところで声をかけられる。 この声は森で聞いた能天気な声。 「戻って来てたのか」 「もう、夜も遅いからね〜」 そして心情の読めない、この笑顔だ。 「ルフレが心配してたぞ」 「あはは、いっぱい怒られたよ〜」 「たく、心配かけるなよ」 そう言ってポケットから出した紙切れをヘンリーに渡す。 素直に受け取ったヘンリーの表情に変化はない。この紙はハズレだったか? 「見つけてくれたの?」 いや、どうやら当たりらしい。 この無表情とも言える薄っぺらな笑顔からは、まったく表情は読み取れないが…。 「拾ったんだ」 「ふーん」 やはり表情は変わらない。 少し喜んでも?と思ってしまう自分が少し気に食わない。拾ったなんてもちろん嘘だが、探して来たなんて言う気にもなれない。 別に喜んで欲しいわけじゃないが…。 少し不機嫌に菓子の棒をかじっていると、目の前に居るヘンリーの手が頬をかすめ髪に触れてくる。 「ん…」 何だ?と思ったが、その手はガイアの頭髪からすぐ離れた。 不審な目でその動作を追うが、やはり表情はあの笑顔だ。コイツの表情を読み取るのは本当に難しい。 「…なんで嘘をついたんだ。大事な紙だったんだろ」 「嘘はお互い様だね〜。顔、傷だらけだよ?」 言いながら、先ほど髪に触れた手を見せる。 その手には鳥の羽根が握られていた。目の前で羽根をひらひらされ、思わず言い訳を考えてしまう。 「ちょっと転んだだけだ」 「この鳥の羽根はなにかな〜?」 「……」 別に探して来た事がバレたって構わない。喜んでもらわなくても良い。礼だって要らない。 ただ、気を使われたくない。そういう感情がコイツにあるか分からないが、自分のためにって思われるのが嫌なんだ。 「有り難う、ガイア」 黙っているとヘンリーの方から声をかけられ、やっぱり礼を言われてしまう。 もちろん礼を言うのは悪いことじゃない。言うのが当たり前の場面だろう。 「ガイア、これどうぞ〜」 言いながら何かを手渡される。 それは見たことのある形状をした、自分が探し求めていた物だ。 「蜂の巣じゃないか」 「拾ったんだよ〜」 変わらない薄っぺらな笑顔で言うヘンリーの顔をじっと無言で見つめる。 「……」 よーく見ると、ところどころ赤く腫れている。 肌が白いせいか、数カ所見つけると次々見つけてしまい、気になってしょうがない…。 「お前も嘘が下手だな」 「あはは、刺されない自信あったんだけどな〜」 へらへら笑いながらヘンリーは頬をかいた。 「かくなよ、悪化するぞ」 「うーん、やっぱりかゆいんだよね〜」 「はあ、しょうがないな。薬やるよ」 言って、自分の天幕に来るように手で合図をする。 素直に後ろをついてくるヘンリーだったが、残念そうに溜め息をついた。 「はあ、結局、手間かけさせちゃってるね〜」 「こんなの手間のうちに入らないだろ。それより…」 「それより?」 小首を傾げてヘンリーが見てくる。 同じ質問を投げかけようとしているのが相手に伝わったのか、その表情は笑顔だが少し陰って見える。 「もう一度訊くが、どうして大した物じゃないって嘘をついたんだ?」 「言わないと駄目〜?」 やはり答えたくなかったのか…。 別に嘘をつかれても構わない。自分だって嘘はつく。 ただ、見過ごせない嘘もある。理由が分からない嘘をつかれるのは、納得がいかない。 「ああ、こういう嘘は好きじゃない」 「えーと…、僕なんかのために頑張って欲しくなかったからかな?僕にそんな価値はないからね〜」 「なんだそれ…。誰がお前の価値なんて決めたんだよ」 そう言葉を返しながらも、なるほどと頭の中で納得をした。 それは自分の中にもある感情で、自分のために誰かが犠牲になるなんて、そんな価値は俺にもない。 「小さい頃に決まっちゃったんだよ」 「じゃあ、その価値はかえられるな」 「どうやって?」 「もう変わってるだろ」 一生涯、人生が変わらない奴なんてそうそう居ないだろう。 人生が変われば、その人間の価値だって変わってくる。コイツの人生はイーリスに来たことで確実に変わっているはずだ。 「お前は、この軍に必要な人間だ。それだけで十分価値がある」 自分に価値がないと決めつけても、他人はそう思わないだろう。 「そう?」 「俺も蜂の巣をお前から貰った。十分価値のあることだ」 お互い助け合えば、自分なんかのためになんて感情は薄れていくんだ。 人のために動くってことは、そう言うことだろう。 「あはは、だから拾ったんだってば〜」 「それはもう良いって、ありがとな」 「こちらこそ〜」 「大事なもんは大事なもんって、ちゃんと言えよ。いつでも手伝ってやるから」 お互い助け合えば、お互いに存在価値が生まれるんだ。 「はーい、有り難う〜。ガイア」 「礼も、お互い様だ」 俺たちの居場所はココで、お互いの存在を確認できれば良い。 それだけで良いんだ。 そこに価値は充分ある― ----------------------------- おわり。 えーと、ここから愛が芽生えます?微妙ですね…。 愛が見えてきませんよ? でもでも、お互いの居場所を見つけましたーな、お話のつもりです。 ガイアの独白になってるかもですが…。 ヘンリーが気づいてるかどうか、微妙な線ですね。 ここから愛が始まる〜と妄想していただければ。 ウチのガイヘンのテーマ(?)は、「居場所」です。 お互い「心地よい空間」みたいな、お互いの「自分には無い自由に憧れる」みたいな? そんな感じです(どんなだ…) 相変わらずの読みにくい文ですが、最後まで読んでいただき有り難うございます。 UP |