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銀 魂:続:不眠の時は。 |
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続:不眠の時は。 月明かりが雨戸の隙間から差し込み、淡く細い光が薄暗い廊下を照らす。 照明を付けず進んだ廊下の先に、明かりが漏れる一室があった。その光は月明かりではなく、照明の明かりだ。 「あり?土方さんじゃないですかィ」 誰もいないと思った給湯室に副長がひとり、無言で湯を沸かしている。 相変わらず口には煙草をくわえ、無愛想な面だ。 「また寝れないのか」 「土方さんは残業で?」 「…いや」 バツの悪そうな顔をし、土方はもう一つカップを用意する。 「総悟も飲むか?」 「ん、コーヒーですかィ?寝れなくなっちまうんで遠慮しときやす」 「いや、ホットミルクだ」 ミクルと言われ、鍋の中をのぞく。 確かに中の液体は透明ではなく、白いモノが湯気を立てている。 まあ、湯なら鍋ではなくヤカンが妥当か…て、あの副長がホットミルクって…。 「意外ですねィ」 「寝るのにカフェインは邪魔だからな」 「つまりは寝れないって事ですかね?」 「そう言うことだ」 溜め息をひとつつき、カップに温めた牛乳を注ぐ。 「サボりが原因ですかねィ」 「お前と一緒にするな。俺はサボってねえ」 言いながら渡されたカップの中に目を向ける。 軽いなと思ったカップの中には、半分までしか牛乳が入っていない。 「一人分を分けたからな」 「別に分けなくても良いですよ、俺はあとで入れるんで」 「そう言わず半分飲んどけ、もう半分は今から温める」 「これでじゅうぶんです」 そう言い、ぐいっと一気に飲み干す。 「火傷するぞ」 「そこまで熱くないですよ、ごちそうさんでした」 飲み干したカップを沖田はササッと洗う。 その様子を土方は横目で見つつ、温めた牛乳を口にする。 「ちゃんと寝ろよ」 「へい、おやすみなせィ」 寝る前に会ってしまうなんて、これでぐっすり寝れるのだろうか…? 沖田が給湯室を出たあと、土方は溜め息をひとつつき残りの牛乳を飲む。 ―次の日― 朝からの仕事はそれほど眠くはなかったが、昼食を食べ巡回が始まると睡魔が襲って来る。 犯人追跡なら緊迫した状況の中、車のスピードもかなりのモノになるだろう。 しかし、今は巡回中で、車の揺れがまるでゆりかごのようだ…。 「「ふあぁふ」」 あくびが二つ、車内に響く。 一つはよく耳にする聞き慣れたあくび。もう一つは苦しそうなあくび…。 「なんでィ、そのあくび。もう少し気持ちよくしたらどうですか?眠いんでしょ」 「仕事中だ。堂々とあくびなんてしてられるか」 「仕事ったって、いつもと変わらねえ巡回じゃねーですか」 「巡回も仕事だ。気を抜くな」 新しい煙草に火をつけ、口にくわえる。 その仕草を見て、沖田は呆れた表情を土方に向けた。 「一緒にあくびしといて、よく言えますねィ。そのセリフ」 「…それもそうだな」 軽く頷く土方の顔はずっと窓の外に向けられている。 眠そうな表情をしているんだろうなと想像はできるが、こっちを向かないのは副長としてのプライドか? 「土方さん」 「ん?」 「外に何かありますかね?」 「巡回だからな、異常がないか見てる」 「一度もこっち見てませんよね」 「そうか?」 言いながら、やはり顔は外を向いている。 仕事に出てから…、いや違う。今日は朝から一度も顔を合わせていない。 「巡回だからじゃないですよね。今日は朝からですよね」 「そうだったか?」 「無自覚ですか?つーか、俺を避けてません?近藤さんやザキとは普通に顔合わせて話してましたよね。俺と話す時はなんでそっち向いてるんで」 「なんでだろうな…」 土方は顎に手を当て外に目をやる。目をやるといっても、車に乗ってからずっと顔は外を向いている。 沖田に指摘されるまでもなく、目を合わせていないのは土方自身分かっている。無自覚とか無意識とかではなく、意識してのことだ。 本人には言えないが、あの日から本気で意識している…。 「土方さん?」 「少し黙ってろ」 「は?」 沖田からは思った通りの不満が漏れる。 視線も突き刺さるが、振り向くわけにはいかない。 「完全に俺を避けてますよね?」 「いや」 「じゃあ、こっち向いてください」 「何か用か?」 「いや、そうじゃないですけど」 「じゃあ黙って運転してろ」 「なんですか、それ。腹立つな」 吐き捨てるように言う沖田に、言い訳をする気はない。 なぜ避けているかなんて、そんな説明をしたところで納得してくれるわけがなく、逆に避けられるのがオチだろう。 寝姿を見て惚れてしまったなんて、口が裂けても言えるわけがない。 正確には惚れたではなく欲情だ。その時は理性が働き、間違いは侵さななかったが…。 だからこそ、こんな密室で目を合わせるわけにはいかない。朝から顔を見れないのだって、仕事で二人っきりになることが分かっていたからだ。 早くこの気持ちを整理し、今までの関係を取り戻さなければ、総悟との関係はどんどん悪化してしまう…、とは言え…。 「はあ」 仕事を終え、まず大きな溜め息が一つ出た。 沖田は既に車を降り、この場を離れている。 一応「お疲れさまです」と沖田は挨拶をしたが、それは仕事上の会話だ。もちろん顔は合わせていない。 どうしたものかと空を見上げ、溜め息と一緒に煙草を吹かした。 顔を合わせることなく夕食を食べ、風呂に入り、自室に籠る。 何度も話す機会はあったはずだが、総悟との間に完璧な溝が出来てしまったらしい。 「まあ当たり前か…、声をかけられても顔を見ることすら出来なかったんだからな」 灰の汚れがこびりついている灰皿に、さらなる灰を押し付ける。 もう深夜なのだが、まったく眠気がやってこない。ここ最近、ずっとこんな状態だ…。 心当たりがあるだけに、もどかしい。どうにかしなければと思うが…。 カタン 部屋の外から音が聞こえてくる。 音は隣の部屋からで、襖の開閉だろう。 そのまましばらく聞き耳を立て、次の音が聞こえたとき、土方は部屋を出て物音のする方へ声をかける。 「総悟」 「あれ?土方さん」 沖田は驚いた表情で土方を見る。その両手にはカップが二つ握られていた。 「それ…」 土方はカップ二つを指差す。 「ああ、これですかィ」 「一つは俺の分か?」 「そうですねィ…」 少し考え込み、沖田はカップ一つに口をつける。 次にカップを離した時は、中身が空になっていた。 そうして、もう一つのカップにも口をつける。 「おい?」 「ん、なんですかィ?」 「それ、俺の分じゃないのか?」 「そう思ったんですけどねィ」 「けど?」 どういう意味だと、じっと沖田を見つめる。 今日一日、顔を見るのを避けていたのだが…。 「アンタの態度が気に食わないんで止めました」 「たい…ど?」 「思い当たるフシあるでしょ」 「ないわけじゃないが、二人分用意してるじゃないか」 言いながら沖田の顔色を伺う。もちろん、自分に非があることは分かっている。 今日一日、今の今まで一度も目を見て話してなかったんだ。他人ならともかく、昨日まで普通に話していた仲間にだ。 「二人分だから一つは自分?屯所はアンタと俺だけじゃないんですぜ」 「隣は俺の部屋だけだろ」 「だから?アンタの部屋に声かけましたっけ、俺」 不満たっぷりに言う沖田の顔は外を向いている。 何でこっちを見ないんだ?なんて思ってしまうが、流石に声に出しては言えない。散々自分がしてきた事だ…。 「じゃ、おやすみなさい」 「え?あ、ちょ、ちょっと待て!」 「なんでィ、散々無視してきたくせに」 「無視はしてないだろ」 「似たようなもんじゃねーか」 沖田は吐き捨てるように言い、庭を見ていた視線は正面にいる人物を躱し、床から自室の襖に移る。 徹底的に目線を合わせないのは自分のせいだと分かっている。だが、このまま引き下がれない気持ちが今の自分の中にある。 不眠の原因は目の前にいるんだ。それを逃して寝れない日々をこのまま続けるなんて、いや…。 「いつまで、この関係を続けるつもりなんだ」 「は?アンタからでしょ。土方さんが喧嘩吹っかけてきてんじゃないですか」 「喧嘩じゃないだろ」 「じゃあ、イジメ?」 なにひとつ伝わらない事に苛立ちを覚え、今の気持ちを理解してもらえそうな言葉は尽きた。 「これがイジメにみえるのか」 否定する言葉で精一杯だ。 素直な気持ちを伝えたところで、コイツに通じる気がしない。 次に言う言葉が見つからず、無言で沖田を壁に押し付ける。 といっても体に触れたわけではない。だが、沖田は壁にピッタリくっついてしまっている。 「…なんのつもりで?」 沖田の顔を自分に向けることがやっとできた。しかし、その表情は先ほどまでとは違う。 「どうした?」 「土方さんこそ、どうしたんで…」 少し怯えたようにも見え、その姿にドキっとする。 身長の差で沖田の目線は上目遣いだ。その表情が怯えて見えるっていうのは…。 「…どうもしない」 「だったら、離れてくれませんか?」 「それは出来ない」 「なんでですか」 「気づいてしまったからだ」 警戒する沖田を無視し、壁についた手を沖田の背中に回し、ぎゅっと抱きしめる。 そんな表情をされれば、誰だって抱きしめたくなるハズだ。 「ちょっ、何やってんでィ!?離れろッ!!」 「離したら殴るだろ」 「殴りませんってッ!ここ、廊下ッ」 「じゃあ逃げるだろ。お前の部屋はすぐそこだからな」 「…」 逃げる…が、正解か。 「まあ当然か」と、土方は小さく溜め息をつく。だが、沖田を解放する気はない。 「なんなんですか、あんたは…。俺をどうしたいんですか?無視したり、追いつめたり…」 腕の中で沖田は不満をぶちまける。 理解できないのは当然だろう。自分が空回りしている事は百も承知だ。 「どうしたいかは、分かっている。数日前からな」 「じゃあ、ハッキリ言ったらどうですか。避けたり壁ドンとか、幼稚すぎますぜ」 「そうだな」 少し身体を離し、沖田の目をじっと見つめる。 今日一番の眼力だ。 目を合わせないようにしてきたのは、この感情を制御するため。 だが、もう必要ない。 「総悟。お前を抱く」 「は?」 ぽかんとした表情の沖田を尻目に、土方の表情は達成感に満ち溢れている。 「ハッキリ言ったぞ」 「じゃあ、もう良いですよね。離してください」 ああそうですか、と沖田の態度は素っ気ない。 意味が分からないなんて事はないだろうが…。 「良いわけないだろ。この気持ちに決着をつける」 「決着って…」 素っ気なかった沖田の態度は、決着という言葉で今度は動揺をみせる。 「俺の気持ちはどうなるんで?」 「嫌いか?」 「それとこれは別ですぜ。なんで男に…」 「お前に感じちまったからだ」 「なッ、恥ずかしいこと言ってんじゃねーやッ!離せッ!!」 「もう限界だ」 ここ数日、ずっと悶々としてたんだ。 軽蔑されないようにと、この気持ちを誤摩化してきた。だが、もう誤摩化しきれない。 「そうですね、限界ですね。避けられてイラッとしてたのはアンタの事が好きだからです。俺だって分かってましたよ?じゃなきゃ、夜中に二人分の牛乳温めたりしないですよね。アンタの部屋で寝れるのも心を許してるからです」 「じゃあ…」 沖田の言葉に、心が少し晴れる。 どうやら軽蔑はされていない。それどころか自分に好意を寄せているんじゃないか?と期待してしまう。 「だから、こんな強引なやり方に腹が立つんですよ」 「お前は素直じゃないからな」 振り回された…いや、振り回したのか。 悶々して空回りして、ここまでかなり遠回りしてしまったような…。 「あんたもでしょ」 「こじれたな」 だが悪くはない。 この遠回りが心地良い。 きっとコイツもそう思っているに違いない。 「見事に、こじらせましたね」 にやりとしてみせる表情は、いつものドS顔。 ドSとナントカは紙一重と言うらしい。 -------------------------------------------- END リクにて続編希望があったので書いてみました。 壁ドンもリクから…。壁ドンって、こんな雰囲気で良いのか?と思いつつ…。 最後まで我慢の土方サンになってしまいましたが、きっとこのあとは!です。 特に事件性のない、まったりとした時間を感じていただければ〜幸いです。 最後まで読んでいただき、有り難うございます! #UP |