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FireEmblem 覚醒:それは甘くて… 中編
絵と文とか

FireEmblem覚醒

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「ガイア〜!」

「ねえ、ガイア〜!」

「ん…」

身体を揺すられ、ハッと目を覚ます。
広い海を小舟でゆらゆらと漂流していたような…。
「夢か…」
揺すられていたせいか、まだ揺れてる気がして気分が悪い。夢で船酔いしたかと自分に呆れてしまう。
「ガイア〜?」
「ん、ああ…、ヘンリーか。…やっぱり小さいな」
船酔いはコレが原因かもしれないな…と、思うと同時に今日起きた事を思い出す。
「どうした?呼び出した悪魔でも思い出したか?」
「違うよ〜、おしっこ」
「…、便所かよ。一人で行けるだろ」
「ん〜、遠くて…」
「ずっと抱っこされてるから、そう感じるんだよ。少し歩いてこいよ」
まだ酔ってる気がして、連れて行く気にはなれない。
見た目三歳児だが、中身はヘンリーだ。一人で厠くらい行けるだろうと、寝台の上から送り出す。
「おしっこって言っても、俺は甘やかさないぞ?」
不満そうに見てくるヘンリーから視線を外し、もう少し寝てようと目を閉じる。
子供になってから頭がハッキリしないと言っていたが、頭の中まで子供になってしまったとは思えない。
渋々とヘンリーは寝台の端まで行き、派手な音を立て寝台の上から姿を消した。
「だ、大丈夫か?」
慌ててガイアは自分の身体を起こして、寝台から床を見下ろす。
「…う」
「ヘンリー…、まさか…漏らしたか?」
床にうずくまっているヘンリーに恐る恐る声をかける。
「うう…、してないけど、寝台が思ったより高くて…痛いよ…」
「す、すまん…、本当に子供の扱いが分からないんだ…」
言いながらガイアはヘンリーの身体を起こして抱きかかえる。
何処が痛いかを訊き、膝を撫でてやりながら天幕を出て厠に向かった。

ヘンリーを厠に入れ、その間ガイアは外で物思いにふける…。
絶対ヘンリーの身体は元に戻るだろうと信じてはいるが、もしこのままだったらとつい考えてしまう。
子供は苦手だが、ヘンリーなら見た目は子供でも、ヘンリーはヘンリーだ。
自分が守ってやらなければと思うが…、ずっと子供のヘンリーと過ごすのと、大人のヘンリーと過ごすのとでは訳が違う。
「早く、サーリャになんとかしてもらはないとな…」
そう呟き、広間の方を眺める。
夕刻を過ぎ、夕食の準備が進められているのだろう。慌ただしく食材を抱えた者や、テーブルやイスを並べる者の姿が見えた。
「ガイア、お待たせ〜」
下から声をかけられて、視線を下ろす。
「ちゃんと出来たか?」
「あはは、大丈夫だよ〜」
ガイアを見上げてニッコリ笑ってくる。禍々しい呪いとは言え、小さなヘンリーは可愛い。
元に戻って欲しいともちろん願うが、少しだけ勿体ない気もしなくはなく…。
そのままなんとなくガイアは上から、そしてヘンリーは下から、お互いを見つめ合った。
「こんな所にいたのね」
声が聞こえ顔を上げると、ルフレが笑顔でこっちを見てきていた。
「ど、どうした?」
小さなヘンリーとは言え、見つめ合っていた所を見らるのは、やはり恥ずかしい。
ルフレはどう思ったか分からないが、相変わらず笑顔のままだ。
「サーリャには会えた?」
「いや、まだだ。飯食ってからにしようと思ってる」
「そう、早く戻れると良いわね」
「ああ、そうだな」
「…」
「ヘンリーどうしたの?」
ルフレが下を向いて言い、ガイアも視線を落とす。
ヘンリーはガイアの右脚に抱きついて、マントの中に半分隠れてしまっていた。
「何やってんだ…」
呆れた口調で言い、ガイアはしゃがんでヘンリーの両腕を自分の脚から離す。
すると今度は、短い腕をガイアの首に回し胸に顔を埋めてきた。もちろん腕は回しきれていないが…。
「どうしたんだよ…」
「ぐずってるのかしら…」
何も言わずガイアにしがみついているヘンリーをルフレは心配そうに覗く。
「ぐずる?」
「寝起きだったりする?」
「寝起きなのは俺の方だ」
「ガイアは大人でしょ」
「こいつも中身は大人だろ」
「だとは思うんだけどねー…」
そう言ってルフレは腕を組んだ。
確かに、中身も子供になってしまったんじゃないかと、疑ってしまう場面は何度もあった。
だが、いつものヘンリーだと感じる部分も多く、中身はどうなっているのかが今イチ分からない。どっちにしろヘンリーではあるが…。
「夕飯はどうする?今日、私が配給係なんだけど、もう一眠りするなら、後で天幕に食事を届けてあげるわよ?」
「ルフレー、有り難う。僕は大丈夫だよ〜。広間でちゃんと食べるよ〜」
ヘンリーはガイアから顔を離し、ルフレに微笑んでみせる。
その小さな笑顔に、ルフレは顔を緩ませた。まあ、小さいヘンリーを見るルフレの顔はずっと緩んでいるが。
「無理はしなくていいのよー?食事は用意しといてあげるから、眠かったら後で良いからね」
「うん〜」
「世話かけるな、ルフレ」
「いいえー、これくらいはさせてちょうだい」
ルフレは微笑んで、ヘンリーの頭を撫でた。
「だから、中身はヘンリーだって…」
「んー、分かってても、やっぱり子供は可愛いのよね〜」
ガイアは呆れて言うが、ルフレの顔はやはり緩みっぱなしだ。
「じゃあ、夕飯の用意があるから私は行くわね」
「ああ、飯時にはそっち行くよ」
「はーい、待ってるわよー」

ルフレが居なくなり、ヘンリーは少しガイアから身体を離す。
そのヘンリーをガイアは眺めて、呆れた表情で口を開いた。
「甘え過ぎだろ…」
「…ねえ、ガイア。サーリャの所に行くの今日じゃないと駄目?」
「ん…、俺は別に明日でも良いが、何かあったか?」
「もっと、甘えてたいから…」
そう言って、またガイアの胸に顔を埋める。
「おいおい、本当に子供になっちまったのか…?」
やっぱり中身も子供になったのかと、ヘンリーの頬に手を当てて心配そうに覗き込む。
「違うよ、そうじゃないよ。小さい頃できなかったから、甘えてみたかったんだ。もっと、大人に甘えてみたくて…」
「ヘンリー…」
「わがままだよね、ゴメンね」
「いや…」
ぎゅっとマントを握ってくるヘンリーをガイアは優しく抱きしめる。
ガイア自身も親に甘えた記憶なんてない。今さら甘えたいとは思わないが、子供になった身体ならそういう気持ちが芽生えるのかもしれない…。
「その気持ち俺にも分かるよ。ワガママなんかじゃないさ。今日はサーリャに相談するのはやめよう」
「本当?」
「ああ、ただルフレになんて言うかだな…」
多分、夕食時にルフレと会うだろう。
小さいヘンリーの事を気にかけているのは態度で分かる。ルフレなら一緒にサーリャの所へ行くと言いかねない。
どう言い訳するかなとガイアは呟きながら小さいヘンリーを抱っこした。
「肩車してやろうか?」
「かたぐるま?」
「親に甘えた事ないなら、肩車なんてしてもらった事ないだろ。ガキは親父に肩車されるのが大好きなんだぜ」
言いながらガイアはヘンリーを肩に担いだ。
「どうだ?眺め良いだろ?」
小さなヘンリーの脚をしっかり支えて、ガイアはゆっくり歩き出す。
「わあ〜、普段でもこんな高い所から見た事ないよ〜」
「そういえば、抱き上げた時も喜んでたな」
「あっ、たかいたかい、もう一回してほしいな〜」
「了解。他にしてみたい事はないか?」
「ん〜、お馬さんとか?」
「…馬か、あんまり人に見られたくないヤツだな…」
まあ、天幕なら良いかと、高い高いをヘンリーが満足するまでしてやって、肩車をしたまま自分の天幕へ向かった。
着いたガイアの天幕は狭く、自由に動き回れるスペースに限りがある。当たり前だが景色も代わり映えがなく、見えるモノと言えば菓子ばかりだ。
ヘンリーは不服を漏らしたがガイアは外に出る気はなく、ヘンリーが飽きるまで天幕内を四つん這いで歩き回った。


どれぐらい天幕内を歩き回っただろうか…。
やっと飽きて腹が減ったと広間に行くと、ルフレがすぐ声をかけてきた。
「ああ、ガイア。持ってってあげるから、先に座ってていいわよ」
「…助かる」
「どうしたの?疲れきった顔をして…」
「いや、ちょっと遊んでただけだ…」
ガイアの答える声は低く疲れが滲み出ている。
抱かれているヘンリーは満足そうに微笑んでいて、ルフレは呆れた表情をガイアに向けた。
「ガイアが疲れてどうするのよー?」
「子供の遊びは大人が疲れるもんだろ…」
疲れきった背中をルフレに向けて、ガイアはゆっくり歩いて席に着き、ヘンリーを膝の上に乗せて一息つく。
「はあ、イスは膝が楽で良いな…」
「あはは、ガイアおじいちゃんみたいだね〜」
「誰のせいだと思ってんだよ。天幕じゃつまんないとか言いながら、さんざん人のケツ叩いて…」
不満の表情で上からヘンリーを見下ろす。
「あれはあれで楽しかったんだよ〜。乗り心地よかったし〜」
ガイアの膝の上でヘンリーは満足そうに笑いながら小さい手でガイアの膝を撫でた。
「もう、馬は懲り懲りだよ…」
笑うヘンリーを見ながらガイアは溜め息をついた。
ここ最近、溜め息ばかりついている気がする。でも、嫌な溜め息ではない。何となく心地が良い溜め息だ…。

「本当に子供の遊びをしていただけ?」
ガイアとヘンリーの会話にルフレが微妙な表情で口を挟む。
「ルフレ、俺はそこまで堕ちちゃいないからな…」
声をかけられ、ついバツの悪そうな顔をしてしまう。
もちろん嘘はついていないが、ルフレの心の内が垣間見えた気がして居心地が悪い…。
「はいはい」
ルフレはガイアの言葉に適当に返事をし、手に持っていた食事をテーブルに並べた。
その聞いてるようで聞いてない態度がどうも納得いかない。
「…、本当にガキの遊びしてただけだからな」
「分かってるわよー、そんな念を押さなくても」
ルフレはニコニコしながら答える。
「別に、ヘンリーはヘンリーなんだし、私は気にしないわよ?」
「お前…、俺を信用してないのかよ」
「あら?そう聞こえちゃった?」
はあ…と、ガイアは溜め息をついて、膝の上のヘンリーにスプーンを渡す。
「ほら、ヘンリー」
「…」
握らそうと手にスプーンを当ててみるが反応がなく、微かに寝息が聞こえてくる。
「あら、もしかして寝てる?」
ルフレがヘンリーの顔を覗き込んで、頬をつんつん突いてみた。
やはりヘンリーからは何も反応が返ってこない。
「寝たな、コレは」
「どれだけ遊んでたのよ?ご飯前に寝かせちゃうなんて…」
呆れてルフレはガイアに言う。
「いや…俺の方が疲れてると思うぞ?」
「ガイアは大人でしょ?ヘンリーの身体は小さいんだから、大人より疲れるのよ」
「全然疲れてるようには見えなかったけどな」
「子供ってそういうものなのよ。楽しい時は疲れてても分かんないの」
ルフレにそう言われてもピンとこない。
子供は〜と言われても、これの中身はヘンリーで話している限り身体の大きさ以外はヘンリーそのものだ。
まあ子供の身体にヘンリー自身がついていけてないのかもしれない…とはいえ、中身はヘンリーだ。疲れているならそう言えば良いだけの話しだと思う。
「…理解できんな」
「そう?私はたまに疲れを忘れちゃうくらい楽しくなるわよー」
ルフレに言われて、なるほどなと思う。確かに、楽しくて忘れてる事もあったかなと、記憶をたどる。
「子供も大人のそれと一緒か…。まあ、ヘンリーは子供じゃないがって、大人だから一緒か?なんかややこしいな…」
「それって何よ?いやらしい」
「はあ?いやらしいってなんだよ!?」
「ふふふー。冗談よ」
ルフレの含み笑いは冗談に聞こえない。コイツは絶対ガチで言っている。
「…」
「でも、どうするの?起きてから食べさせて、サーリャの所に行く?遅くなりそうだけど」
「あ、ああ。その事なんだが、相談に行くのは明日以降じゃ駄目か?」
「別にいいけど、どうして?」
「こいつの過去を思うとさ、もう少し甘えさせてやりたくて…」
幸せそうな寝顔を見つめ、優しく撫でてやる。
そのヘンリーの小さな手は相変わらずガイアのマントをしっかり掴んでいた。
「優しいのね、ガイア」
「こいつの気持ちは分からなくもないからな。俺も親に甘えた記憶はない。て、すまない、ルフレもだな」
「謝らないでよ。私なんか良い方よ?生みの親は私のために、命をかけて匿ってくれた。ファウダーに言われた事で、私は覚えてないけどね。でも、ヘンリーは違うでしょ」
ルフレの過去は今もよくは知らない。過去だけではないが、とにかく謎が多い人物だ。
記憶を失ってイーリス軍の軍師としてココに居るが、少しずつファウダーによって出生が明らかになってきている。
記憶がなくてもルフレは逃がしてくれた母親に愛情を感じているのだろう。
どちらが幸せかなんて比べようはないが、ヘンリーは両親に疎まれながら育ち、記憶があっても親の愛情を知らない。
「こいつには、幸せになってもらいたいんだ」
「ええ、私も…て、やだ!何か、照れちゃうなー」
つい感情的に話し込み、ふと我に帰ってルフレは慌てた。
深刻な表情で話すガイアと子供のヘンリー、そして女の自分。つい親子なんて言葉が頭をよぎって顔が紅潮する。
ルフレは顔を両手で挟み込んで赤い頬を隠し、それをガイアは真顔で見つめていた。
「俺はサーリャに見られていない事を祈るのみだ…」
もし見られでもしたら、呪いの相談をする前に、自分がサーリャに呪われてしまう気がする…。
「そ、そうね。じゃあ、私は片付けに戻るわ。食べ終わったらそのままで良いわよ。ヘンリーの分は後で私が天幕に持ってってあげるわ」
「色々と手間かけさせすまない。有り難う」
「いいえー、小さいヘンリーをもっと見ていたいしね〜」
ルフレは寝ているヘンリーに手を振って、急いで配給係の仕事に戻ていった。






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つづく

後編に続き ます>>

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