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FireEmblem 覚醒:それは甘くて… 後編
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FireEmblem覚醒

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また、揺れている…。今日も海の上を小舟で漂い…。

違う、これは海の上ではない。

寝返りをうって、やはり寝台だ。と、安堵の息を漏らす。
だが、まだ揺れている。
原因は昨日と同じだろうと、薄目を開けて隣に居る子供に声をかけた。
「ヘンリー、揺するのは勘弁してくれ…」
「おはよー、ガイア。朝だよ?」
ガイアの胸に両手をのせたまま、ヘンリーは笑顔で挨拶をする。
やっぱりヘンリーは今日も小さくて、昨日と同じく揺すって起こしてくる…。
「おはよう。なんで揺するんだよ…」
「ダメ?」
「まだ揺れてる気がする…」
「あはは、ゴメンね〜。どうやって起こしたら良いかな〜て思って」
そういえば、起こされた記憶が一度もない。
低血圧だからなのか、起きるのはいつも自分の方が先だった。とは言っても、寝ているヘンリーを揺すって起こした事はない。
なぜ、小さいヘンリーは早起きで、人を揺すって起こすのだろうか…。
「ヘンリーのくせに、起きるの早いな」
まだ身体が揺れてる感じがするが、ゆっくり起き上がり小さいヘンリーを見て、やっぱり今日も小さいなと再度確認する。
そのヘンリーもガイアの方を見ていて、見上げてくる姿は小動物のようで可愛い…。
「ねえ、ガイア。サーリャの所に行こう」
「ん…、もう良いのか?」
もっと甘えたいと言っていたのにと声をかける。それとも、もう満足してしまったのだろうか…?
何かあったかと心配そうに見つめていると、ヘンリーは少しうつむいて口を開いた。
「…迷惑かけちゃってるから」
「いや、迷惑じゃないが…。ヘンリーの気が済むまで甘えてて良いんだぞ。ルフレにも言ってあるから心配するなよ」
そう言って、頭を撫でてやる。
昨日のルフレとの会話はヘンリーに聞こえてはいなかっただろう。
中身はヘンリーだが、子供に迷惑だからなんて言わせてしまうのは少し心苦しい…。
「ヘンリー、たかいたかいしてやろうか?」
「ううん。僕、ガイアとエッチがしたい」
もっと甘えさせてやろうとヘンリーに手を伸ばしたが、予想外の言葉が返ってきて抱き上げようとした手が止まる。
それは、遊び…なのかもしれないが、どう考えても子供の遊びではない。
「ヘンリー…、子供の姿で言う台詞じゃないぞ、それ…」
「だから、サーリャの所に行こう?僕一人じゃ呪い解けないから」
「もう一度言うが、迷惑じゃないからな?甘えていいんだぞ?」
「分かってるよ。だから、エッむぐっ」
思わず小さなヘンリーの口を両手で塞いでしまう。
子供の姿で何回も言われたくはない。中身はヘンリーだが、流石にどうかと思う…。
「分かったから、それ以上言うなよ?」
ヘンリーは口を塞がれたまま小さく頷き、ガイアは念を押すように次の言葉を言う。
「よし、朝飯食ったらサーリャの所な」
「…うん」
「それまで、ガキを堪能してろよ」
言ってヘンリーから手を離し、ガイアは普段着に着替える。
先に起きていたヘンリーはサーリャの所に行くと決めていたのか、ガイアが起きた時には既に支度を完了させていた。
甘えたいと言っても、人の迷惑を考えてしまう時点で、やはり子供じゃないと思う。
小さくなったのは身体だけなのだから、当たり前と言えばそれまでだが…。



朝食をとりに広間へ行くと、待ってたとばかりにルフレが声をかけてくる。
そのルフレにサーリャの所へ行くと告げると、予想通り名残惜しそうな顔をして二人に同行する。


「…何か用?」
天幕の入り口に声をかけると、中から不機嫌そうな声が返ってきた。
「入って良いか?」
「…どうぞ」
言われて中に入ると、ヘンリーの天幕に負けじ劣らず禍々しい物がビッシリ棚に並べられていて、入っただけで呪われそうな雰囲気が漂っていた。
そして今もまた、何か呪いの儀式をしようとしていたのか、床にも得体の知れない物が散乱している。
「お邪魔だったかしら…」
ルフレがガイアの後ろから声をかけると、天幕の空気がふわっと軽くなり、無表情だったサーリャに笑みがこぼれた。
「ルフレ、来てくれて嬉しい…。邪魔なんかじゃないわ。そっちの二人は邪魔だけど…」
「はっきり言うなよ…。用事があるのは俺たちの方だからな」
相変わらずだなと呆れ口調で言い、小さいヘンリーを抱き直す。そのヘンリーはガイアのマントに顔を埋めたままで、サーリャを見ようとしない。
「ふん、分かってるわよ。その、小さいのを何とかしろって言うんでしょ」
「あら、話しが早いわねー。流石、サーリャ!」
ルフレはニッコリ微笑んで、サーリャも禍々しい笑顔をルフレに向ける。本人は禍々しいつもりはないだろうが…。
「うふ、うふふふふ。もっと褒めていいわよ。ルフレ」
「ええ、成功したらね」
「任せなさい、失敗なんてしないわ。もう解決してるんだから…」
「あら、早い…」
そんな簡単な事なのかと、ルフレは意外そうな表情をサーリャに向けた。

「じゃあ解呪を始めるから」と、サーリャは小さいヘンリーをガイアから受け取り、ルフレとガイアに天幕の外に出ているようにと指示を出す。
中でどのような術が行われているかは分からないが、外に出されたガイアは落ち着かない様子で天幕を見つめ、ルフレは残念そうに同じ天幕を見つめていた。
「あーあ、一回で良いからヘンリーを抱っこしたかったな〜」
「そう言えば良かっただろ?」
言われてガイアは天幕から視線をルフレに移す。
「だって、ずっとガイアのマント握ってたじゃない。言いづらいわよ…」
「ルフレが抱っこすりゃ、お前のローブを握っただろ」
不満げに言うルフレにガイアは呆れ口調で言葉を返すが、ルフレは納得していないらしく微妙な表情をガイアに向けた。
「…そうかしら?」
「そういうもんだろ」
「違うと思うけどなー」
「…」
ルフレの微妙な表情は、いつの間にか含みのある笑みに変わっていた。
その表情をガイアはちらっと見て、すぐ天幕の方へ向き直る。
「ふふー、気づいた?」
「き、訊くるなよ」
「あら?照れちゃってんの?」
さらにルフレは訊いてくる。
「だから、訊くなって!」
知ってるくせにと、タチの悪い軍師を睨みつける。
面と向かっては言えないが、人の色恋沙汰より自分の事を気にかけろと言いたい。

ルフレの詮索に気を取られていると、天幕から凄まじい殺気を感じた。
何事かとガイアは天幕を注意深く見つめ、入り口の隙間から覗く眼光に息を飲む。
「サ、サーリャ。いつからそこに…」
「私が真面目に解呪をしている間、貴方はルフレと…」
今にも呪ってきそうなサーリャの視線に、ガイアは数歩うしろに下がった。
「い、いや?何もしてないからな?」
「楽しそうに話して…」
聞く耳持たないという態度で、サーリャは持っていた闇魔法の書を開く。
本気で呪う気か?と、ガイアは焦ってルフレに助けを求めた。
「いや、楽しい訳じゃ…、ルフレ、お前もなんとか言えよ?!」
「えーと…、そうそう!サーリャ、ヘンリーは?」
何とかと言われても、下手な事を言えば呪いが発動する気がして、すぐ言葉が出てこない。呪いの矛先はルフレではなくガイアにだろうが…。
「元通りよ」
「本当?流石サーリャね!!惚れ直しちゃうわ〜」
無表情で言うサーリャに、ルフレは大げさに褒めてみせる。
するとサーリャの顔は紅潮し、恥じらった表情でルフレを見つめた。それはガイアに向けていた表情とは天と地の差だ。
「ルフレ…、嬉しい。私も貴方の事、大好きよ」
「あ、あらー。照れちゃうわね〜!あはははは!」
本気かどうかは分からない告白にルフレはぎこちない笑顔で笑ったが、その笑顔は照れ隠しではないだろう。
「無理するなよ、ルフレ。笑いがヘンリーみたいになってるぞ…」
「ガイア。貴方…、本当に呪われたいの??」
そしてまた不機嫌な表情に戻り、ガイアを睨みつけた。
このまま三人だけで会話をするのは身の危険を感じる。あと数回口を開くと本当に呪われてしまいそうだ…。
「あー、いや。そ、それで、ヘンリーは何処だ?」
「天幕の中にいるわ」
「お邪魔する」
言うより早くサーリャの天幕の入り口を開き、ガイアは逃げるように中へ姿を消した。

「ヘンリー」
中に入り、とりあえず名前を呼んでみる。もちろん隠れている訳がなく、天幕のど真ん中にヘンリーは突っ立っていた。
そして、笑顔でこっちを見てきている。
「あ、ガイア〜」
「何か違和感を感じるな…」
目の前まで進み、色んな角度からヘンリーを眺める。
その視線を追って「戻ったはずだけど〜」と困った顔をガイアに向けた。
「いや、分かってるが…。こんな大きさだったか」
向かい合わせに立って身長を確認する。
確かにガイアよりヘンリーは小さいが、子供の時にくらべれば数倍デカイ。
「僕もね、ガイアが小さく見えるよ〜」
「お前よりはデカイけどな?」
そう言ってガイアはヘンリーの頭の上に手を置き、適当に計る素振りをする。
何となくガイアの仕草に幸せを感じて、ヘンリーはガイアのマントを握って微笑んだ。

少しの間見つめ合っていると、天幕の入り口から相変わらずの視線が向けられる。
「いちゃつくなら、ご自分の天幕でどーぞ」
声をかけられすぐ距離を取って視線を女二人に移す。
もちろん、いちゃついたりはしないが、じっと見てくるサーリャの視線は冷たく痛い。
「い、いや、話してただけだぞ?…まあ、有り難うな。手間かけさせた」
「いいえ。一緒にルフレが来てくれたから、それでチャラにしてあげる」
「そりゃ助かる…」
ルフレがついて来てくれて良かったとガイアは安堵の息を漏らした。
そんなガイアを他所に、ルフレは解呪に感心を示す。
「でも、随分簡単に呪いが解けたわねー」
「当然よ、だってヘンリーは…」
「サーリャ〜!」
訊かれたサーリャは余裕の表情を見せ説明しようと口を開いたが、ヘンリーに言葉を遮られてしまう。
サーリャは素直に言葉を切り、ヘンリーの方へ向き直る。
「そうだったわね。ちゃんと呪いの道具一つよこしなさいよ」
「はーい。後で渡すよ〜」
二人の会話が見えてこないガイアは、ヘンリーを怪訝な表情で見つめた。
「何の話しだ?」
道具をよこせなんて、何か取引をしているのだろうか?それとも解呪の謝礼とかか?
色々考えながら返事を待ったがヘンリーは笑顔でそれを無視し、ガイアの背中を押して天幕の出口に向かった。
「早くガイアの天幕に戻ろう〜!」
「なんだ?急に?」
無理矢理歩かされガイアは焦ってヘンリーを見ようとしたが、背中に張り付いていて表情がよく見えない。
口調はいつもと一緒で、やはり何を考えているのか分からない…。
「僕が早く元に戻りたかった理由忘れたの〜?」
「え…。あれ、マジなのか?」
言われて朝の事を思い出す。
子供の姿で言われたその台詞は、ヘンリーなりに気を使っただけの言葉だと思っていたが…。
「うんうん、早く〜」
ヘンリーは頷きながら、どんどん天幕の外へガイアを押し出していく。
「待て、ヘンリー!まだ昼前…」
「じゃあねー、ルフレ、サーリャー!!有り難う〜」
完全にガイアを追い出してから、ヘンリーは二人に手を振って天幕を後にした。

男二人が居なくなり、天幕には女だけが残る。
女だけとは思えないアヤシい空気が漂っているのは、呪いの儀式をしていた天幕だからだろうか…?
「…ふふ。羨ましいわね」
「そ、そうかしら…」
二人のどの辺を羨ましがっているのか…、不適な笑みをこぼすサーリャにルフレは警戒する。
「呪いの道具は明日かしらね…」
「ねえ、それって何の話し?」
ガイア同様ルフレにも何の事か見当がつかず、サーリャを不審な目で見る。
呪い好きな二人だけに、やはり何か闇的な取引をしているのだろうかと…ルフレもガイアと同じ事を思ってしまう。
「口止め料よ。ヘンリーは呼び出した悪魔を忘れてなんかいないわ。隠してただけ」
「え?」
「戻りたくなかったんでしょ。まあ、あんな小さい身体じゃ解呪は無理だったでしょうけど」
淡々と喋るサーリャをルフレは微妙な表情で見つめた。
解呪を簡単に成功させた理由はそれか。と思ったと同時に、アッサリ喋ってしまうサーリャに少し不信感を抱く…。
「サーリャ、それ言っちゃって良いの?口止めって…」
「良いのよ、ルフレは特別。それに、ガイアに知られたくなかっただけでしょうから」
「そっかぁ…。ヘンリーも可愛いトコロあるわねー」
口止めを簡単に破ってしまうサーリャはどうかと思ったが、まあ微笑ましい口止めだなとルフレは微笑んだ。

「呪いが解けて安心はしたけど、小さいヘンリーは可愛かったなあ」
ルフレは目を細めて呟き、サーリャはじっとその横顔を見つめて、彼女もまた呟く。
「私も、やってみようかしら…」
「え?」
視線を感じルフレはサーリャの方を振り向く。
目が合ったサーリャは微笑んで、呪いの道具が並べられた棚を見つめた。
「何でもないわ…、ふふ、ふふふふふふ」
そして、肩を震わせながら、さらに笑う。
サーリャの不気味な笑い声は天幕の外まで聞こえ、行き交う者は小走りに天幕の前を通りすぎる。
「ふふふふ…」

「あは、あははは…」
隣にいたルフレはサーリャにつられて笑うが、その笑いは引きつった笑いでサーリャのそれとは別モノだ。
何も起こらなければ良い…。そう、ルフレは笑いながら心の中で祈っていた。






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おわり

相変わらずのサーリャのルフレへの一方通行の愛です。

タイトルの「それは甘くて…」は、ヘンリーが失敗した呪いの事です。
何となく、甘いわ〜!と、感じて頂ければ…。

ネタを頂いて、そこから妄想して書いていった話しですが…。
ヘンリー幼児化で、呪い中にノノあたりがドーンとぶつかって…。
が、ここまで長くなるとは!!です。
妄想爆発でスミマセン。
書くのは凄く楽しかったです。

少しでも楽しんで頂ければと思います。
ここまで読んで頂き有り難うございます。
誤字脱字は〜…。


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