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FireEmblem 覚醒:呪いと恨みのエトセトラ 前編
絵と文とか

FireEmblem覚醒

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前編です。
獣耳のお話です。だが、気づくと菓子の事だったりします。
最初っから最後まで「呪い」ですが…。





イーリス軍の広い野営地の端っこで、ペレジアの装束を身に纏った呪術士が座り込んでいる。
端から見れば敵軍でアヤシい人物だが、軍の者は見て見ぬ振りをして通り過ぎて行く。
ペレジア装束の呪術士も、そんな周りを気にする事無く術に没頭する…。

「甘い香りとフワトロな食感を〜」
手に持った水晶玉に術を唱え、人差し指でそれに謎の文様を描く。
すると水晶玉の中に煙が渦巻き、術者は顔を近づけて匂いを嗅いだ。
「うんうん、下準備成功〜♪」
満足そうに一人で頷き、ゆっくり立ち上がる。
「あとは天幕に戻って、生け贄と〜」
呪術の行程を確認しながら、自分の天幕を目指して真っすぐに歩き出した。


そこから少し離れた場所では…
同じく禍々しいペレジアの装束に身を包んだ呪術士が歩いていた。
持っている物は同じく水晶玉だが、別に呪術に必須な物ではない。たまたま同じ媒体を手にしているだけだ。
「早く天幕に戻って、この水晶玉に…」

「わ!」
「!!?」

「何処見て歩いているのよ…」
地面に手をつき、同じペレジアの装束を身に纏った男を睨みつける。
二人はぶつかったらしく、睨みつけられた方は右足を抑えて踞っていた。
「あいたた…」
「ふん」
相手が痛がるのを無視して、落とした水晶玉を掴み立ち上がる。
「あ、サーリャ。それ…」
「なによ?」
名前を呼ばれて、サーリャは不満げに振り返る。
「その水晶玉〜」
「これがどうかした?あげないわよ」
そう言ってサーリャは立ち去ってしまう。
彼女の後ろ姿を見送り、残された呪術士の男は辺りをキョロキョロと見回した。
「あ、あった」
地面に水晶玉が一つ転がっており、急いでそれを手に取ってホッと一息つく。
「は〜、よかった〜。サーリャが持ってっちゃったのかと思ったよ〜」
よいしょと立ち上がり、改めて自分の天幕を目指して歩き出した。…が、ふと水晶玉を見つめ何となく鼻を近づける。
「あれ?甘い匂いがしない…」
術を唱えた時は確かに甘い匂いがしたのにと首を傾げる。
そしてそのまま水晶玉の匂いを嗅ぎながら天幕に向かった。


同じ頃、サーリャも自分の天幕に戻り、呪術の準備を始める。
先ほどの水晶玉を手に取り、ふっと流れてきた空気に手を止め、不審な目でそれを見つめた。
「甘い匂いがするわ…」
じーと見つめてから、準備していた魔方陣の真ん中にそれを置き、無表情に呟く。
「ぶつかっただけで、あの男の匂い?男同士のくせに…」
無表情な顔は次第に不満たっぷりな表情に変わり、天幕の中は禍々しい空気に覆われる。
邪悪に満ちたその空間に、サーリャは一つ呪文を唱えた。
「!?」
続けて呪文を口にしようとした瞬間、何かがはじけた音がして邪悪な空気は天幕の隙間から勢いよく外へ逃げていった。
天幕の出入り口が揺れ、サーリャは隙間から微かに覗く外をじっと見つめる。
「…どういう事?水晶玉に念を込めるだけの術で、この私が失敗?」
まだ、本格的な呪いを唱えた訳じゃないのにとサーリャは水晶玉を取り上げて睨みつける。
その水晶玉からしていた甘い香りは、もう感じられなくなっていた…。


「あれー?おかしいな〜、呪いが発動しないよ〜」
もう一方の水晶玉を持ち帰った呪術士は首を傾げる。
天幕に戻り早速呪文を唱えてみたが、用意した禍々しい道具は何一つ反応を見せない。
何回か繰り返し唱えてみるが、悪魔が現れる事もなく、生け贄もそのままだった。
「ん〜、失敗かな〜?僕も呪いを受けてないみたいだし、まあいいか〜。また今度にしよう〜」
ちょっとだけ残念そうに呟き、適当に部屋を片付ける。片付けると言っても、本当に適当で天幕の隅に呪いの道具を寄せただけだ。
ただ、生け贄だけは天幕内にそのまま放置しておくわけにもいかず、面倒くさそうに袋につめて寝台の横に置く。
「明日また使うから、1日くらい平気だよね〜」
臭わないよね?と、くんくん臭いを嗅ぎながら袋を突いた。

「おい、ヘンリー居るか?」
「ん?」
外から声をかけられ、生け贄の入った袋を寝台の下に隠し、天幕の出入り口を開く。
「あれ、ガイア〜。街へ行ってたんじゃ?」
「途中で引き返してきた…」
「屍兵?」
「いや…」
菓子を買いに街へ行くと言って野営地を離れたはずなのに、手には何も持っていない。
「菓子は〜?」
「だから、引き返したんだって…」
確かに手には何も持っていなかったが、その代わり頭の上からすっぽりかぶったフードをしっかり掴んでいた。
ヘンリーは外に顔を出して空を見上げ、ガイアは言いづらそうに口を開く。
「雨は降っていない…」
「日差しもそれほどじゃないよね〜?」
「…そうだな」
他にフードをかぶる理由が思いつかず、ヘンリーは不思議そうにガイアを見つめた。
そのガイアはヘンリーの天幕内を覗き、床や棚を確認する。
「ヘンリー、アヤシい儀式とかはしてないか?」
「呪術の事?してないよ〜。どうして?」
実際はしていたが、術は発動せず何も起きていない。なら、わざわざ言う必要もないかと「していない」と、言葉を返す。
「そうか…」
「ねえ、フード外したら〜?」
天幕にガイアを招き入れてヘンリーは言う。
天候のせいではないようだったが、室内では不要な気がする。
「いや、その…。変なモンが頭に生えて…」
「変なモノ?キノコとか〜?」
「まるで俺がカビてるみたいだな…。病気とか菌とかじゃなくてだな…」
「ん〜、なんだろ?分からないよ〜、見せて〜」
ハッキリしないガイアにヘンリーは少し眉間にしわを寄せる。
もともと気は長い方だが、自分の部屋でフードを外さないなんて、他人行儀であまり良い気がしない。
「笑うなよ?」
「やっぱり、キノコ〜?」
「そんなにキノコが良いのかよ…」
「他に思いつかなくて〜。笑わないから、フード取って〜」
「あ、ああ…」
少し躊躇いながらゆっくりとフードを後ろに下ろす。
その動作を目で追い、最後に頭の上に目を向け、ヘンリーはガイアの頭についているモノを凝視した。
「ガイア、それ…」
ヘンリーは少し背伸びをして、それに触れる。
「ふかふかで毛並みが良いね〜」
「自分で見てないんだが…、やっぱりコレは動物の耳なのか?」
買い出しに行き、その途中で頭に違和感を感じ、慌てて戻ってきたのだ。
道ばたに鏡がある訳もなく、触って何かが生えていると気づき、人に見つかる前にとフードをかぶって野営地へ戻って来た。
そして自分の天幕には戻らず、すぐヘンリーの天幕に向かったのにはちゃんと理由がある。
「コレ、呪いだよな?」
言いながら少ししゃがんで、ヘンリーに頭を向ける。
呪いならば、呪術士のヘンリーに訊くのが一番だ。イーリス軍には呪いに詳しい人物がもう一人居るが、まずは親しい者に相談するのが適当だろう。
「ん〜…」
ヘンリーは顔を近づけて、もう一度ガイアの頭に手を伸ばす。
頭の左右に生えた毛並みの良いそれは、何処からどう見ても獣の耳だ。
すぐ頭に浮かんできたのは「ダグエル」で、現在その種族は兎の耳のベルベットと息子のシャンブレーだけだ。だが、昔は色んなタイプが存在したと聞く。
「ん〜〜…、先祖帰りとか〜?」
「俺の先祖にダグエルがいたとは思えないのだが…。て、いきなり生えてくるか?」
ガイアに言われて、そうだね〜とヘンリーは笑いながらガイアの獣の耳を触り続けている。
結局笑ってるのかよと、ガイアは不満げにヘンリーを見て、自分も耳に触れてみる。
「はあ、やっぱり生えてるよな…。ヘンリー、何か分からないか?」
「やっぱり呪いかな〜」
どう考えても呪いだろ?と突っ込みを入れたかったが、それより誰が?が気になる。
「ヘンリーじゃないんだろ?」
「うんうん、僕じゃないよ〜」
「じゃあ…」
「サーリャかな〜?」
予想通りの名前を言われて思わず溜め息が出た。
何をした訳じゃないが、サーリャが絡むと面倒な事ばかり起きている気がする。普段はルフレに執着していて、こっちに危害はなさそうなのだが…。
「なんで、アイツが俺に…」
「さあ?サーリャの所に行ってみる〜?」
「そうだな…、このままにしとけないしな」
こんな頭を他の奴らに見られるのはゴメンだ。
笑われるのはもちろんの事で、絶対からかわれる気がする。ノノあたりは何を言ってくるか、想像するだけで頭が痛い…。

フードをすっぽり頭からかぶり、出来るだけ人に遭わないように、サーリャの天幕へ向かう。
ヘンリーも一緒についてきていて、何故か道中ずっと後ろからマントを眺めていた。
少し気になりはするが、それより頭だ。そそくさと進み、天幕に声をかけた。
「サーリャ、居るか?ガイアだ」
「…なに?」
間を空け返事が返ってくる。
そっと出入り口を開くと、不機嫌な目がこっちを見てきていた。
「えーと…、俺に呪いをかけたか?」
「なによ、いきなり」
「いや、疑ってる訳じゃないんだが…」
面と向かって「お前だろ」とは流石に言いにくい。サーリャの顔も「私がやりました」という感じではなく…。
お互い心の内を探り合っていると、ヘンリーがガイアの後ろから顔を出した。
「ねえ、サーリャ。水晶玉は使った〜?」
「ええ、失敗に終わったわ」
「その水晶玉の事なんだけど、僕の持って帰った方は術を施していたはずなのに、何も反応がなかったんだよ〜」
そう言ってマントの中から水晶玉を取り出して見せる。
「貴方も水晶玉を持っていたのね…」
「これ、サーリャのじゃない?」
「そのようね」
「僕の水晶玉は〜?」
ヘンリーは水晶玉をサーリャの手のひらにのせて訊く。
渡されたサーリャは無言で二人を天幕の中に入れ、床に散らばった呪術の形跡を見せた。
「ご覧の通りよ…。術の途中で、呪いは勝手に発動して失敗」
「あ〜あ、僕の水晶玉が空っぽになっちゃってるよ〜」
床に転がっている水晶玉を拾ってヘンリーは残念そうな顔をした。そして、匂いを嗅いでさらにガックリと肩を落とす。
「はあ、頑張って術を施したのに〜…」
「ちょっと良いか?それで、呪いは…」
話しが見えてこないガイアは二人の間に口を挟む。
呪術の事はさっぱりで、自分への呪いとの繋がりが理解出来ない。それどころか頭の耳は呪いなのか?という事すら分からない会話だ。
「だから、失敗したって言ってるでしょう」
「でも、サーリャが呪われているようには見えないけど〜?」
呪いの失敗は悪魔との契約破棄とみなされ、術者はその代償として自身に呪いを受ける。
しかし、呪いを失敗したというサーリャに、何の変化も見られない。
「そう、呪われていないわ」
「呪いは何処にいっちゃったのかな〜?」
「そこじゃないの…」
サーリャはそう言い、ガイアの方を指差した。
「…何で俺なんだよ?」
やはり黙って話しを聞いていても、自分が呪われている事が理解出来ない。
だが、サーリャには何か分かったようで、不適な笑みをこぼした。
「呪術を唱えるとき、甘い匂いがして貴方の事を思い出したわ…」
「それと、どう関係してるんだ?」
「男同士のくせに仲睦まじくしてと妬んだわ。私なんてルフレとは…」
言いながらじっとガイアを睨んでくる。
そのサーリャの視線に気づいていない振りをし、下を向いて腕を組み考え込む。
つまりガイアへの妬みをたっぷり呪術に込めた訳だ。それだけなら問題は無いのかもしれないが、その術は失敗に終わってしまっている。
「ふふふ、面白いわね…」
「なにがだよ…」
「呪いなんてもともと凄く曖昧なモノで、悪魔は気まぐれで自分勝手。私の恨みが、そんな形で反映されるとはね…興味深いわ」
サーリャの含み笑いは続く…。
その目線はずっとガイアの頭を見ている。既にフードの中を知っているのではと疑ってしまう。
「それで、どんな呪いを受けたの?」
「いや、その…。分からないもんなのか」
「分からないから訊いてるのよ。とっととフードを取りなさい」
「はあ、分かったよ。笑うなよ…」
ガイアは渋々フードを取り頭を下げてみせる。
「ふふ、ふふふふふ」
「笑うなって言ったろ?」
即サーリャの笑いが返ってきて、不機嫌に言葉を返す。
だが、サーリャの笑いは止まらない。
「何?その耳。私が恨んだ結果がそれ?悪魔もどうかしてるわ…、羨ましいじゃないの」
「羨ましいって、お前な…」
呪われたのを羨ましがるサーリャの事が理解出来ない。
確かに獣の耳は可愛いのかもしれないが、羨ましがる事じゃないだろう。そして、自分に可愛いはどうかと思う…。
「ルフレに生えてくれれば良かったのに」
「ルフレを恨めば良かったんじゃないか?」
「そんな事出来るわけないじゃない」
サーリャの笑いは止まり、また睨まれてしまう。
こいつのルフレへの執着心は今さらどうこう言うべきじゃないが、その一方的すぎる関係は怪しいというより、とても怖くて恐ろしく感じる…。
「そ、それで、元に戻せそうか?」
「多分、呪った悪魔を特定出来れば…。他人が呪われるなんて不測の事態だけど、解呪の方法を探ってみるわ。だから貴方は自分の天幕にでも籠ってなさい」
「あ、ああ。頼む…」
「サーリャー、有り難う〜」
「いいえ、私が原因のようだから…」
ちらりとガイアの頭を見て、また不適な笑みをこぼす。
「だから、笑うなって…」
「羨ましい…」
「…」

じゃあ後は頼むとサーリャの天幕を後にして、来た時と同じく人に遭わないようにそそくさと自分の天幕に戻る。
その道中、ヘンリーもまた来た時と同じく、ガイアのマントを後ろから眺めていた。





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つづく

今回は何処にもルフレは出てきません。が、いつものルフレさんをイメージしていただければ。つまりは女性のルフレです。
捏造設定呪いは今回も大活躍(?)です。

中編に続きます>>

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