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FireEmblem 覚醒:惚れた腫れたのエトセトラ 前編
絵と文とか

FireEmblem覚醒

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(相変わらず酷いタイトル…)
※ガイヘン以外の登場人物は…、相変わらずのサーリャ→ルフレ。ロンノノ。ウード(名前だけですが)とノワール、ソールとソワレです。
※相変わらずの呪いが出て来ます。





野営地の厨房に女性二人の姿があった。
二人は親子で、端から見れば料理をする母親と娘でとても微笑ましい。
だが、この親子の雰囲気はそれと違い、調理場には重々しい空気が流れていた…。

まな板に野菜をのせて包丁片手に見てくる母親と、へっぴり腰になっている娘。
どうみても仲良く料理をしましょうという雰囲気ではない。
娘は厨房に来たばかりらしく、両手には食材の入った紙袋を抱えていた。
「か、母さんが、調理場に居るなんて珍しい…」
「ノワール、貴方はケーキ作り?」
「え、ええ…。母さんは何を?」
調理場なのだから料理をしていると思うのが普通だが、ノワールの頭には「呪い」の単語しか浮かんでこない。
それだけ彼女の母親に対するイメージに料理は無く、あるのは呪いのイメージだけなのだ。
「…お弁当を作っているのよ」
「お弁当?父さん、凄く喜ぶと思うわ。私も嬉しい…母さんがちゃんと父さんを見ていてくれて…」
呪術と軍師にしか興味のなさそうな母親が、やっと料理と父親に興味を示したかとノワールは喜んだ。
結婚して自分がいるのだから興味がないわけはないと思いながらも、父親に対する母親の姿は普通と違いすぎていて、本当に自分は二人の子供なのかと疑問に思う日々が今も続いている。
「何を言っているの?違うわ、ルフレによ」
「え…」
ルフレとはイーリス軍の軍師の名前だ。母親の異常な愛を一心に受ける人物なのだが、父親は大した気に留めていない。
理由は信頼のおける軍師だからか…、それとも女性だからなのか?とにかく夫婦の危機という雰囲気はなく、どうかしているとノワールは今日も嘆く。
「貴方こそ、誰のためにケ−キを作るの。ウードかしら?」
「え、ええ?か、かか、母さん!!!な、何を言ってるの!?」
「ふふふ、照れなくても良いのよ。私たち親子じゃない」
親子と口にするサーリャにノワールは怯えてしまう。
間違いなく親子なのだが、呪いの実験台にされる事が多く、関係は親子というより主従に近い気がする。
「そうよね、親子よね…。ねえ、母さん、父さんには作ってあげないの…?」
「あの人には必要ないから。これは、特別なお弁当なのよ」
これが夫婦の危機がない理由の一つ。何も手を加えなくても分かり合えているのだ。
だが、軍師への異常な執着心はやっぱりどうかしていると思う…。
「特別?」
「ええ、すごく特別なお弁当…」
「母さん…」
母さんの大好きな軍師に贈るお弁当…。
「ふ、ふふ、ふふふふふ」
「こ、こわいわ…」
しかも呪いがかかっている。
母親の不適な笑いから、普通の弁当だとは思えなかった。

相変わらずの雰囲気の中、特に会話をする事なく、それぞれの調理に集中する。
それからどれくらい経った頃か、沈黙の続く中、不適な笑い声が隣から聞こえてきた。
「ふふ、ふふふふ」
「か、母さん?」
焼き上がったスポンジケーキに生クリームを塗ろうとパレットナイフを手に取ったが、母親の不気味な笑い声に手が止まった。
「完成したわ…」
「そ、そう。母さん、凄くうれしそう…」
「ええ、もちろん」
不適な笑みを浮かべたまま、完成した弁当を可愛らしい布で丁寧に包む。
可愛いなんて、この母親にはらしくないが、完成した弁当は本当に可愛らしい。
でもやっぱり中身には呪いが施されているんだろうなと、ノワールは疑いの目で母を見る。
「なによ?貴方もさっさと完成させて、ウードにでも持って行ったら」
「う、ウードにじゃないから!ただ、趣味で作って…」
慌ててノワールは弁解をするがサーリャは興味がないらしく、さっさと完成した弁当を持って天幕を出て行ってしまった。
その後ろ姿を不安な目で見つめ、そんなウードばかりに味見をしてもらっていただろうかと、ノワールは一人になった調理場で長時間考え込んだ。


想いを込めた弁当を豊満な胸に押し付け、サーリャはイーリスの軍師ルフレを探す。
「ルフレ」
「あら、サーリャ」
やっとルフレを見つけて、大事に抱えていた弁当を差し出す。
頬を赤らめて上目遣いに見てくるサーリャに、ルフレは思わず一歩後ろに下がった。
「ルフレのために作ったの。食べて…」
「わ、私のために?」
差し出された弁当をサーリャの顔色を伺いつつ受け取る。
自分の手からルフレに弁当が渡り、恥じらいの表情をサーリャは浮かべた。
「ええ、前回以上に愛を詰め込んだわ」
「あ…あら、有り難う。でも、お昼御飯食べちゃったから、後で頂くわね」
その表情に気づいているかどうかは分からないが、ルフレは戦術書の上に弁当をのせて歩き出した。
「待って、ルフレ。今、私の前で食べてくれないかしら…」
「え、今?うーん、お昼食べたばかりなのよね〜」
呼び止められて、ルフレは空いてる手でお腹を撫でた。
確かに昼時で広間では昼食の配給が行われている。配給を食べるかどうかは自由だが、満足げな表情で言うルフレに嘘はないようだった。
「そう、残念…」
「えーと、後で食べたら感想言うわね。それで良いかしら?」
「駄目よ」
「え?」
感想が聞きたいから目の前で食べてと言っているのかと気を利かせたつもりだったが、予想外の返事がサーリャから返ってくる。
食べて欲しいんじゃないのかと、ルフレはサーリャを不審な目で見た。
「私の目の前で食べてくれないと意味が無いのよ…」
「うーん、でも…」
「だから食べないなら、他の人にでもあげて」
「えぇ?私のために作ってくれたんじゃ…」
どういう事なのか、サーリャの考えが全く分からない。
以前もらった手作り弁当は、確かに彼女の目の前で食べた。しかもアーンまでして…。
つまり前回と同じ結果を求めていて、目の前で食べようとしないルフレに、へそを曲げてしまったという事なのか?
「気が変わっただけ。ルフレが空腹の時に、もっと愛を込めて用意するわ。だから、今回のお弁当は誰かに渡してしまってちょうだい」
「う、うーん。サーリャがそう言うのなら、他の人にあげちゃうけど…」
「ええ、お願い。もっと美味しいの作るから…」
言いながらサーリャは不適な笑みをこぼす。
もう慣れてしまったサーリャの微笑みだが、やはり何か裏がありそうで身構えてしまう。
「た、楽しみにしてるわね?」
「ええ、私も楽しみ…」
ルフレは疑いの目を向けながらもサーリャに手を振ってその場を後にする。
その後ろ姿にサーリャは一言告げ、彼女もまたその場を離れた。


サーリャと別れてルフレは戦術書の上に乗せた弁当を眺めた。
最後に言われた言葉は『弁当を人に渡したら、直ぐその場を立ち去って』…だ。
渡したら直ぐ離れなければいけない弁当なんて、もはやただの弁当ではない。
捨てるのはサーリャに悪い気はするが、どうしても食べる気にはなれない。
どうしたものかと唸りながら歩いていると、広間の席に腰を下ろそうとしている人物と目が合った。
「あら、ガイア。ひとり?珍しいわね」
呼ばれた男はそのまま席に座って溜め息をつく。
「もともと俺はひとりでいる方が多いぜ?」
「今は違うでしょ。ヘンリーは?」
最近は二人でいる所を良く見ていて、一人でいる所を見る方が少ない。
ヘンリーとの関係を知ってるだけに、ついどうしたのかと訊いてしまう。
「ピクニックの引率だ」
「引率って誰のよ」
「ノノと村のガキども」
「ヘンリーが引率って、すんごい心配なんだけど…」
フリーダムなヘンリーに引率なんて勤まるのだろうか…。
子供達の悪ふざけを止めるどころか、ノノと一緒に危険な事に首を突っ込むような気がする…。
「そうか?ガキの面倒は俺より見れるヤツだと思うぞ」
「まあ、良いけど…」
自分と比べてどうするとルフレは呆れた表情でガイアを見た。
そのガイアは首に手を添えてコキコキ鳴らし、大きなあくびをしている。
「暇そうね?」
「いや…、ノノにせがまれて朝っぱらから弁当作ってたんだ。で、さっきまで寝てた」
「ノノのお母さんみたいね〜、ガイア。そういえば、ロンクーは?」
「俺が知るわけないだろ。まあ、あいつも付いて行ってないみたいだから、その辺にいるんじゃないのか?」
「あらあら、ヘンリーとノノの親密度が上がっちゃうわよ〜?」
ヘンリーとノノは異性で、村の子供達より二人は大人だ。恋愛感情が芽生えないとは言いきれないのではないか?なんて、女なら心配してしまうトコロだが…。
なのに、この余裕な態度はなんなのだろう…。ガイアにだけではなく、ロンクーにも言える事だが…。
「俺とヘンリーはSまでいってるから平気だ」
「男同士で支援Sなんて無いわよ…」
それだけ相手を信じているという事なのか。ある意味、羨ましい関係だ。
私もそういう相手が欲しい。…同性ではなく、出来れば異性で。
ブツブツ独り言を呟いていると、ガイアが戦術書の上にある弁当をじっと見てきているのに気づいた。
「あ、食べる?」
「いいのか?」
「お昼まだなんでしょ?どうぞ、私は食べちゃったから」
「お前が作ったのか?」
「ん?ん〜、違うけど。捨てるのも勿体ないから」
素直にサーリャと名前が出てこなかった。
名前を告げるとガイアなら100パーセント拒否するだろう。多分、何かがある弁当だとルフレ同様警戒するはずだ。だが、それでも捨てるのが惜しく、誰かに渡したいという気持ちがあった。
逆に言えば、散々サーリャの呪いに振り回されているガイアだから、まあ良いかな〜なんて思ってしまうわけで…。
「じゃあ、いただく」
「はい、どうぞー」
悟られないように笑顔でサーリャの弁当を差し出す。
「ありがとな」
「じゃあねー、私は定例軍事会議に行くからー、またねー」
サーリャの言いつけを守り、ルフレは弁当を渡すと直ぐその場を立ち去った。
その後ろ姿をガイアは不審に思う事なく見送り、軍師は相変わらず忙しいなと呟いて弁当を広げた。

「ほう…」
弁当の蓋を開けて思わず声が漏れた。
包んである布も可愛らしいモノだったが、中身も可愛らしかった。
御飯の上には炒り卵と肉そぼろで動物が描かれ、肉団子には可愛いイラスト入りの旗が刺さっている。
他にも可愛いくカットされた野菜等々…、見た目も鮮やかで美味しそうだ。
見た限り女が作った弁当だろうなと予想はついたが、ルフレではない事は本人の口から聞いている。
こんな弁当を作る女は…、
「スミアか?いや、オリヴィエか…?ティアモ…は、イメージじゃないな」
一人でブツブツ言いながら、フォークでおかずを突いて口に運ぶ。
甘くはないが味は自分好みで美味しい。
一人だからか手を止める事無く、黙々と可愛い弁当を頬張る。

「…」

何か違和感を感じ、ずっと動かしていた口を止め、フォークをテーブルに置く。そして、じっと食べかけの弁当を見つめる…。

「……」

そのまま微動だにせず、食べるのをやめた弁当をじっと見続けた。

「………」

「ガイア、何してるんだい?」
「ん、ソールか…」
声に気づいて顔を上げると、ソールがテーブルを挟んで立っていた。その視線はガイアにではなく弁当に注がれている。
流石、軍で一番食い意地のはった…というだけの事はある。
「食べたいのか?」
「ん?いやあ、昼食は食べたんだけどね。美味しそうなの食べてるなーて思って」
「足りてないのか?食べたいなら、お前にやるよ」
「良いのかい?」
「ああ、俺はもう十分だ…」
「じゃあ、もらおうかな」
「ああ…」
大きく息を吐きガイアは弁当をソールの目の前に移動させた。
フォークを手に取りソールは嬉しそうに弁当を見つめる。
「それにしても可愛い弁当だね。本当に僕が食べても良いのかい?ガイアが女の子から貰った物だったんじゃ?」
「いや、もともとはルフレが誰かからか貰ったヤツだ。気にするな」
「ええ?誰が作ったか分からないで食べてたの?」
「お前も人の事言えんのかよ…」
「はは、そうだね。いや、でも美味しいよ!」
ソールは黙々と食べ、それをガイアは黙って見つめる。
美味しそうに食べるソールは、あっという間に弁当箱を空にした。
「どうだ?」
「お、美味しかった…よ?うん」
そう言ってソールは食べ終えた弁当を片してガイアの目の前に戻す。
「ごちそうさま…」
「…」
目の前に戻された弁当箱をガイアは無言で眺め、ソールは不審な目をガイアに向ける。
「あのさ、ガイア…。この弁当って…」
「やっぱり普通じゃないよな」
ソールの言おうとしている事が分かっているらしく、ガイアはすぐ言葉を返す。
「ええ!?知ってたの?」
「いや、知らなかった。俺がおかしいのかと思ってた」
「ちょっとぉっ!僕で試したの?」
心無しか少し前屈みになって、いつも異常に困った顔をガイアに向けている。
何かを訴えるソールの表情に、ガイアも少し困った顔をして彼と同じく少し前屈みになった。
「試した訳じゃないが…、物欲しそうにしてたお前の自業自得だろ」
「そんなあ…、どうするの?これ…」
「さあ…、俺も考え中だ」
姿勢をそのままにガイアは手の甲に顎を乗せて唸る。
そしてソールは落ち着かない様子でさらに前屈みになった。
「もう、責任とってよ〜!」
「取れるわけないだろ。自分で処理しろ」
「処理って…、どうしてガイアはそんなに落ち着いていられるのさ…?」
「ん、まあ…」
ガイアは空を見上げて、大体の時間を確認する。
太陽の向きから、そろそろ「菓子の時間」か…。

「ガイアー!」
空を見上げていると、聞き慣れた声で名前を呼ばれる。
毎日聞いているその声に気分は盛り上がり、今日はいつも以上に求めてしまっている自分に気づく。そして、その理由はもう分かっている。
「やっと戻って来たか…」
そう言って立ち上がり、笑顔で寄ってくる相手に自らも近づく。
「ん〜?早く帰って来れたと思うんだけどな〜」
「よし、ヘンリー。良い時間だし俺の天幕に来るか?」
言われて先ほどガイアがしたように、ヘンリーも空を見上げて時間を確認する。
「うん。ちょうど菓子の時間だね〜」
「ああ、そうだな。他にも食べたいモンはあるが」
さりげなく腰に腕を回し、ガイアはヘンリーを見つめる。
空を見上げていたヘンリーはガイアに視線を移した。
「ん?」
「いや、なんでもない。こっちの話しだ」
ポンポンと肩を軽く叩いて、早く天幕へ行こうと即す。
二人は歩き出したが後ろから声をかけられ、ガイアは忘れかけていた存在に気づく。
「ちょっとガイア!自分だけずるいよ!?」
「何がだよ」
不満たっぷりに見てくるソールをガイアは何とも言えない表情で見る。
ずるいと言われた理由は分かるが、自分だけと言われても流石にどうする事も出来ない。
「だって、その…ヘンリーと…」
「ヘンリーは駄目だぞ。あと、俺も無理だからな」
「じゃあ僕はどうしたらいいのさ?」
ソールを巻き込んだのは確かに自分のせいでもあるが責任は取れない。
どう責任を取れば良いかなんて考えたくもない。そして、そんな事を考える余裕は自分も無くなってきている…。
「自分で考えろ」
「え〜!」
「ねえ、どうしたの?ソール、大丈夫〜?」
ガイアとソールの間で何が起きているか知らないヘンリーは、心配そうにソールを見つめる。
もちろん笑顔のままで心配しているようにはあまり見えないが…。
「まあ…、ヘンリー。気にするな…行くぞ」
「ん〜。じゃあ、またねー!」
「じゃあな、ソール。武運を祈る」
ガイアはちらっとソールの後ろに目をやって、ササッとその場を離れた。
「武運ってなにさ!?ちょっと待ってよ、ガイア!!」
逃げるように去って行ったガイアに、らしくなくソールは怒りをぶつけた。
その怒りは無責任なガイアに向けたものだが、身体の中の熱いモノを紛らわすためでもあった。
「はあ、ガイアは良いよなあ…」
ガイアの相手は男だが、天幕に連れて行って何をするつもりか大体想像はつく。
女すら相手の居ないソールには少し羨ましく感じた。

「はあ…、やっぱり一人でかな…」
「どうしたんだい?ソール」
「うわっ!?」
ブツブツ一人で愚痴っていると、声をかけられ慌てて後ろを振り向く。
「ソワレッ!!!!」
そこには両手を腰にあてて呆れた表情で見てくるソワレがいた。
「そんなに驚く事ないだろう?ずっと後ろに居たんだけどね」
「ええ?そんな前から!?」
「ガイアと入れ違いくらいだよ。気配に気づけないなんて深刻そうだね。僕でよければ相談にのるよ」
「え、えええ?いや、それは…!!」

それは駄目だろっっ!!!??

ソールの叫びは、彼の心の中だけで響いた。







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つづく

後編に続きます>>

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