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FireEmblem 覚醒:One 2
絵と文とか

FireEmblem覚醒

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―翌朝―

早朝というには遅いが、昼というのには早すぎる時間。
朝食を終えた者達は訓練の準備で慌ただしく動き回る。
ヴァルム帝国軍との戦闘に備え、イーリス軍は万全の態勢で臨もうと訓練にも熱が入る。
やる気に満ちた野営地で、のほほんと寝ているヤツなんているはずがない。と、訓練に参加する者ならば思うだろう。
イーリス軍は統率の取れた優れた軍だ。
だが蓋を開けてみると案外そうでもないらしく、訓練に参加する者と軍全体の人数が合ったためしがない。
体調不良で欠席する者もいるだろうが、それだけとは限らないのが現状だ…。

個人の天幕が並ぶ野営地の一角は、朝食だの訓練だのと人が出払っていて静まり返っていた。
その静かな空間で、微かな声が一つの天幕から聞こえてくる。
大きな声ではなかったが、それだけ周りが静かなのだろう。
「起きろ」
「ん〜…」
声をかけられ布団の中で寝返りをうつ。
天幕内は暗く『なぜ起きなければならないのか?』が寝ている頭で理解出来ず、うるさいな〜と毛布を頭からかぶる。
「朝だぞ。訓練に遅れるぞ」
「ん…、あれ〜?」
朝と言われ素直に納得し、一人で寝てるはずなのに誰の声だろう?と、毛布から顔を出し薄目を開ける。
寝台の横には自分が承認した見張り担当の盗賊が立っていた。
担当と言っても二人の間で交わされた駆け引きみたいなモノで、他の者はそんな関係を知らない。
「おはよう。俺が誰だか分かるか?」
「おはよう〜、ガイア」
「覚えているようだな」
「見張りは起こしてもくれるんだね〜。助かるよ〜」
ニコニコと薄っぺらな笑顔をガイアに向けて寝台から起き上がる。
助かるなんて言われると「世話を焼くために見張っているわけではない」と、ツッコミを入れたくなるが…。
「違う。訓練の相手が俺なだけだ」
「あ〜、二人で組んでだっけ〜」
大きなあくびをして毛布を手繰り寄せヘンリーは二度寝の準備をする。
「サボる気か?」
「当たり〜。朝食も逃しちゃってるしね〜。お腹ペコペコなんだ〜、あはは」
ヘンリーは笑いながら腹を擦った。
数日後にはヴァルム帝国軍との戦が始まるというのに、この緊張感の無さは何なのか…。
とは言え、腹が減っているなら訓練どころではないだろう。空腹での訓練が苦痛以外のなにものでもないという事は知っている。
「メシ食いに町にでも行くか?」
「ん、ガイアは?」
「一人で訓練してもな…」
怠そうに頭をかいてガイアは言う。
「一人の方が僕と訓練するより強くなれると思うよ〜」
「俺がそんな熱心に訓練するように見えるか?」
一人で素振りをやれば5回くらいでやめるだろう。ならばと走れば途中で足を止め昼寝をするに違いない。
強くなりたいとか特に目標がなければ、人間なんてそんなもんだろう。
「どうだろう?」
首を傾げてヘンリーはガイアを見てくる。
そのヘンリーの目にはガイアがどのように映っているのか…。
「まあ、俺も朝飯食べてないからな。丁度いいだろ」
「あはは、ガイアも寝坊したんだね〜」
「まあな。ほら、早く着替えろ。誰かが呼びに来る前に野営地を離れるぞ」
きっと自分と同じくらい適当で自由な人間に見えているのだろう。
それは多分間違ってはいない。

ヘンリーが訓練をすると言えば、少々キツいが見張りをかねて付き合うつもりでいた。
だから天幕まで起こしに来たわけだが、全くやる気のない態度につい乗っかってしまう。
人の事は言えず、やる気はある方ではなく適当が丁度よく心地良い…。


町へ着き、自分らしく適当な茶屋に入る。
朝食のつもりで入った店だが、テーブルに並べられたのは甘いモノばかりだ。
「朝から胃がもたれそうだね〜…」
とりあえず紅茶を手に取ってヘンリーはテーブルの上を眺め、どれから食べようかと唸る。
「そうか?糖分を取らないと1日が始まらないだろ」
言いながらガイアは紅茶を端に移動させ、迷う事なくケーキを口に運ぶ。
「あはは、ガイアは甘いモノが好きなんだね〜」
「ああ」
満足そうに返事をするガイアを見つめ、ヘンリーは紅茶をテーブルに置き口を開く。
「…本当に食事だけしに僕とここへ?」
「疑ってるか?」
「もちろん〜。それで、何か分かったかな?」
「いいや、何も。底知れぬ魔力を持ったペレジアの呪術士って事と、あとは…少しだけ生い立ちを軍のヤツから聞いたぐらいだ」
相変わらずガイアの目線は甘いものに向けられている。
ちゃんと話しを聞いているのか?と疑いたくなるが、口調に甘さはなく目線以外は真面目な対応だ。
「…、誰に?」
「それは言えない」
「ふーん」
ならいいや。と、ヘンリーは砂糖菓子を一つ頬張る。
軍の者に生い立ちを話した記憶はない。ルフレにだって話していない。
考えられるとすれば、自分と同じくペレジアから来たサーリャだろう。彼女ならばペレジアにいた時に、耳にしていても不思議ではない。
などと喋った人物を特定してみたところで、別に責めるつもりはない。知られて困る事でもなく、少し普通と違うと言うだけの事だ。
「悪い人間じゃないって事は理解したつもりだ」
ずっと菓子を見ていたガイアの目は、いつの間にかヘンリーに向き直っていた。
その視線に気づきヘンリーも目を合わせる。
「じゃあ…」
「ああ、もう見張りはしない。調べるのもやめるよ」
「なんか、ちょっと寂しいな〜」
「変なヤツだな」
残念そうにするヘンリーを見て、ガイアは苦笑いをする。
「ここは安堵の表情を見せるのが普通だろ?」
「ん〜…、でも一人は寂しいって知っちゃったからね〜」
「知った?」
何の事だとガイアは言葉を反復して、意味を頭の中で確認する。
むしろコイツはずっと一人で寂しさは誰よりも知っているんじゃないかと…。
「多分、ガイアが教えてくれたんだよ」
「何もしてないが?」
さらに意味が分からない。寂しいヤツに寂しさを教えるってどういう事だ?
もちろん教えた記憶は何もない。
「見ててくれたからかな」
「疑いの目でだけどな…」
「それでじゅうぶんだったんだよ。僕がここに存在してるってガイアが証明してくれたんだよ〜」
「そんな大それた事じゃないだろ…」
存在を証明だなんて、ヘンリーに自分がどう映っているのか心配になってくる。
疑われた事を恨んではいないようだが、逆にキミのおかげだからと媚び諂ってこられるのも面倒くさい…。
「僕には大事な事だったみたいだよ〜」
「見張られるのがか?」
「見ててもらえるのが嬉しかったんだ」
「控え目な喜びだな。それなら監視されるより、自分が一緒に居たいと思える人を捜せ。お互い寂しくないし、嬉しい事も増えるぞ」
ヘンリーが友達と呼んでいたのは狼だけで、人との深い関わりはなかったと軍の者に聞いている。
ひどい仕打ちを受けていたようだが、見ててもらえるのが嬉しいと言うのなら、人の入る余地はまだあるはずだ。
折角イーリスへ来たんだ、そろそろ報われても良い頃だろう。
「誰かな〜?」
「さあな、それは自分で探せ」
訊かれてもそこまでしてやる義理はない。自分にだって特定の女はまだ居ないのだから…。
「ん〜、ガイアは菓子好きだよね?天幕にも一杯あるの?」
「あ?まあ、あるが…」
いきなり菓子の事を訊かれ、頭をよぎっていた軍の女達の顔が一斉に散る。
そして頭の中にポツラポツラと秘蔵の菓子が浮かんできた。
「見たいな〜」
「菓子に興味があるのか?」
「うんうん。ペレジアにこんな奇麗な菓子は無かったからね〜」
数個菓子を手に取って嬉しそうに眺めながら言う。
テーブルの上に置かれた甘い食べ物は、半分以上は既に胃袋の中だ。
「そうか、なら今度見せてやるよ。この量の比じゃないからな、覚悟しとけよ」
「あはは、楽しみだな〜」
ガイアはにやりとしてみせ、ヘンリーは笑い、二人は残りの菓子を口にする。

朝食に甘い物を食べ、帰り際でも菓子を買い、食べながら野営地へ戻る。

朝から甘い物しか食べていないヘンリーは、しょっぱい物を求め準備中の昼食の席に腰を下ろす。
同じく甘い物しか食べていないガイアは、さらに甘い物を求めて自分の天幕へ向かう。
一緒に食べるかと誘われたが、もう甘い物は喉を通りそうもなく…。
秘蔵の菓子を見てみたいヘンリーだったが、今日は無理とテーブルに頭を乗せ目を閉じた。

そして見た夢は菓子の夢…。
今まで苦しい過去の事ばかりだった夢が、甘い菓子に変わるなんて…。
今日はこれ以上菓子は見たくなかったが、この甘い苦しさに幸せを感じる…。

それって、おかしいかな?








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つづく

3に続きます>>

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