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FireEmblem 覚醒:眠れぬ夜のひつじたち 前編
絵と文とか

FireEmblem覚醒

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ヘンリー誘い受け(ケアル感謝祭リクエスト)
タイトルに意味はないです。二人の事かどうかすら謎です…。

二人年齢不詳ですが、一応注意書きを。
FEの世界では飲酒に関する法律はなさそうですよね?
※未成年者の飲酒は法律で禁止されています。



季節は秋。
野営地から見える山々は既に紅葉し、近くを流れる川の水は冷たく澄んでいた。
紅葉している山の間から微かに見える白いそれは、雪化粧をした高い山なのだろう。
野営地周辺はまだ秋だが、冬はもうすぐそこまで来ているんだなと遠くを眺めて思う。

日は沈み、夕食を済ませて自分の天幕に向かう。
吐く息は白く、今日は昨日より寒く感じた。
「今日は冷え込みそうだな…」
まだ秋とも言えなくはないが、雪が降るんじゃないかとさえ思う。
イーリスの景色は木々が紅葉し赤みを帯びているが、フェリアはもう真っ白なんだろうと想像し更に寒くなった。
体をさすりながら天幕に戻り、荷物の中からオイルランプとワインを取り出す。
オイルランプは照明器具だが、ワインを注いだカップを暖めるために設置し、ぼーっとランプの火を眺めて今日1日を振り返る。
今日もフレデリクは訓練熱心だった。サーリャはルフレを陰から見ていた。ヘンリーは相変わらず笑っていた…。
そして、この軍は平和だなと思う。

ワインが温まったのを確認して、カップをランプから下ろす。
そして、一口飲んで大きく息を吐いた。
「はあ、暖まる…」
ひとりで暖をとっていると、天幕の入り口が開く。
冷気が入ってきたため少し不快な顔をし、開いた入り口に視線を向ける。
「何のようだ?せっかく暖まったのに…」
「ここ、ガイアの天幕だったんだね〜」
入って来たのは、今日も笑っていたヘンリーだった。
「誰の天幕と間違えたんだよ…」
「誰だろ?」
「はあ?」
理解が出来ず、間抜けな声が出てしまった。
誰か別の人の天幕と間違えた訳ではないのか?その誰かも分からないって…。
「…大丈夫か?」
頭でも打ったのかと心配になる。
当の本人はヘラヘラと笑っている。その笑顔はいつもの事なので、表情からはまったく心情は読めない。
「大丈夫だよ〜。寒くて寝れなかったんだよね〜」
つまり暖まる事が出来れば、誰の天幕でも良かったという訳か。
別に何を期待してる訳でもないが、誰でもというのは気分がいいものではない。
だがここで不機嫌になってしまうのは少し大人げないと思い、いつも通りを心がける。
「お前の天幕、そんな寒いのか」
「うん。ひとりは寒いよね〜」
確かにそれは、一理ある。
だがそれより、ヘンリーの格好の方が気になった。どう見ても外を出歩く格好ではない。
その格好は上に裾の長い服を一枚着ているだけで、長袖ではあるが下半身が寒そうにみえる。
「寒いのに何で寝間着一枚で来てんだよ…」
「着替えるの面倒だったからだよ〜。どうせ寝るだけだからね〜」
寝るだけと言われ、自分の顔が引きつるのが分かった。
てっきり、暖まったら戻るのだと思っていた…。
「まさか、ここで寝る気なのか?」
「うん、あたり〜。二人で寝た方が暖かいよ〜?」
「はあ…」
あっさり肯定され、溜め息が出た。
確かに暖かいだろうが、寝台が半分占領されるのは寝苦しいという感覚がある。
他人に気を使わずゆっくり寝たいガイアとしては、人と一緒には寝たくなかった。
しかもヘンリーは男だ。これが女なら、違う期待を込めて歓迎したかもしれない…。
「駄目?」
考え込んでいると、ヘンリーが不安そうな声をかけてきた。とは言っても、表情はいつもの笑顔だ。
「いや、まあ別に構わないけど…」
寒くて来た奴を追い返すのは、少し気が引けて出来なかった。
寒いならとカップをもう一つ用意して、ワインの蓋をあける。
そしてワインを注ぐ前に、瓶をヘンリーに見せて訊く。
「飲めるか?」
「飲んでいいの?」
「ああ。暖まるぞ」
カップにワインを注ぎ火にかけ、近くにあった袋から菓子を取り出しテーブルの上に並べた。
「ワインが暖まるまで、菓子でも食べてようぜ」
「美味しそうな菓子だね〜。いただきま〜す」
ちょっと不安そうにしていたヘンリーは、いつもの調子に戻っていた。

ワインが暖まり、カップをヘンリーに渡す。
「熱いから気をつけろよ」
「はーい」
カップを受け取り、その暖かさに満足な表情を浮かべ、ヘンリーはワインを一口飲んだ。
幸せそうにしているヘンリーと対照的に、ガイアの表情は少し険しかった。
その表情に気づいたヘンリーは、食べようとした菓子を口へ運ぶのをやめる。
「あれ〜、どうしたの?僕、邪魔だったかな〜。帰った方が良い?」
いつもの笑顔だが、その表情とは裏腹に不安そうな言葉をガイアに向ける。
確かに、あまり歓迎はしていなかったが、追い返さなかったのはガイア自身だ。
なのに自分のせいで不安そうにされるのは不本意で、それについては否定して言葉を返す。
「いや、邪魔だったらとっくに追い返してるぞ。そうじゃなくて、その格好で俺の天幕に入っていく所を誰かに見られてないか、ちょっと気になってな…」
ヘンリーは寝間着一枚で、他人の天幕に来たのだ。
男同士だから気にはならないのかもしれないが、変な噂が立たないとも言い切れない。
「大丈夫だよ〜。女の人の天幕は離れてるからね〜」
ヘンリーの頭の中に、ガイアが心配しているような事は、まったく無いようだ。
女の天幕が男の天幕から離れている事は、ガイアだって知っている。むしろ、知らない人の方が少ないだろう。
「誰の天幕か分からなかっただけでも問題だが、さらに女の天幕だったら大問題だろ…」
「女の人の天幕じゃない事は、分かってたよ〜?」
そこが大丈夫なのは十分わかったと、ガイアは溜め息まじりに次の言葉を口にする。
「まあ…男の天幕でも、そんな格好で入るのはちょっと問題ありだ。男色家だと思われるぞ…」
「そっか〜。人にどう思われるかなんて考えてなかったけど、ガイアが困っちゃうなら、これからは気をつけるよ〜」
これからと言われ、また来る気なのかと思った。だが、そこには触れず残りのワインを飲み干す。
ヘンリーが飲み終わるのを待って、そろそろ寝るかと就寝の準備をする。
「体が暖かい内に布団に入ろうぜ」
「は〜い」

寝台は一人で寝る事しか想定されていないため、二人で寝るのにはギリギリの広さだった。
予想していた事とはいえ、やはり寝苦しい。
どうにか寝心地の良い姿勢をとり、眠気が来るのを待った。
隣にいるヘンリーは殆ど体を動かさず、微かな寝息をたてている。
「寝付くの早いな…」
眠気が来るまでする事のないガイアは、寝ているヘンリーを眺めていた。
初めて笑顔以外を見たかもしれない。無防備な寝顔なんて普通にしてたら見れないよなと、ついつい見入ってしまう。
いつもの薄っぺらな笑顔とは違い、寝顔は中性的な魅力を感じた。
その寝顔に触れてみたくなり手を伸ばしかけたが、寸前で理性が働き布団の中に手をしまった。
触れて起きたとしても、ヘンリーなら気にしないだろう。だが、触れてしまうと他の欲望がわいてくるような気がする。
なんだか変な気分になってきている事に気づき、ガイアはヘンリーの寝顔を見るのをやめて目を閉じた。
そして早く睡魔が来ないかと、羊を数えはじめる。



羊は柵を飛び越え左から右へ走って行く。
いっぴきにひきさんびき…
寝付くまでに何匹まで数えたか記憶にないが、羊は途中から柵をすり抜けていた気がした。


ーーーーーーーーー

後編へ続く。


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