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FireEmblem 覚醒:はちみつの味 前編 |
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弓を使ってるのでアサシンかもしれないガイアという事で。え?アーチャー?? 内容としては、ドタバタ劇にみえて案外真面目だと思います。た、多分…。 野営地から少し離れた森の中にガイアは居た。 彼の目的は蜂の巣採りで、今まさに目当てのブツに遭遇していた。 巣の回りには無数の蜂が飛び交っており、木を登って容易に奪取出来る状態ではない。 採り方としては、風上で火を焚き煙で蜂を追いやってから巣をとる方法がある。 しかし、焚火の準備やその後始末の手間を考えると少々面倒くさい。 準備に時間と手間をかけたくないガイアは、蜂を追い払わず矢で巣を射落とす事にした。厄介な蜂の処理は後回しにする。 適当に計画を立て、蜂に襲われないように巣とは十分に距離を取る。 外さないよう慎重に巣の根元に的を絞り、矢の切っ先に神経を集中させ弓を引き狙いを定める。 ある一点に狙いが定まった次の瞬間に矢を放ち、見事巣を落とす事に成功した。 よし!とガッツポーズをしたと同時に、苦痛な声が聞こえてきた。 声は蜂の巣がある方角からで、落下した巣の横で人がうずくまっていた。 服装からすぐ誰かは分かったが、声をかけるより先にガイアの体は動く。 蜂を追い払いながら、蜂に襲われている人物のマントを掴み走るように即す。 「ヘンリー、走れ!刺されるぞ!!」 走り出して、やっと声をかける。 マントを引っ張られ、よろめきながらヘンリーと呼ばれた人物は口を開いた。 「いたた。もう刺されてるよ〜」 「じゃあ、これ以上刺されないように走れ!」 「え〜…」 ガイアに引っ張られながら走るヘンリーは転ばないようにするのが精一杯で、不満の声をあげた以外なにも言葉を返せなかった。 必死に走ってはいるが、蜂の猛追は収まる気配がない。 ガイアには余裕があったが、ヘンリーの体力はそろそろ限界にきているようで苦しそうに息をしている。 その様子を見て、ガイアは走る以外に蜂を撒く方法を考えた。 流石に引きずって走るわけにもいかないよな等と考えながら走っていると、急に視界が開ける。 「湖か!飛び込むぞ!!」 「え、えええ〜〜〜」 急な事に戸惑っているヘンリーを無視して、勢い良くガイアは湖に飛び込んだ。 ヘンリーは湖に入らないように足を止めたが、マントを引っ張られていたため抵抗虚しく湖に落ちた。 二つの大きな水しぶきが上がり、水面にいくつもの波紋が広がる。 「ぷはっ!」 先に水面から顔を出したガイアは、蜂がいるか確認して湖から這い上がった。 「どっか行ったみたいだな…。大丈夫か?ヘンリー、生きてるか…?」 ずっと掴みっぱなしのマントを引っぱり、体が浮いてきたところで腕を掴み引き上げる。 「は〜…。死ぬかと思ったよ〜」 全速力で走ったせいか、または水を吸ったマントが重いのか、ヘンリーは陸に上がってそのまま座り込んでしまった。 「いや、本当にすまない。まさか、あんなところに人がいると思わなくてな…」 「気にしないで〜。僕も小動物探してて、上を見てなかったから〜」 小動物?と思ったが、そんな話をしている場合でもない。 蜂に刺され、さらにびしょ濡れという悲惨な状態をどうにかするのが先だろう。 「結構、刺されたのか?俺は2、3カ所くらいなんだが…」 「数えてないよ〜。見えないからね〜」 何処を刺されたのかとヘンリーの顔を覗き込むが、顔に刺された痕は無かった。 顔と手以外は肌が見えていないので、刺されてるかどうかすら分からない。 「顔は刺されてないみたいだが、何処だ?」 「脚ばっかり、いっぱい刺されたよ〜」 「脚か…。その格好じゃ、確かに良い的かもな…」 蜂は明るい色より黒い色を攻撃すると聞く。肌と密着した黒色の衣服なら恰好の的だろう。 「取りあえず、野営地に戻って手当てしないとだな。歩けるか?痛かったり痒かったりで辛かったら、おんぶってやっても良いぞ」 「え〜、歩けるよ〜。走って疲れたけど、大丈夫だよ〜」 「そっちかよ…」 ヘンリーの歩調に合わせ、ゆっくり野営地を目指して歩く事にする。 本当は担いでさっさと戻りたかったが、大丈夫と言われて嫌なのかと思い無理強いは出来なかった。 少し時間は掛かったが、なんとか野営地まで戻り、そのまま医療用の天幕を目指す。 天幕の中に入ると、ルフレが何か作業をしていた。 その作業の手を止め、不審な目で入ってきた二人を見ている。 「どうしたの?ずぶ濡れで…」 訊かれて、ガイアはバツが悪そうな顔をした。 「いや、その…。蜂の巣を採ろうとして、失敗した…」 説明するのが面倒くさく、簡潔に言う。 「ヘンリーはどうしたのよ…」 簡潔すぎて伝わらなかったらしく、当たり前のように訊かれてしまう。今の説明でヘンリーがどのように関わっているか分かったら、それは凄い事だろう。 「俺が落とした蜂の巣がヘンリーに当たったらしくて、蜂に襲われて逃げるのに湖に飛び込んだんだ。で、このありさまだ」 結局、ちゃんと説明してしまった。 面倒くさいと思っても、説明するべきところはしないと伝わらない。当然の事なのだが、どうしても面倒くさいという気持ちが先に来てしまい、説明を端折ってしまう。 ちゃんとしなければとは思うが、思うだけでやっぱり面倒くさい。 「大丈夫?薬探すの手伝う?」 ルフレは見ていた資料を机に置き、椅子から腰をあげた。 「なんかやってたんじゃないのか?」 「平気よ。急ぐ事じゃないし、痒い方が我慢出来ないでしょ?」 そう言ってルフレは薬の入った箱を数個運んできた。 ガイアもルフレと一緒に箱の中を探す。 ヘンリーだけは、探してる二人を遠目で見ているだけだった。 それに気づいたガイアはヘンリーの方に視線を向ける。 「下脱いどけよ。衣服擦れて悪化するぞ」 「え〜。ここで?」 「どっちみち、そのままじゃ塗れないだろ」 ガイアは当然のように言うが、非難の視線が向けられていた。 「ねえ、ガイア。あたし女の子なのよ?ヘンリーだって女の子の前じゃ脱ぎたくないんじゃない?」 言われてガイアはルフレを確認するように見た。 「ああ、悪い。お前、女だったな…」 「今、確認したでしょ!」 「いてっ」 ルフレは持っていた薬瓶を至近距離からガイアに向けて投げた。 薬瓶は転がり、ヘンリーの足下で止まった。 「ああ、ヘンリー。それが虫さされに効く薬よ。あと、ガイアからたんまり慰謝料貰っとくといいわよ」 「慰謝料って、お前…」 「別にお金じゃなくても良いのよ。何か欲しいものぐらい買ってあげなさいよ?ガイアのせいなんでしょ!」 「お前の怒り、何処に向いてんだよ…。まあ、良いぜ買ってやるよ。ルフレにじゃないからな」 呆れた口調でガイアは言う。 「あたしも欲しいくらいよ〜?乙女の心傷つけたんだから」 誰が乙女だ?と思ったが流石に口には出せなかった。 慰謝料なんて言葉を使う女は乙女ではない。いや、それは人それぞれだとは思う…が、らしくないと思う。 そんな事を考えているガイアをよそに、ルフレは出した薬箱を片付けて天幕の出口に向かった。 「じゃあ、女の子がいると薬も塗れないでしょうから出てるわね。ヘンリー、お大事にね」 そう言って、ルフレは天幕を出て行った。 女の子らしくない事を気にしていたのか…。 ちょっと口が滑ってしまっただけで、普段ガイアはルフレをちゃんと女として見てるつもりだった。ただ、意識はしていなかったのは確かだが。 「あそこまで怒るとは思わなかったな…」 「ふふ、ガイアは女の子の扱いがヘタだね〜」 「お前はどうなんだよ…。まあ、いいや。塗ってやるから脱げよ」 ヘタと言われても別に腹は立たなかった。女の扱いが上手いだなんて、もちろん思ってはいない。 そして、薬瓶をこっちへ渡すようにとヘンリーに手を差し出す。 ヘンリーは足下にあった薬瓶を拾ってガイアの手に乗せたが、衣服は脱ごうとしなかった。 「良いよ〜、自分でやるから。先にガイアが刺されたところに塗って」 「大丈夫か?塗れない所あったら言えよ」 「うん〜、ありがとう〜。着替えもしたいから、自分の天幕で塗るよ〜」 「ああ、そうか。そりゃそうだな…風邪引く前に戻るか…」 薬を小瓶に少し分けて、小瓶をガイアはズボンのポケットに入れる。 残りはヘンリーに渡し、各々自分の天幕へ戻った。 数日後。 そろそろ蜂蜜が恋しくなってきたガイアは、採取に失敗した時と同じ森の中にいた。 前回採り損ねた蜂の巣は流石にもう無く、新しい巣を探す。 「この辺には、もう無いかな…」 辺りを隈無く探してみたが、蜂の巣どころか飛んでる蜂にすら出会えなかった。 もっと奥に行こうかと歩き出した時、後ろから声をかけられる。 「やっと見つけた〜」 振り向くと、ヘンリーが立っていた。 そして、近づいてきてガイアに自分が持っていた物を渡す。 「はい、ガイアにあげるよ〜」 渡された物は、立派な蜂の巣だった。 「な?どうしたんだコレ…」 「採ってきたんだよ〜。この前、邪魔しちゃったからね〜」 言われてガイアは、まじまじと蜂の巣とヘンリーを交互に見る。 立派な蜂の巣は、どこも欠けたところは無く無傷の状態だった。 そして今日のヘンリーは蜂に刺された様子も無く、どうやって採ったのかが気になった。 「ヘンリーひとりで採ったのか?」 「うん〜」 「どうやって採ったんだ?こんなでかいの良く採れたな…」 訊かれたヘンリーはいつもの笑顔で答える。 「ふふ、それは秘密だよ〜」 秘密と言われて、それ以上は訊く気になれなかった。 きっと、自分にはマネ出来ない方法なのだろう。自分とヘンリーじゃ得意分野が違いすぎる…。 「まあ、良いか。ありがとうな」 「こちらこそ〜。この前はゴメンね〜」 「いや、あれは俺が…。刺されたところはもう良いのか?」 「うん、だいぶん良くなったよ〜。まだ痛がゆい所あるけどね〜」 「そっか」 さすがに、蜂に刺されたらそう簡単には治らない。ガイア自身もまだ痒いところは残っている。 会話が途切れて、さてどうしようかとガイアは蜂の巣を眺めた。 蜂の巣を採りに来たわけだが、既に目的は達成されている。自分の手柄ではないが…。 「そうだな…。これから時間空いてるか?」 「僕?暇だよ〜。何かな?」 「この蜂蜜使って、焼き菓子作ろうと思うんだが、お茶でもしないか?」 「えー?良いの?」 「ああ、ヘンリーが採ってきた蜂の巣だからな。お礼に、御馳走するぜ」 予定より早く蜂の巣採りが終わり、野営地でのんびり菓子作りをする時間は容易に作れるだろう。 巣取りの予定は結局現地に行っただけで何もしてない訳だが…。 野営地に戻り、厨房を使用する許可を貰う。 採った蜂の巣と材料を厨房に運び、少しヘンリーにも手伝ってもらいながら菓子作りを進めた。 そして菓子が焼き上がる頃を見計らって、紅茶を入れる。 ひとりの時は紅茶なんて入れないが、菓子と一緒にお茶があるのが普通かと思い今回は特別に用意をした。 「よし、口に合うか分からないが、お茶にするか」 焼き上がった蜂蜜入りの焼き菓子を皿に並べてテーブルの真ん中に置く。 「いただきま〜す」 ガイアはヘンリーが食べる様子を伺いながら、自分も焼き菓子を口に運ぶ。 「どうだ?」 「うん。美味しいよ〜」 ヘンリーは二つ目の焼き菓子を手にして言った。 「美味しいか、口に合ったみたいで良かった」 「蜂蜜って凄いね〜、幸せってこんな味がするんだろうね〜」 「蜂蜜はそうだな…幸せになれる味かもな」 なるほどな。と、蜂蜜の味を確かめながら焼き菓子を頬張る。 ヘンリーの口から幸せという言葉が出たのが意外だったが、取りあえず幸せそうに食べてるのでイーリスに来てからは幸せなのだろう。 彼の過去は知らないが、あまり幸せではなかったんじゃないかという事はなんとなく想像が出来た。 あの表情があるのか無いのか分からない笑顔は、幸せな環境で作られるモノではない。 まあ、今が幸せなら良いかと頭の中を切り替え、話題も変える。 「ヘンリー、欲しい物は決まったか?」 「ん〜?ああ、この前ルフレが言ってた事だね。別に何もいらないよ〜?」 よほど蜂蜜入りの焼き菓子が気に入ったのか、食べ終わっても常に一枚の焼き菓子を手に持っている。 「そうか?でも折角だから何か考えとけよ。ルフレに言われたからじゃないが、ちゃんと買ってやるよ」 「はーい。考えとくね〜」 「ああ、なんでもいいぜ」 そんな会話をしながらお茶をして、帰り際に残った焼き菓子をヘンリーに持たせる。 残った蜂蜜は瓶に詰めて、ガイアは大事に持ち帰った。 ーーーーーーーーー 後編へ続く。 UP |