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FireEmblem 覚醒:ふたりの明日 2
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FireEmblem覚醒

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朝食を食べつつ、依頼内容を確認し、ガイアはヘンリーに訊く。
「子供は好きか?」
「子供?」
薄皮を剥いたオレンジを頬張りながら、ヘンリーは不思議そうにガイアを見つめた。
「今回の依頼だよ。子供を盗む」
「え〜?」
オレンジを口に入れたまま、ガイアに不振な目を向けた。
「そんな目で見るなよ…。言い方が悪かったが、誘拐された子供を取り返す仕事だ」
「ふ〜ん」
興味なさそうに返事をして、口の中に残っていた果実を飲み込む。
その様子を見つつ、ガイアは頭をかきながら気まずそうに言う。
「それでだ、俺は子供の扱いがちょっと苦手でな…」
「あはは、そういう事なら僕に任せて〜。施設で小さい子の面倒は見てたからね〜」
次の果物に手を伸ばし、いつもの笑顔を向けてくる。昨夜の不満たっぷりな態度とは180度違う。
ひとりでいるのが本当に嫌だったのだろう…。
「ああ、頼む。見つからないように連れ出すのは、なかなか厳しいと思うが…」
「ふふふ」
「…、こ、殺すなよ?相手は屍兵とかじゃないからな?いざって時は、気絶させる程度で頼むぞ…」
「うんうん、僕は子供の面倒でしょ?それは、ガイアの仕事だよね〜?」
「そうだが…、お前の含み笑いは、そう聞こえるんだよ」
ヘンリーと仕事をする。それは、死人が出て当たり前と考えるべきかもしれないと思ってしまう。
一応、今回の役割は分かっているようだが…。

侵入する建物の見取り図を頭に入れ今日の計画を確認し、最低限必要な持ち物を袋につめ支度を整えて部屋を出る。
「戸締まりは〜」
ヘンリーは言いながら外からドアノブを回してみるが、ガチャガチャ音がするだけで開く気配はなかった。
ちゃんと閉めたよとガイアは言い、家の鍵をヘンリーに見せる。
「まあ、盗られて困るようなモンは無いけどな」
「え〜、呪いの道具が無くなっちゃうと困るよ〜」
「…安心しろ、あんな禍々しいモン誰も盗ってかないから」
そして空き巣に狙われるような家でもない。
ヘンリーの心配を他所に、ガイアは目的地に向けて歩き出した。


家を出て街中を抜け、人通りの少ない路地を進む。
草木が生い茂り森林のようだったが、道はしっかり整備されており、人の行き来のある所だと分かった。
道を外れ草むらに入り、ガイアはヘンリーに声をかける。
「ヘンリー、こっちだ」
「まだ、家?見えないよ〜」
「これだけ整備されているんだ、きっと豪邸だろ。多分もう敷地内だからな、人に遭うのだけは避けたい」
道のない草むらを進むが、周囲には十分気を配る。

特に問題なく進み、視界から木々が消えた所で、立派な建物が姿を現す。
「わあ…。大きいね〜」
「豪邸を通り越して城だな…」
流石に正面から拝む事は出来ないが、側面から眺めて二人は大きな溜め息をついた。もちろん、ちょっと遠目の草むらの中からだ。
「さてと…」
見取り図を取り出してガイアは座り込み、その横にヘンリーが腰を下ろして覗く。
「地図で見ると、そんなに大きく見えないのにね〜」
「ん?ああ、そうだな…。個々の部屋が、だだっ広いって事なんだろう…」
「ふんふん」
納得して頷いているヘンリーを、じっとガイアは見つめた。
それに気づき、ヘンリーもガイアに視線を移す。
「ふん?」
「腹へってないか?」
「仕事は〜?」
「まだ日が高いからな…。頃合いじゃない」
昼前に家を出ただけあって、外はまだ明るい。こんな時間から住居侵入する盗人は、そう居ないだろう。
「早く来すぎちゃったのかな?」
「いや、周囲を偵察しておきたくてな。その前に、腹ごしらえしようかと…」
そう言ってガイアは袋の中から、サンドウィッチや飲み物を取り出す。あと、砂糖菓子を数個その横に置いた。
「とりあえず、食べよう」

食事をとりつつ、たまに建物に注意を向ける。だが、特に変化はみられない。

「ガイアは義賊?」
食後の菓子に手を伸ばしながら、ヘンリーは訊く。
「いや、違う。どんな仕事でも受けるぞ」
「ふ〜ん…」
菓子をくわえたままヘンリーはガイアを見つめた。その表情に悪びれる様子はまったく感じられない。
ガイアは建物と食事に集中していたが、視線に気づき口を開く。
「がっかりしたか?正義じゃなくて」
「そんな事はないけど〜」
「そんな顔するなよ。仲介役は昔からの知り合いなんだ。平和になってからは、俺の顔を立てて印象の悪い仕事は持ってきていない」
言いながらガイアも菓子を手に取り口に運ぶ。
「俺がクロムを困らせるような事をするのは流石にな…」
「うんうん、ホッとしたよ〜」
「ほう。呪い好きの王子様は平和が好きなんだな?」
「え〜、僕は王子様じゃないよ〜」
菓子を頬張りながら、不満な顔をガイアに向ける。
「昨日、ワガママ言いまくってたくせに。ワガママ王子だろ」
「あれは、ガイアがっ…!」
我慢し続けてきた事をワガママと言われ反論をしようとしたが、ガイアに押し倒され言葉が詰まってしまう。…いや、菓子が詰まった。
「げふっ」
「シッ!誰か来る…」
「くるしっ…」
「…。食べながら、喋ってるからだろ…」
一応心配しつつ、呆れた顔で下にいるヘンリーを見た。
「だって、ガイアが…」
不満を口にしようとするヘンリーに、優しく微笑み軽くキスをする。
「分かってるよ。あれはワガママじゃないって事ぐらい」
そう囁き抱きしめ、そのまま耳元に唇を寄せた。
「あ…ガイア、見つかっちゃう」
「大丈夫だ。もう、行ったよ」
そのまま抱きしめていたが、食べかけの菓子が目に入り、ヘンリーを解放した。
「さて、片付けて仕事を始めるか」
残りの菓子を口に入れて、食べ終わったゴミ等の後片付けを始める。
手際良く片付けるガイアとは対照的に、ヘンリーは身体をゆっくり起こして水筒の水を一口飲む。そして、小さく息を吐いた。
「仕事サボるのかと思っちゃったよ〜」
ガイアは片付ける手を止め、微妙な顔でヘンリーを見た。
「サボるわけないだろ。って、するわけないだろココで…」
「あはは、そうだよね〜」
照れる様子もなく、いつもの笑顔でヘンリーは笑う。
「…ヘンリー、これを」
片付けを終わらせ、ヘンリーの手のひらに紙切れを一枚乗せた。
「俺はこれから偵察に行く。ヘンリーはここで待っててくれ。もし、見つかったら…」
「見つかったら?」
紙切れを受け取りながらヘンリーは不安そうに言葉を返す。
「ヘンリーに任せるが、身の危険を感じたら逃げろ。逃げ切れなかったら、それもヘンリーに任せる。ただ、派手な行動は慎んでくれ」
「ん〜、なんかアバウトだね〜?」
あまりの大ざっぱな指示に、流石のヘンリーも素直な返事は出てこなかった。
その様子を見て、ガイアは頭をかき少し困った表情をする。
「しょうがないだろ…。人と組んで仕事した事なんて、なかったんだから」
そして今度は腕を組み、少し考えてからヘンリーに言う。
「…じゃあ、他の奴らには気づかれないように、見つかった奴だけ処分してくれれば良い」
「処分って、殺していいの?」
「…ヘンリーに任す。誤摩化すのが一番だが、たぶん無理だろ…」
言いながらガイアはヘンリーを見る。
いつものペレジアの装束を身に纏った姿は、どう考えても一般人には見えない。
「あはは、服装なんて何も考えてなかったよ〜」
「俺もだ…」
思えば、街を歩くのも、この装束だ。
このような状況じゃなくたって、端から見ればかなり怪しいだろう。
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね〜」
「ああ、その紙無くすなよ」
紙を指差してから軽く手を上げて、ガイアは颯爽と林の中へ姿を消した。
その後ろ姿を見送って、ヘンリーは紙切れを広げる。
「えっと、見取り図と、帰り道の…」
帰り道が記された地図を眺めて、少し表情を曇らす。
そして、見るからに禍々しい道具を袋から数個取り出して、今度は微笑んだ。
「ふふ、何があっても、先に帰ったりはしないからね〜」
鼻歌まじりに草をかき分けて、怪しい儀式を始める。

…。

……。

「おい、ヘンリー起きろ」

………。

「大丈夫か?」

…………。

「ん?あれー?」

身体を起こし、辺りをキョロキョロと確認する。
その様子を見て、ただ寝てただけかと、ガイアは安堵の息を漏らした。

「ん…。あ、暇すぎて寝ちゃった。あはは」
「まあ、無事で良かった」
やはり寝てただけかと、ヘンリーの言葉を聞いて、とりあえずの言葉をかけた。
もちろん、寝てて良い訳じゃない。何をしに来たのかと、今度は溜息を漏らす。
「…じゃない。緊張感なさすぎだろ、何かあったらどうするんだよ…」
「ごめんね〜」
「心配かけんなよ?」
「はーい」
それじゃあ…と、ガイアは偵察で見てきた事を簡潔に説明する。
理解出来たかどうか、ヘンリーは終始いつもの笑顔で、相変わらずの緊張感の無さだけが伝わってきた。
「へ〜。気づかなかったな〜」
「お前、寝てたからだろ…」
来客が来ている事を伝えると、予想通りの反応を示した。
少し呆れはするが、いつもの事だと諦めて話しを続ける。
「来客は、俺たちの知っている人物だ。そいつを利用させてもらう」
「いいの?」
「多分だが、俺たちと目的は一緒だろう。向こうは、こっちの事を知っている可能性がある」
「ん〜。お互い邪魔になったりは?」
ヘンリーに言われ、少しガイアは唸ったが、すぐ言葉を返した。
「そこまで考えてたら、何も出来ないだろ。俺は俺のやり方で仕事を全うするだけだ」
別に、他の奴と仕事がかぶるのは初めてではない。
今回はかぶったとは言い切れず、知った顔が居ただけだ。もちろん、何か裏があるかもしれないと、まったく気にならない訳ではない。
だが、請け負った仕事を自分の都合で回避するなど、ガイアには無い選択肢だ。
そして、無理矢理ついてきたヘンリーには反論する選択肢は無い。
「分かったよ〜、僕はどうしたらいいのかな?」
「俺と一緒に侵入するんだ。子供を見つけたら、俺は別行動をとる。その後は、さっき見取り図で指した場所で合流だ。いいな?」
「あはは、やっぱりアバウトだね〜」
笑われて、ガイアは何とも言えない表情をした。
「何度でも言うが、しょうがないだろ…。細かい事は、お前に任すよ」
「はーい」
「よし、じゃあ行くぞ」




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つづく。

3話目に続きます>>

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