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FireEmblem 覚醒:ふたりの明日 3
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FireEmblem覚醒

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だだっ広い建物の一角に、いくつもの樽や木箱が置かれた場所があった。
いかにも身を隠すのに都合のいい場所で、逆に警戒してしまいそうになるが、そこへ敢えて移動する。
「誰もいないね?」
「偵察済みだが、あまり警戒はしてないみたいだな。盗んだって自覚がないのかもしれん」
「そういえば、ここの家の人は何で子供を?」
「さあな、盗賊に個人の都合は関係ない」
ガイアは一方的に会話を終わらせ、建物の裏口から侵入する。
「こっちだ」
内部を確認してから、ヘンリーを手招きして、素早く移動し扉を閉める。
いくつかある階段の中で、比較的薄暗く使用頻度の低そうな位置にあるのを選び、直ぐには上らず付近の物陰で様子を伺った。
「二階へ行くなら、外から壁をよじ上って窓から侵入した方が早くない〜?」
人が居ないのを確認して、ヘンリーは小声でガイアに話しかける。
「…お前にソレ出来るのか?壁にへばりついて、もたもたしてたら見つかるぞ」
「そっか〜、やっぱり僕は足手まといかな…」
「いや、俺ひとりでも中から侵入するから問題無い」
言って立ち上がり、音を立てるなよとヘンリーに身振りで指示し、二階へ進む。
ここまでは見張りもなく空き家のようだったが、小部屋が並ぶ長い廊下には数人の人影があった。
子供の居る部屋は確認済みで、その部屋の前にも人の姿が見える。
壁越しに一人一人の動向を探り、じっと時を待つ。
「偵察のときより、人数が増えたな…」
「バレちゃってるの?」
また小声で話しをする。
「いや…、アイツが原因かもしれない」
「アイツ?」
「来客だ」
「どうするの?」
来客って誰だろう?と思ったが、今はそんな事を言ってる場合じゃないと、ヘンリーなりに状況を把握しガイアに指示を仰いだ。
「何かでテキトーに気をそらして、気づいたヤツから…かな」
「あはは、相変わらずアバウトだね〜」
「お前もだろ?援護頼むぞ」
「まかせといて〜」
相変わらず適当な指示だが、それ以上細かくヘンリーも訊く事はなく、その場に気を集中させた。

「そろそろ時間だ」
「おう、お疲れ」

そんな会話が耳に届き、一人こちらに向かって歩き出した。

「こっち来たよ〜?」
「ああ、使用人が使う階段だろうってのは予想してたよ」
余裕な表情でガイアは相手の死角に回る。
それに気づかず階段を下りようと足を片方出したのと同時に、素早く相手の口に手をかける。そして、短剣の柄で首の後ろを勢い良く衝いた。
突かれた衝撃で崩れ落ちる身体を音を立てないように物陰まで運び、念のため口を塞ぎ手足の自由もロープで奪う。
「交代のヤツが来る前に片すぞ」
実のところ、交代制なのかどうかは確認していない。見張りの人数が増えるのか減ったままなのかも不明だ。
ただ、交代制で増えるなら、確実にガイア達の居る階段を上ってくるだろう。それは挟み撃ちとなり、それだけは避けたかった。

相変わらず適当な指示で、見張りの攻略を再開する。
石ころをひとつポケットから取り出し、一番手前の見張りの足下に転がす。
数人その石を見つけたとろで、もうひとつ。今度は一番奥の見張りに届くように投げる。
一斉に遠くに投げた石を目で追い、投げ込まれたであろうガイア達の居る方角へ、素早く視線を移す。
が、既にその場にガイア達の姿はなく、辺りを確認しようと動き出した瞬間、壁にもたれかかりそのまま床に落ちる。
そして、他の見張り達も次々に、その場に倒れ込んでいった。
「ふふ、死んじゃえ〜」
物陰からヘンリーが現れ、笑顔で囁く。
「…。殺してないよな?」
「うんうん。少しショックを与えただけだよ〜。ちゃんと加減したよ〜」
雷の魔道書をしまって、ヘンリーは意識のない見張りを引っ張って物陰に移動させる。
ガイアが見張りの手足を拘束する間、用意してあった道具を袋から出しヘンリーは邪術を行う。
「良い夢見れると良いね〜」
「寝かせたのか。既に寝てるようなもんだったが…」
「念のためだよ〜」
そう言って、淡々と邪術の儀式を行う。

邪術を終え道具を片して、ある一室の前に移動する。
盗賊らしく鍵を解錠し、じゃあ入るぞと一声かけ、部屋の扉を開ける。
中には思った通り子供が一人だけ居て、不審な目でこっちを見ていた。
「オッサンは誰だ?いや、貴様は誰だ?俺のまだ目覚めぬ光の英雄の血を恐れて、ついに…!!」
「オッサンは、まあ聞き流してやる。が、どっかで見た事あるようなガキだな…」
そう言い、ガイアはヘンリーに視線を向け、意見を求めた。
「ん?ん〜。確かにウードに似てるね〜。でも、大きさが中途半端だよ〜?」
「大人しく聞いていれば、好き勝手言いやがって!俺はガキじゃない!ウードだ!中途半端でもなく、英雄の血を引き継ぎ、漆黒の闇を…」
「あー、言わなくても分かるから、静かにしててくれ」
うんざりした表情でガイアは、ウードと名乗る子供の口に手を当てる。
「帰りたいだろ?静かに俺たちについてこい。いいな?」
「…」
「ねえ、本当にウードなの?この世界のリズの子は産まれたばかりだよ。未来からのウードはもっと大きいし…。何か、変だよ〜?」
「確かにしっくりこないが…。考えられるとしたら、また別次元からか、もしくはウードの信者だな…」
言われて、子供はジタバタと手足を動かして、抗議をする。
「後で聞いてやるから、とりあえず暴れるな。声も出すなよ?声出したら、そっちのオッサンに呪われるぞ」
「ガイア〜、僕はオッサンって呼ばれてないと思うけど〜?」
「そうだったか?まあ、俺は先に行くから、ヘンリーあとは頼んだぞ。ちょっと厄介なガキだが、うるさくするようなら呪っていいから」
子供の口から手を離して、部屋の出口に向かい廊下を確認する。
「オイ!オッサン!!」
「ヘンリー、呪っていいぞ。そのガキ」
そう言い残し、ガイアは部屋を出て行った。
「お、俺を呪うと大変な事になるぞ!世界が漆黒の闇に覆われ、未来が…」
「あはは。本当にウードなのかなあ?でも今は静かにしてね〜。キミを連れ出すのを失敗する訳にはいかないんだよ」

ガイアは一足先に階段を下り、各部屋を確認しつつ目的の場所へ移動する。
来るときとは別の廊下を進み見張り等を確認するが、相変わらず人影が少なく気配すら感じられなかった。
問題なくヘンリーもここまで来れるだろうと、ガイアは少し別な所に目を向ける。
そこは客間で、そこだけは人の出入りがあった。
なんだかんだで、やはり気になる。しかも、あんなガキだ…気にならない方がおかしいだろう。
もっと近くまで行こうとしたが、部屋の扉が勢い良く開き、聞き覚えのある声が耳に入り、足を止める。
「もう話す事なんて何もありませんわ!言い訳はもう十分。離しやがれですわ!」
ただの来客のわりには、穏やかではない雰囲気だ…、というか言葉遣いだ。
その後ろから、中年の男が必死の形相で大声を張り上げる。
「あの子供は、あいつらの子供でもないだろう?!」
「いい加減にしてくださいまし!ガイアさんっっっ、早く助けてくださいなっ!!」
「!!!!???」
なんでココに居る事を知っているんだと動揺する。が、知ってる可能性が高いと言ったのは自分かと、自分に突っ込みを入れ冷静さを取り戻す。
とは言え、何故このタイミングで呼ばれるのかと、口に出さずにはいられなかった。
「なに勝手に人の名前を叫んでるんだよっ!?」
「やっと現れましたわね!逃げますわよ!」
ずかずかと向かってきて、そのままガイアの後ろに回る。
「おいっ、待て!!なに勝手な事を…」
どう考えてももう忍んで行く事は出来ず、穏便にすむ雰囲気でもない。
大した人数ではないと踏んでいたが、この状況だ。何処からともなく、数人の男が現れ剣を抜き構える。戦闘に慣れた人間なのは一目で分かった。
どうしたものかと、ただ突っ立ってる訳にもいかず、とりあえず剣に手をかけ戦闘態勢に入る。
「逃げないんですの?」
後ろから、そう声をかけられたが、もちろん逃げるわけにはいかない。
「無理だ。ヘンリーとガキがまだ上にいる」
「そういえば、なんで一人なんですの?子供は?確か依頼では…」
「お前の依頼なのか?」
思わず後ろを振り向いてしまう。しまったと思ったが、背中に殺気を感じ、この屋敷の来客だったハズの女の腕を掴み走り出した。
「何処行くんですの?!」
「とりあえず先にヘンリーと合流だ。戻るぞ!」
「戻るって?」
敵に背を向けた事を後悔し、急いで来た道を引き返す。


階段に差し掛かった所で、階段を下りてきたヘンリーを見つける。
すぐヘンリーもガイアに気づいたが、人数が多いなと不審に思い足を止めた。
「あれ〜、マリアベル?…と、その後ろの男達は…」
「話しは後だ!逃げるぞ!」
「ええ?」
「ガキはマリアベルに任せて、俺の援護を!」
「はーい。マリアベルお久しぶり〜、その子ちょっと呪いで喋れないけど、だいじょうぶだからね〜」
「の、呪いですってっ!!??」
本当に呪いを使ったのかと突っ込みを入れたかったが、ガイアは何とか思いとどまった。今はそんな事より、目の前の敵だ…。
敵と言っても殺す気はなく、何とか峰打ち等で相手の動きを封じ、あらかじめ用意しておいた退路を進む。
「なんですの?この道…蜘蛛の巣が…」
「しらん。けど、いざって時の抜け道かなんかだろ」
蜘蛛の巣だらけの狭い道を抜けると、屋敷から少し離れた草地へと出た。
よっこらせと抜け道を出て辺りを見回し、ヘンリーがある方向を指差す。
「あはは、見つかっちゃってるよ〜」
「だろうな…。屋敷の構造は持ち主が一番知ってるのは、当たり前の事だ」
「なんていい加減な…。待ち伏せされいていたら、どうする気だったんですの?」
「どうもしないさ。想定内の事だ」
「余裕ですのね…」
「まあな。だが、マリアベルが一緒なのは想定外だぞ…」
ここから、どう逃げるか。追っ手を全部、叩きのめすのが一番手っ取り早い気はするが…。
少し考え込んでいると、マリアベルが声をかけてくる。
「少し外れに、馬車を待たせてありますの。そこまで逃げ切れます?」
なるほどなと物騒な考えを捨て、馬車を所持する貴族の案に乗る。
「まあ、平気だろう。案内してくれ」
マリアベルの速度に合わせて道を進む。急ぎ足ではあるが女と子供の足だ、追っ手との距離が徐々に縮まってきているのは誰の目からも分かった。
「先行っててくれ、少し足止めしてから向かう」
ガイアは足を止め、剣を構える。それを見て、ヘンリーも足を止め、構えるのではなく何かを唱えた。
すると追っ手の動きは鈍くなり、その場に座り込んだ。
「ん?」
「呪いだよ〜。ガイアが偵察に行ってる間に用意しといたんだよ〜。ちょっと仕込んだ場所が遠いから、あんまり効果ないけどね〜」
「昼寝してただけじゃなかったんだな…。助かるよ」
「ふふ、あと1回くらいは出来るよ〜」
助かると言われ、ヘンリーは嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、馬車に乗り込む前に、もう一度頼む」
そう言って、ヘンリーの背中を軽く押して、走り出した。

既にマリアベルとウードらしき子供は馬車に乗り込んで、二人が来るのを待っていた。
「えーと…。喋れないんでしたわね…」
良く喋りそうな子供が無言で居心地が悪く、マリアベルは馬車から顔を出し、早く戻ってこないかと外を眺める。
やっと眼前に二人の姿を捉えて、ホッと胸を撫で下ろした。
「マリアベル〜お待たせ〜」
「待ちくたびれましたわ、早くこの子の呪いを何とかしてくれません?」
「ちょっと待ってね〜」
ヘンリーは馬車に乗らず、術の詠唱を始めた。
その横でガイアはマリアベルに不満の声を漏らす。
「そのままで良いだろ…」
「まあ、存外な扱いですこと!」
遠くで追っ手がうずくまったのを確認して、先にガイアは馬車に乗り込み、ヘンリーの腰に手を回して素早く馬車に乗せる。
「いいぜ、馬車を出してくれ」
直接ガイアの声が聞こえたのか、マリアベルが合図を出す前に、馬車は走りだした。
車内ではヘンリーが一息つき、子供に手を当てる。
「ふう、呪い解くね〜」
「いいって…。そのままで」
ガイアの言葉で、ヘンリーは子供から手をすぐ離した。
「じゃあ、そのまま〜」
そのヘンリーの態度に、マリアベルは不満の声を漏らす。
「ちょっと、ヘンリーさん?なんでガイアさんの言いなりなんですの?まさか、雇われてらっしゃるの?」
「え〜?雇われてないよ〜。言いなりでもないんだけど〜…」
「じゃあ、なんなんですの?そういえば、なんでココにいらっしゃるの?」
「えーと、マリアベルも何でココにいるのかな〜?」
「…。」
「ヘンリーは、まあ…俺と一緒に住んでる。マリアベルは…というか、そのガキは何なんだ?」
先にヘンリーが余計な事を言い出す前にと、ガイアが二人の会話に口を挟んだ。
「こっちが聞きたいくらいですわ。リズも知らないって言いますし…。別の時間軸から来たウードなのかもしれませんわね」
「俺はウードの信者じゃないかと思ってるが…」
ガイアは言いながら、うんざりした表情で、ウードもどきの子供に目を向けた。
何か言いたげな表情で見返してくるが、呪いはまだ継続中だ。
「どちらにしても、ウードがリズの子供というのは、知られてたみたいですわね」
「本当か?産まれたばかりだろ?未来から来たウードの事は…」
「ええ、公にはなってないハズです。何処からバレたかは謎ですけど、あの家の者は何かを企んでましたわ」
腕を組みガイアは唸る。色々考えては見るが、こんなガキを利用して私腹を肥やせるような企みが、まったく思いつかない。
「企みねえ…、中途半端な大きさのウードだからな、リズの子を名乗るには信憑性に欠けるぞ」
「育てるのかな〜?」
ここでヘンリーが口を開く。
大した言動に期待はしていなかったが、コイツらしいなとガイアは言葉を返す。
「もしそうなら、手が込んだ企みだな」
「あ、この子に何処から来たのか聞いてみる〜?」
「いや、やめとこう。俺たちは依頼をこなすのが仕事だ。あまり深く関わらない方が良いだろう」
口には出さないが、これ以上関わらない事をガイアは決めている。知人である前に、彼は盗賊なのだ。
「いいの?マリアベルは、どうするの〜?」
盗賊ではないヘンリーは割り切れる事が出来ないらしく、マリアベルに声をかける。
訊かれて、そうですわね…と、ヘンリーに呪われた子供に視線を落とす。
「この子の事情は後で訊いておきますわ。とりあえず、まだ小さいですし、住んでた家に帰して、たまに様子でも見に行く事にします」
「何かあったら、いつでも声をかけてくれ」
それに対しては、いつもの口調で返す。
「ええ、遠慮なく。報酬はいります?」
「そりゃあ…な。今回のは、お前からなのか?」
いつもの口調ではあるが、結局は盗賊としての言葉だ。報酬はしっかりと頂く。
「ええ、向こうに渡しておきますわね」
「了解した」

その後は、話題を切り替え、軍に居た奴のその後なんかの話しをした。
ガイアやヘンリーはサッパリ他の奴の動向は知らず、マリアベルの利き手に回り、よく知ってるなと感心する。
その内容は詳細で、自分たちの関係も知ってるんじゃないかと不安になるくらいだった。

「どの辺ですの?」
疑心暗鬼な目をマリアベルに向けていると、不意に別の言葉をかけられる。
「あ、ああ。近いから、ここで問題ない。送ってもらって助かった。ありがとうな」
とりあえず、「軍のその後」の話題は中断し、自分たちの事を探られずに済んだとホッとする。
そして、これ以上この話題を続けると、確実に話しの中心にされてしまうだろう。その理由は、もう他の奴の名前が出尽くしていたからだ…。
「いいえ、こちらこそ強引に助けて頂き、有り難うございました」
「本当に強引だったな…。今度は依頼時にでも補足を頼む…」
馬車を降りつつ、ガイアは疲れきった顔でマリアベルを見た。
「分かりましたわ」
「じゃあねー、マリアベルー!」
「たまには顔を出してくださいまし。イーリス城に」
言われてヘンリーは喜んだが、ガイアはめんどくさそうな顔を向けた。
「まあ、呼んでくれれば、行かない事もないが…」
「なんですの、その言い草は?素直に来やがれですわ!」
「あはは、マリアベルの城みたいだね〜」
「そうですわね、城に行くときは連絡を差し上げます」
「はあ、了解…」
やれやれとガイアは、ヘンリーが馬車を降りたのを確認して、ドアを閉める。
すぐ馬車の窓が開き、マリアベルが顔をのぞかせた。
「それでは、ごきげんよう」
「またね〜」
「またな…」
簡単に最後の挨拶を交わして、馬車を見送った。



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つづく。

4話目に続きます>>

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