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FireEmblem 覚醒:ガイアとネコのエトセトラ 1
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FireEmblem覚醒

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ヘンリー猫化です。




鼻歌まじりに町を出て、野営地へ続く道無き道を進む。
買い物に夢中になりすぎたのか、朝日が眩しかった空は夜の色に染まっている。
まだ夕時なのだが、人里離れた野営地へ近づく道は徐々に深い闇に覆われていく…。
「呪いの道具は買ったし〜、ガイアの菓子も買ったから〜…」
薄暗い道でも躊躇う事なく進み、歩きながら荷物の中を確認する。
「あとは〜、生け贄を狩って帰るだけ〜」
何か生き物は歩いていないかと、その辺の草をかき分けて小動物を探し始める。
殺気は出してないつもりだが警戒されているのか、なかなか生きた動物を見つけることができない。
「はあ〜、生け贄が無いと呪いが完成しないよ〜。折角、ガイアに呪いの道具を作ってもらってるのにな〜」
溜め息をつき、もう一度、草をかき分ける。
「うわっ…?」
いきなり強い光が眼に飛び込んできて、らしくなくよろめいてしまう。
何か生き物かもしれないと、体勢を整えてもう一度、草をかき分け確認する。
「なんだ〜、生き物じゃないや」
それを手に取って注意深く見つめる。
「水晶玉?少し魔力も感じるけど…、サーリャのかな〜?」
光を放った丸い玉は、呪術士なら馴染みの深い品物だった。
落とし物かな〜?と水晶玉を袋につめ、ヘンリーはもう一度探し始める。
「サーリャのかもしれないし、帰ったら訊いてみよう〜」
そう呟きながら生け贄を探し、小動物を確保したのは、それから少し経ってからの事だった。
そんな夕暮れ時の出来事である。


野営地では夕食の準備が始まり、良い匂いが辺りを包む。
肉や野菜そして香辛料の美味しそうな匂いが天幕にも届き、ひとつ大きく腹がなった。
「そろそろ夕飯か…」
頼まれていた怪しげな彫り物を机に置き、ガイアは大きく伸びをする。
そして少し凝った肩を揉みながら、匂いに誘われ天幕を後にした。
「あら、ガイア。その子どうしたの?」
「ん?」
ルフレに声をかけられ、ガイアは後ろを振り向く。
「後ろじゃなくて下」
「した?」
言われた通り下を向くと、足下で動くモノと目が合う。
「ニャ〜」
足下に居たのは銀色っぽい毛並みの猫で、ガイアの足にスリスリ身体をこすりつけている。
いつからついて来ていたのか…。
「ガイアのペット…じゃないわよね。野良かしら?」
「一応、ココはペット禁止だろ。野良だとしたら、人懐っこすぎだな」
人外の生き物はイーリス軍にも居るが、それはペットというより戦闘要員だ。
そして、こんな人慣れした野良猫はいないだろう。
「村の飼い猫じゃないか?」
「そうねぇ、迷い込んじゃったのかしら」
そう言ってルフレはしゃがみ、猫の頭を撫でる。
満足そうに撫でられているが、ガイアの足元から離れようとしない。
「しょうがないな、村まで連れて行くか」
ガイアは猫を抱き上げ、ルフレにちょっと行ってくると告げ、野営地を離れる。

腹を空かして戻って来たガイアが夕食を食べ、自分の天幕に戻って一息ついたのは、すっかり日が沈んでからの事だった。
まだヘンリーは帰って来ず、待っているうちに、つい睡魔に誘われてしまう…。



静まり返った天幕で、ふと目が覚めたガイアは、寝台から身体を起こした。
いつの間にか消えてしまっていたランプに明かりを灯し、真っ暗な天幕を照らす。
そして自分のマントを捲って、大きく溜め息をつく。
「どこから入って来たんだ…」
「ニャ〜」
呆れ顔で見ていると、猫はゴロゴロ喉を鳴らし、脚にまとわりついてくる。
一応、踏まないように注意しながら猫をまたぎ、寝台から離れ天幕の外を覗く。
「ニャふ」
「一緒に来るか?」
そう猫に声をかけ、ガイアは天幕の外に出る。
まだ日付はまたいでいない時間帯だが、野営地は既に静まり返っていて、外を出歩く者は殆どいない。
明かりも少なく薄暗い野営地を歩き、真っ暗な天幕に声をかける。
「ヘンリー、帰って来てるか?」
「ニャ〜♪」
「お前じゃなくてだな…」
元気よく鳴く猫に、溜め息まじりの突っ込みをいれる。通じてるかどうかは分からないが…。
そして、そのまま少し待ってみるが、天幕からの返事はない。
「まだ帰って来てないのか…」
流石に遅いんじゃないか?と不審に思い、そっと天幕を覗いてみる。
「にゃ」
少し開けた天幕の入り口から、するっと猫が中に入っていく。
「あ、こら…」
後を追って中に入り、暗い天幕を注意深く見回す。
呼吸をする音はもちろん、人の気配すら感じられない。
まだ帰って来てないのかと、出入り口を全開にし、月明かりで天幕内を確認する。
「にゃ〜」
「ん?」
部屋の真ん中で、猫は何かに身体をこすりつけている。
もそもそと動く猫をどかして、ガイアは何かを手に取った。
それを月明かりに照らしてマントだと分かり、床に落ちている別の物も手に取ってみる。
「いつもの装束だな。そして、こっちは下着か…」
気配はないが、ヘンリーは戻って来て着替えている。
もしくは、裸で…。
そっと寝台に近づき、布団を捲ってみるが、やはり姿はない。
床に脱ぎっぱなしだった装束は、脱いだというより中身が抜けたような状態で放置されていて、なんとなく不自然さが残る。
というか、何を着て何処へ行ったんだ?
「にゃ」
また猫の声がして、視線を向ける。
だが猫の姿は見えず、視線の先では布袋が床を擦りながら移動していた。
「なんだ?」
じっと見ていると、布袋の後ろでシッポが見え隠れしている。
猫が押しているんだと分かり、その布袋を自分の方へ引き寄せ、中を開く。
「菓子?」
「にゃ〜」
「俺が頼んだヤツか?」
「にゃふ」
次に、小さい布袋を口にくわえて、ガイアの前まで運ぶ。
「えーと、小銭。菓子の釣りか?」
「にゃん」
ガイアの問いかけに、猫は大きく頷く。
「…お前、俺の言葉がわかるのか?」
「にゃんにゃん」
もう一度大きく頷く。
「というか、お前…」
まさかと思いながらも、あり得ない事じゃないよなと、不審な目を猫に向ける。
なんたってココは呪術士ヘンリーの天幕だ。それに、この軍にはサーリャという呪術士もいる。
いままでどんな呪いを見てきた?いや、体験してきた?そう思うと、猫が猫に見えなくなり…。
「ヘンリーか…?」
「にゃあ〜♪」
ごろごろと喉を鳴らして、ガイアにすり寄ってくる。
「本当にヘンリーなのか。どうしてこんな…て、やっぱりサーリャの呪いか?」
「にゃぶ」
ヘンリーだという猫は首を振ってガイアから離れ、どこかからか丸い玉を転がして来た。
ガラス玉のようなそれは、たぶん水晶玉だろう。
「お前の失敗か?」
「にゃぶ」
また首を振る。
サーリャの呪いでもなく、ヘンリーの呪いでもない。
あと呪いを使いそうな奴は誰だ?と顎に手を添えて考え込む。
その横で猫も首を傾げて考え込んだ。
「自分でも分からないのか…」
呆れ口調で言い、しょうがないなと猫を抱きかかえ、ヘンリーの天幕を後にする。
抱かれた猫は満足そうにガイアの首元に顔をこすりつけた。
「ヘンリーなんだよな?なんで猫になっちまったのに、そんな幸せそうなんだ…」
どうしたものかと考えながら自分の天幕に戻り、寝台の上で横になる。
そして猫を自分の上に乗せて頭や背中を撫でる。
「まあ、明日サーリャに相談するしかないよな」

「…気乗りしないが」
「にゃ」

今までの事を思うと、やはりサーリャへの相談は気が重い。
必ず解決はしているが、そこまでのやり取りが苦手だ。
サーリャが嫌いな訳ではないが、できれば恨み節はもう聞きたくない…。



翌朝、猫型ヘンリーを肩に乗せ、サーリャの天幕を訪問する。
朝、目が覚めたら人型ヘンリーに戻っていて欲しかったが、世の中そんなに甘くはない。
「何?その猫…」
サーリャからは当たり前の反応が返ってきて、いつもの恨み節が始まる。
コイツは同性のルフレをすごく気に入っている。それは一線を越えてしまうんじゃないかと心配してしまうくらいだ。
だが、同性で一線をこえてしまっているのは自分なわけで…。だからこそ、サーリャは妬んでキツイ事を言ってくるのだろう。
はあ…、と一つ溜め息をついて猫を見る。
「にゃ〜」
猫だから表情が分からないだけなのだろうが、どう見ても困ってるようには見えない…。
「猫のままで良いんじゃないの」
そんな猫型ヘンリーを見て、サーリャは不満げに言う。
「い、いや。流石に猫のままじゃ闘えないだろ?」
「そうね、戦力が減るとルフレが困ってしまうわね」
「だろ?」
相変わらずルフレ優先だなと変な感心をしつつ、猫型ヘンリーをサーリャに差し出す。
「だけど、解呪はしないわ」
「え?」
サーリャの一言に、思わず猫を落としそうになる。
しっかりガイアの腕にしがみついているので、手を離しても落ちはしないと思うが…。
「誰がかけたかも分からない呪いよ。解くより自然に戻るのを待った方が早いわ」
「自然にって、放っといて人間に戻れるのか?」
「計画的な強い呪いなら無理でしょうね。でも、今ヘンリーにかけられてる呪いは違う。呪いをかけられたんじゃなくて、呪いを貰ったのよ」
「あの水晶玉か…」
猫が転がしてきたガラス玉を思い出す。
「そう、水晶玉。一時的な簡単な呪いよ。…多分ね」
「どれくらいで戻る?」
「さあ、それは分からないわ。一週間経っても戻らなかったら、解呪を試してあげる」
「い、一週間もか…」
まだ一日目だぞ?と、残りの6日間を想像し、激しい目眩に襲われる。
「たいして困ってないでしょう」
「どうだろうな…」
言って溜め息まじりに猫を見つめた。
「にゃ〜」
猫型ヘンリーは言葉は分かってるようだが、こっちは猫の言葉がまったく分からない。
表情はヘンリー同様笑顔のまま…に見えて、何を考えているかサッパリ分からず…。
「お前、猫のままで良いのか?」
「にゃぶ」
猫は首を振り、何となくホット胸を撫で下ろす。
とりあえず、数日で呪いは解けて欲しいと願う。本音を言えば、今すぐに…だが。

「あら、ガイア。それ…」
「おっと」
たいした解決にならなかったサーリャとの会話を終え、自分の天幕に戻ろうとしたところで声をかけられる。
じーっと見てくるルフレの言いたい事は、だいたい分かる…。
「えーと、戻って来ちまったんだ」
「ずいぶん懐かれてるのね?」
「別に俺のペットとかじゃないからな?隠れて飼ってた訳でもないぞ?」
「ふーん?」
反応は薄いが、ルフレの事だ。何か疑ってるんだろうなと、本当の事を正直に話す。
「というか、コイツはヘンリーだ」
「え…」
サーリャ同様、予想通りの反応をルフレは見せる。
そして予想通りの想像をしているに違いない。
「それ以上は言わなくても分かるよな。で、サーリャに相談はしたんだが、放っとけば呪いは解けるって言われてさ」
「うーん…」
ガイアに懐く猫を見て、ルフレは唸って考え込む。
やはり戦闘要員の奴が、猫のまま一週間っていうのは長過ぎるか…。
「明日、屍兵の討伐に出るんだけど」
「え?あ、そうだったか?」
ルフレの言葉に、空を見上げて記憶をたどる。が、そんな事を聞いた覚えは無い。
「昨日の訓練の前に伝えたつもりだったんだけど…。て、そう言えばガイアはサボってたわね」
「あー、いや。サボってた訳じゃ…。色々あってドタバタしてたんだ」
「ドタバタねぇ…」
「…ヘンリーが帰ってこないままだったからな」
正直に言えば、ドタバタしてた訳ではない。
ただ、呪いの道具の作製に没頭していて忘れてただけだ…。そして、ヘンリーは訓練にではなく町へ行っていた訳だが…。
「そうよねー、良い口実よねー」
「サボりたかった訳じゃないからな」
口に出す勇気はないが、忘れてただけだ。
「はいはい。まあ、明日は留守番ね」
「俺も良いのか?」
「えぇ!?討伐もサボりたいの?駄目よ〜、宝箱があるかもしれないじゃない」
「別にサボりたい訳じゃ…、ヘンリーを置いてくのが少し心配なだけで」
そう言って、抱っこしているヘンリーの頭を撫でる。ヘンリーというか猫の頭だが…。
その猫は相変わらず満足そうな顔をしている。
「でも、猫は連れて行けないでしょ。闘えないし危険だわ」
「それはそうなんだが…。まあ、そう言う訳だから、ちゃんと留守番してろよ?ヘンリー」
ヘンリーから猫じゃ、戦闘能力は天と地の差だろう。守りながら闘う自信もなく、危険な目に遭わせたくないのも確かだ。
にゃーにゃーしか言わないから分からないが、この猫型ヘンリーは大人しく留守番をしていてくれるだろうか…。
「にゃ〜…」
「ちゃんと留守番できたら、ご褒美にマタタビあげるわよ〜?」
「流石にそれはどうなんだ…?」
「にゃ〜」
まったくもって何を言っているか分からない。もちろん表情も分からないままだ…。

その日の夜は前の日と同じく、一人と一匹で静かに過ごす。
ゴロゴロしている間に戻ってくれないかと期待してみるが、まったく人間に戻る気配はない。
それどころか猫を飼っていると錯覚してしまいそうなくらい猫そのものだ…。
「にゃ〜」
「はあ、ペットやぬいぐるみを抱いて寝る趣味はないんだが…」
寝台で寝転がると、猫がすり寄ってくる。猫ではなくヘンリーなのだが、どっからどう見てもやっぱり猫だ。
目を覚ましたら、いつものヘンリーを抱きしめていた…なんて、都合がよすぎるだろうか?
そんな夢を描きながら猫を抱き、深い眠りに落ちていく…。






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つづく

2に続きます>>

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