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FireEmblem 覚醒:想いと記憶 1
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FireEmblem覚醒

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ヘンリー記憶喪失ネタ。
※ガイアとヘンリーの仲はすでにアレソレです。周りは二人の仲を知らない感じで話しは進みます。





空は暗い。
横殴りの冷たい雨が身体に刺さる。
まだ冬の冷たさが残る雨と風に、体力をどんどん奪われていく。
屍兵との戦いは苦じゃないが、最悪の天候に身体が悲鳴をあげる。

「ヘンリー、戻るぞ」
「…うん」

ガイアに声をかけられ、自らの魔法でとどめを刺した屍兵から目をはなし、やっと休めると大きく息を吐く。
「大丈夫か?」
「うん」
頷いたまま動こうとしないヘンリーをガイアは心配そうに見つめる。
「あはは、嵐になるって分かってたら、雨具用意したのにな〜」
「山の天気は変わりやすいって言うしな。そこ、崖になってるから気をつけろよ」
ガイアは先に崖を下り、ヘンリーに手を差し伸べた。
「はあ〜、お腹減ったな〜…あっ」
「おいっ!?」
差し出された手に気づかなかったのか、指先にすら触れる事なくヘンリーはガイアの視界から外れる。
崖から滑り落ちたかとガイアは目線を崖下に移し、ハッと息をのんだ。
「ど、どんな落ちかたしたんだよ…」
横たわっているヘンリーに声をかけてみるが返事は返ってこない。
そっと雨に濡れた前髪を梳くと、水滴と一緒に紅い色が肌を伝って流れていった。
「崖を滑って、頭から落ちたのか?」
崖下から上をガイアは眺める。
足から滑ったのではなく、前につんのめって落ちた可能性もあるが…。
ヘンリーが疲労しきっていた事は分かっていた。足にきていたのだろう。
「おぶってやれば良かったな」
疲れているのはお互い様だろうが、ヘンリーにくらべれば体力に余裕がある。
とはいえ今さらな事で、後悔しつつガイアは軍本体に合流するため、ヘンリーを抱え山道を進んだ。


軍が野営地に帰り着いた頃には、薄暗かった空は青空に変わっていた。
雨はまだ降り続いていたが、雨あしは弱く風も殆ど感じられなくなっていた。
そして青空は徐々に橙色へと染まってゆく…。

「目は覚めた?」
「ルフレか…」
天幕の入り口からルフレは顔を出し、ガイアに声をかけ寝台を見る。
その寝台の上にはヘンリーが横になっていた。
「まだ、みたいね」
「ああ」
ちょっと頭を切っただけだろうと思っていたが、思ったより重症なのだろうか。
崖下へ落ちてからヘンリーはまだ目を覚まさない。
「打ち所が悪かったのかもな…」
「ん〜、頭はへこんでないから大丈夫だろうって、医師は言ってたけど」
「まあ、疲労しきってたみたいだからな」
こっちが思っていた以上だったんだろうなと、寝ているヘンリーの顔を見て思う。
いつも以上に血色が悪く、安らかな眠りとは明らかに違う。
「ガイアも疲れてるんじゃない?」
「お前もな。まだ軍師の仕事が残ってるんじゃないのか?」
「あと少しね。ちょっと様子を見に来たの」
「コイツの目が覚めたら、報告するよ」
「よろしく。ガイアもちゃんと休むのよー」
「ああ」
天幕の入り口から覗いていたルフレは少し中に入っただけで、手を振ってすぐ天幕から離れていった。
あと少しと言っていた仕事は気を使った言葉だったのか、もしくは本当にちょっとだけ様子を見に来たのか…。
忙しそうに去っていった後ろ姿を見ていると、やはり軍師は大変だな…と思う。
「はあ、俺のせいだな…」
自分が体力の限界に気づいていれば、ヘンリーは痛い思いをしなくてすんだだろう。
そっとヘンリーの頭に手を添え優しく撫でる。
本当にへこんでなくて良かったのだろうか?旋毛の辺りが腫れているのが分かった。
「…っん」
「痛かったか?すまない」
眉間にしわを寄せるヘンリーに気づき、触れていた手をはなす。
痛かったかと心配はしたが、意識が戻った事に安堵する。
そして一息つくガイアの横で、薄らと目を開けたヘンリーは自分の頭を擦った。
「あいたた…」
「大丈夫か?」
「うん、平気〜。えーと、ここは?」
まだハッキリと目が覚めていないのか、ヘンリーは身体を起こしキョロキョロと辺りを見回す。
「お前の天幕だよ」
「ああ、そっかそっか。で、キミは?」
「俺?」
予想していなかったヘンリーの言葉に、間の抜けた声が出てしまう。
寝起きだから名前が出てこないなんて事はあるだろうか…?
「そそ、キミの名前。誰だっけ?僕の知り合い?」
「あ、ああ、知り合いだよ…」
というか、寝起きだからとかじゃないだろう。
このヘンリーからの質問は、寝ぼけているせいだとは思えない。
「名前は〜?」
「ガイアだ」
「ふーん」
「…」
反応の薄さが、少し胸に刺さる…。
「ゴメンね〜。軍っていっぱい人がいるから覚えられないんだよね〜」
「そう…、だな」
違うと思うが、そう答える事しか今は出来ない。
どう考えても、このヘンリーはいつものヘンリーじゃない。
「はあ、お腹減っちゃった。食べ物貰いにいってこよう〜」
「俺が持って来てやろうか?」
「ん〜?平気だよ〜。キミも自分の天幕でゆっくり休むと良いよ〜。僕はもう大丈夫だよ〜。少し頭は痛いけどね、あはは」
「そっか、じゃあ戻るよ。何か困った事があったら、声をかけてくれ」
「キミは優しいね〜。ありがとう〜」
いつもの笑顔で礼を言い、ヘンリーは寝台から起き上がる。
その様子を何とも言えない表情でガイアは見つめた。
…優しい、か。
どうして自分に優しいかなんて、理解できてないんだろうな。

ガイアは天幕から外に出て、腹が減ったとヘンリーも自分の天幕を後にする。
その後ろ姿を見つめ、ガイアは大きく息を吐いた。
「物忘れとか、そんなレベルを越えてるよな…」
頭を強打した事による記憶喪失とみるのが妥当だろう…。というか、これは大変な事ではないだろうか?
このまま記憶が戻らなかったらと想像し、頭の中が不安で一杯になってしまう。

どうしたらいいかと色んな事を頭の中で掻き回し、必至に解決策を探ってガイアは一つの結論に達する。
これは一人で抱えきれる問題ではない…、と。

「ルフレ」
「あら、ガイア。ヘンリーは?」
まずは軍師のルフレに報告するのが一番だ。軍の長であるクロムには追々ルフレから伝わるだろう。
ルフレには「目が覚めたら」と言ってはいたが…。
「ああ、起きたんだが…」
「だが?」
「記憶喪失みたいなんだ」
「ええ!?それって、何も覚えてないって事?」
「全部かどうかは分からない。腹が減ったと天幕を出て行ったから、あまり話せてないんだ」
そういえば食べ物をもらいに行くと、迷う事なく食料庫を目指して行ったなと思い返す。
もしかしたら断片的な記憶障害なのかもしれない。
「やっぱり、打ち所が悪かったのかしら…」
「みたいだな…」
最悪、自分の事だけ忘れてるとか、あり得るんじゃないだろうか…。
「ガイア?」
「…」
そしてそのまま思い出せないままなんて事も…。
「ガイア、大丈夫?」
「ん?」
「顔色、よくないわよ?」
「そうか?」
なんとなく今している表情が自分でも分かる。
疲れももちろんあるが、それ以上に不安が全身を覆う…。
「そろそろ寝たら?ヘンリーには私からも声をかけてみるわ」
「ああ、頼む」

ヘンリーの事は心配だが顔を合わす気にはなれず、寄り道せずガイアは自分の天幕に戻る。
いつもならヘンリーが現れても良い頃間だが、予想通り今日は現れる気配がない。
そのまま寝台で横になり、出入り口を眺めつつ小さく息を吐く。
「独りに戻るだけだ」
そう一つ呟いて目を閉じる。




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つづく

2に続きます>>

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