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FireEmblem 覚醒:想いと記憶 2
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FireEmblem覚醒

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ヘンリー記憶喪失ネタ。





翌朝は屍兵討伐へ赴くため、ルフレは各兵に手際よく指示をだす。
その中にはヘンリーの姿もあった。
頭の怪我はもう良いようで、いつもの笑顔で軍師の指示を聞いている。
「ヘンリーはいつも通りガイアと一緒に行動して」
「え〜?僕は一人で平気だよ〜」
「駄目よ」
配置図から目を離し、ルフレはヘンリーを見る。
記憶が無いからなのか、今日のヘンリーはいつもと違う。
いつもは一緒じゃないと眉をひそめるのに…。
「大丈夫だよ〜。人と一緒の方が、敵と間違えそうで危ないよ〜」
笑いながらヘンリーは言って、ルフレの承諾を得ないまま何処かへ行ってしまった。
「ヘンリー!?」
「ルフレ、好きにさせてやれよ」
追いかけようとしたルフレにガイアが声をかける。
「一人の方が闘いやすいんだろ」
そう言うガイアに、ルフレは納得できないと不満の表情をみせた。
「別行動を指示しても、一緒に行動してたのに…」
「そ、それは…その。まあ、今は記憶が無いんだ」
今までの不満をぶちまけられた気がして、つい吃ってしまう。
ルフレにそんな気は無かったかもしれないが、配置に気を使わせていたのかもしれない。
「ヘンリーはそうだけど、ガイアは…」
「いいって、少し前に戻るだけだ。それだけの事だよ」
「でも…」
「ルフレが心配する事じゃない」
ポンっとルフレの肩を軽く叩いて、ガイアは笑顔をみせる。
ただ、その笑顔は相手にどう見えたかは分からないが…。
「ねえ、ガイア」
「ん?」
「貴方とヘンリーの関係って…」
その笑顔はルフレに、そう伝わってしまったらしい。
まあ、間違ってはいない。とは言え、関係を言うつもりはなく…。
「ただの友達だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「本当?」
「今は、ただの同僚だけどな」
「…」
じっと見てくるルフレの視線の意味は分かる。無言だが言いたい事も分かる。
だが、返す言葉は見つからない。
大丈夫だなんて、こんな笑顔で言える訳ないじゃないか…。


いつぐらいぶりだろうか。
一人で宝箱を漁り、敵に遭遇したら一人で片す。それが無理なら後退しつつ味方の援護を待つなんて…。
隣にヘンリーが居れば宝箱の解錠に専念でき、よほどの事が無い限り二人で敵を排除できていたが。
ヘンリーの言う通り「一人の方が闘いやすい」は、確かに間違っていない。他人を気にせず思いっきり闘えるんだ。戦闘好きのヘンリーなら当たり前の事。
「自由になれて良かったのかもな…」
束縛していたつもりはないが、お互い恋愛に縛られていたのかもしれない。
そんな俺たちは、らしくなかったのだろう…。
「孤独がお似合いって事か…」
恋愛なんて柄じゃなかったんだと自嘲気味に笑い、空を見上げる。
「ん」
冷たいモノが瞼に当たり、草木に落ちる雨音が耳に届く。
「また雨か…」
雨あしが強くなる前にと、ガイアは足早に探索を進める。


ガイアがひとりで宝箱と向き合っている時、ヘンリーもまたひとりで屍兵と向き合っていた。
一人での戦闘は慣れていて、次々と襲いかかってくる屍兵を魔法で難なく倒す。
もともと戦争が大好きで、いつも一人で戦いに没頭していた。
今日も楽しく屍兵を殺していたが…。
「うわ、また雨…」
肌にあたった水滴に気づき、空を見上げて眉間にしわを寄せる。
戦闘は大好きだが、この雨は好きじゃない。
理由は分からないが、今日の雨は特に嫌な感じがした。
「早く戻ろう〜、また転んだら痛いし〜…」
最後の屍兵を排除し、ヘンリーは笑顔で振り向く。
「あれ?」
微動だにしない大木を見つめ、ヘンリーは首を傾げる。
独り言ではなく、誰かに向けて発した言葉だと自分でも分かったが…。
「誰かいたっけ?」
ずっと一人だったよな〜?と、辺りを見回す。
見えるのは草木ばかりで、聞こえる音も雨音のみ。
やっぱり僕は一人だよね〜と呟き、ゆっくり止めていた足を進める。
雨で濡れた地面は滑りやすく、草は滑り泥に足を持っていかれそうになる。
「!」
崖を降りようと一歩足を斜面に出し体重を移動させた瞬間、そのまま土砂と一緒に滑り落ちてしまう。
またやってしまったと、咄嗟に頭をかばい足から崖下まで落ちる。
「はあ、良かった〜。頭打たなかったよ〜」
安堵の息を漏らして、ヘンリーは手を差し出す。
しかし、その手を取ってくれる者は居ない。
ずっと一人だったような、誰か一緒に居たような…。
「ガイア?」


「へっくしょぃ!」
「あら、風邪?」
「ん、いや…」
鼻を擦り、ガイアは辺りを見回す。
「ヘンリーならまだよ」
「あ、ああ…」
拠点には屍兵を排除し終わった兵士達が続々と戻って来ている。
だがルフレの言う通り、その中にヘンリーの姿はなかった。
「先に戻ってたら?風邪、引いちゃうわよ」
「…そうするか」
ヘンリーの事は心配だったが、会ったところで話す事は何もない。
戻って来たら記憶が戻ってるなんて、そんな都合のいい話しがあるだろうか?
また「キミ」と言われるんだろうと想像し、一人が良いとさっさと先に戻っていくに違いない。
「じゃあ、先に戻るよ」
「はーい、後の事は任せて」
軽くルフレは手を振って、ガイアは他の者と先に山を下りていく。
その後ろ姿を見送り、ルフレは空を見上げた。
まだまだ雨はやみそうにない。

あとはヘンリーだけかな?と、ルフレは戻って来ている兵士達を数える。
後数時間戻ってこなければ、何かあったのだろうと捜索を開始する覚悟は出来ているが…。
「あ、きたきた」
やっと姿を確認し、ルフレは安堵の息を漏らした。
「遅くなってゴメンね〜」
「大丈夫?泥だらけだけど…」
びしょ濡れなのは雨の中なので当たり前だが、ヘンリーの装束は泥まみれだった。
遠隔で魔法を使う呪術士がここまで汚れるなんて、地面に転がったとしか考えられない。
屍兵にどつかれたのか、もしくはまた崖から転げ落ちたのか…。
奇麗なタオルをヘンリーに渡し、怪我は無いかと傷薬も一緒に渡す。
「大丈夫だよ〜、怪我はしてないよ」
「なら良いけど、すぐ動ける?雨も強いし、早く野営地に戻りましょ」
「えっと、ルフレ。ちょっと良い?」
「ん?」
拠点を出ようとしたルフレをヘンリーが呼び止める。
他の者は既に拠点を離れていて、二人は最後尾だ。
呼び止められはしたが、ルフレは歩きながらヘンリーに声をかける。
「どうしたの?」
「ねえ、僕とガイアって何?」
「なにって?」
ヘンリーの言葉に耳を傾けながら、ルフレは自分がガイアにした質問を思い出した。
その答えは「ただの友達」だったが…。
「ずっと独ぼっちのはずなのに、何回も話しかけちゃったんだ」
「ガイアに?」
「うん、居ないのに名前呼んじゃった。あはは、変だよね〜」
笑いながら言うヘンリーに、ルフレは真面目な顔を向ける。
ただの友達だとは思えない雰囲気が、記憶の無いヘンリーから感じる。
忘れているタダの友達の名前なんて、無意識に呼んだりするだろうか?
「変じゃないと思う」
「知らない人なのに?」
「本当は知ってる人なのよ。ただ、貴方が頭を打って記憶を失ってて…」
「え?」
「隠してたつもりじゃないんだけど、なんか言うタイミングを逃しちゃって…」
「ううん、気にしないで〜。そっかー、僕は記憶喪失なんだね〜」
妙に納得しているヘンリーをルフレは心配そうに見つめる。
「やっぱり、記憶は戻ってないのね」
「うーん、残念だけど〜。もう一回、頭を打ったら思い出すかな〜?」
「すごく危険だと思うけど…、それ…」
打ってすんなり思い出せれば良いが、さらに記憶が飛んだりしたら目も当てられない。
だからと言って良い案は全く思いつかないが…。
「じゃあ、どうしたら思い出せるかな?思い出さなきゃ駄目だよね」
らしくなくヘンリーの口調は厳しい。
「なんで忘れちゃってるんだろ。どうして忘れてるのかな?」
「ヘンリー」
「僕はどうしたらいいのかな?」
「それは…」
そのヘンリーの口調で、自分を責めているのが伝わってくる。
救いを求められてるのは分かるが、助けになる言葉が見当たらない。
「ねえ、ガイアは何処?先に野営地へ戻ってる?」
「ええ」
「じゃあ、聞いてくるよ〜」
「あ、ヘンリー!?」
雨の中、ヘンリーは走って野営地へ戻っていく。
道はぬかるんで走りにくく、野営地まではまだ距離がある。
呪術士のヘンリーでは、野営地に着く前に体力が尽きてしまいそうだが…。
「途中でバテてなきゃ良いけど」
ガイアがゆっくり歩いていれば追いつくかもしれないが、ゆっくり歩く盗賊は想像できない。

ガイアにはもちろん、ヘンリーにも追いつく事なく、ルフレは軍の最後尾を進み、そのまま野営地に辿り着く。
二人が途中で会えたかどうかは分からないが、今頃はきっと野営地の何処かで密会しているだろう。
…密会というと語弊があるかもしれないが、友達以上の関係ならそれほどおかしな言い方でもない気がする。
ただの友達とガイアは言っていたので、それ以上かどうかはルフレの想像でしかないが…。
「見守るしかないわよね…」
記憶障害は心配だが、今は二人に任せるしかないだろう。
「ただの友達に任せるって変だけど…」
やっぱり違うよなーとルフレは腕を組んで考え込む。
友達以上だったとしても、非難する気はもちろんない。同性でも恋愛は人それぞれだ。
そう頭の中でルフレは呟き、戦闘で疲れた身体を癒すため、自分の天幕へ歩き出す。
ずっとサーリャの視線を感じていたが、それもまた人それぞれである。
度を過ぎた執着心は少し怖いが、別に嫌な気はしない。サーリャの場合、恋心とは少し違うようだが…。




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つづく

3に続きます>>

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