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銀 魂:沖田誕生日三夜目 1
絵と文とか

銀魂

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2012.2013年の沖田誕生日の続編です。
『引くも引かぬもアンタ次第』←サブタイトル。





煙草の匂いが染み付いた部屋。壁はヤニで黄ばんでいる。
寝てりゃ慣れるが、入ってすぐじゃ無理だ。
でも嫌いじゃない。
口が裂けても部屋の主には言いたくないが。

「何してる」

黙って部屋の中を眺めていると、襖が開き声をかけられる。
その人物は、このヤニ臭い部屋の主だ。

「掃除でさァ」
「手ぶらでか」
「へい」
「嘘つけ!今まで一度もした事ないだろ。何企んでやがる」
「そりゃあ、年がら年中ですよ。アンタの首を取るための企みをね」
「一生言ってろ」
「あと一年ありゃ十分ですよ」
「そいつは楽しみだな。とりあえず、仕事に戻れ。いつまでサボってる気だ」
言われて沖田は部屋を出て、土方の横を通ると同時に睨みつける。
「あんたのせいですよ」
「あ?」
「なんでもねーです」
わざと大きく溜め息をつき、土方の部屋を後にする。

…無自覚―
まあ当然だろう。
だが気になるのも当然だろう。
用意してあるって言ったんだ。タダの機嫌取りの言葉だったら、それはそれで文句を言いたい。そして、本当にモノを用意してあるなら…気になるってモンだ。
土方の言葉からすると、あまり期待できるモノじゃないだろう。でも用意してあるならよこせって思うのが普通じゃないか?
別にモノが欲しいわけじゃないが、騙されてるような気がして、そこがまた気に食わない。

「気に食わねェとこだらけじゃねーか」
なんでそんなヤツと一緒になってんだ、と頭の中で愚痴る。
「何の事だ」
「独り言でさァ」
巡回中の車内でハンドル片手に面白くなさそうに言う。
助手席に座っている土方は相変わらず煙草を吹かしている。閉め切った車内での喫煙は、吸わない奴からしてみれば最悪以外のナニモノでもない。
「具合悪いんで屯所戻っていいですか?」
「ん…、どうした?」
「癌になって死にそうです」
「急に何言ってんだ?」
「急じゃないですよ」
いぶかしげに見てくる土方の口元を沖田は指差す。
「煙草」
「今さらだろ」
「そうですね、今さらですね。なんでアンタと一緒に居るんですかねィ」
「は?仕事だからだろ」
「そう言う意味じゃねーですよ」
この人には何一つ伝わらない。
分かりやすく言ってやるのも良いが、何かそれは嫌だ。
分かって欲しいけど、ハッキリと言いたくない。でも察して欲しい。
自分の思い通りにいかないのが気に食わない。いや、思い通りにいかないのがじゃく、そんな土方が気に食わない。
窓を閉め切ったまま未だ煙草をやめないのもイライラするし、これはもう仕事をサボるしかない。
そう結論を出し、沖田は来た道を引き返す。
「おい、なに勝手にハンドル切ってやがる」
「具合悪いって言ってんでしょ」
「サボりたいだけだろ」
「アンタのせいですけどね」
本当に具合が悪くても、この人の口からは「サボり」しか出てこないだろう。
今だって嘘ではなく本当に具合は良くない。気分に至っては最悪だ。
「何がそんなに気に食わないんだ」
「いっぱいあって言いきれません」
ふてくされて言うと、土方はくわえていた煙草を備え付けの灰皿に押し付け、窓を開け大きく息を吐く。
まだ捨てるには早すぎる、吸い殻になってしまった煙草を沖田は見つめる。
「…煙草」
「嫌なんだろ」
「別に嫌じゃないですよ。土方サンから煙草取ったらマヨしか残らないじゃないですか」
「他にもあるわ!」
「V字ですかね」
「前髪の形が残るってどういう意味だ?」
「さあ?」
「ったく、アホなコト言ってないで仕事に戻るぞ」
「へい」
結局、仕事続行だ。



巡回を終え、雑用に近い仕事をこなし、屯所に戻る。
土方より先に戻り、さっさと夕飯を食らう。
そして部屋に戻る…が、自室にではなく隣の部屋に入る。
主の居ない部屋で、机やタンスの引き出しを開け中をのぞく。
まるで探偵のような…、いや泥棒のような?…別に何を盗むとかじゃないが、とりあえず目当てのモノは見つからない。

「お前…」

引き出しに顔を突っ込んでると、後ろから声をかけられる。
「おっと、遅かったですねィ」
「他に言う事あんだろ」
振り向くと部屋の主が立っていて、不機嫌な面をこっちに向けていた。
「えーと、おかえりなさい?」
「ああ、ただいま…。じゃねーだろッ!何やってんだ、人の部屋に勝手に入って!何企んでやがる!?」
「あ、それ、聞き飽きました」
「朝も言ったからな!」
「ま、ま、ま、ま、落ち着いてくだせィ。あんまり怒るとハゲますよ?V字のトコロから」
慰めるように言い、沖田は土方の前髪を指差す。
「誰のせいだと思ってんだ」
吐き捨てるように言い、土方は新しい煙草に火をつける。
その動作を沖田は目で追う。
「それはそうと、俺に渡すモノあるんじゃないですか?」
「渡すもの?」
くわえた煙草をすぐ口から離し土方は沖田を見る。
「そうです。用意してあるんでしょ?」
「…まさか、それ探してたのか?」
「ハイ」
言われて誕生日プレゼントの事だと、すぐ分かったのだろう。
土方は少し引きつった表情をしている。
「それなら、探す前に俺に訊け!」
「訊けるわけないじゃないですか。自分のプレゼントなんて」
「つーか、お前、何貰っても喜ばないって言ってただろ」
「言いましたが、あるんでしょ?気になるじゃないですか」
しれっと言葉を返したが、土方が『そこ』を気にしていた事に驚いた。
気づいて欲しい事は気づいてくれないくせに、どうでも良い事はいつまでも気にしている。本当、なんでこんな奴と一緒に居るんだろう…。
「喜ばないって言ってる奴にプレゼント渡したいって思うか?」
「あるって言ってる奴がプレゼントよこさないとか、気にならないわけないでしょ」
「…」
無言になる土方をじっと見つめる。
「やっぱり買ってあるって言うのは嘘でしたか?」
「いや、買ってある」
「どこにあるんです?」
「渡す気は無い」
「あやしいですねィ」
沖田は不審感を強める。
「喜ばないんだろ」
「喜ぶって言ったら、貰えるんですか?」
「絶対お前は喜ばない」
「それ、俺が決める事なんじゃないですか」
少しムッとして沖田は言葉を返す。
決めるのはアンタじゃないだろと…。
「喜んでくれるか?」
「それはモノによるんじゃないですかね」
今度は呆れ口調で言葉を返す。
喜ぶだの喜ばないだの悩むのは勝手だが、それをいちいち訊いてくるなら早くよこせと思う。
もったいぶってるつもりだとしたら、そりゃ勘違いも甚だしい。
「買う時に凄い悩んだんだ」
「…」
今度は何を言ってくるつもりだと、沖田は無言で土方を見つめる。
「総悟の喜ぶモノを一生懸命考えた」
…告白か?とも取れる言葉に、思わず身構えてしまう。
「考えて考えまくって煮詰まって、色々手に取って見たんだが、最終的に総悟の喜ぶ姿しか想像できなくなった」
「は?」
告白かと思った土方の台詞は、少し変な方向へ向かっている気がして、変な声が出てしまう。
その言葉の最後は、告白というより何か変な妄想が漏れ出ているような…。
「今なら分かる。こんな物を渡せば、喜ぶんじゃなくて、引かれるって事が」
言って土方は自分の手をじっと見つめている。
そんな土方が少し心配になり、土方目の前で沖田は手のひらをひらひらさせてみた。
「大丈夫ですかィ?土方さん、自分を見失ってません?」
「見失ってるよ。見失った結果、こんなプレゼントを選んでしまったんだ」
「だからそれは何ですかって訊いてるんだけど?」
「引かないか?」
「…多分」
流石にそこまで言われると自信がなくなってくる。
頑に現物を出さないのは、予想外のモノなのかもしれない。
たとえば…トッシーの大好きなプリキュアのフィギュアとか?いや、想像できてる時点で、それは突拍子もないモノではないか。まあ、もらったら引くけど。
「じゃあ、駄目だ」
「はあ?モノが分からないのにかよ!?」
それなりに一生懸命考えてやってるのに!?と、つい声を荒らげてしまう。
ハッキリしない土方に腹が立ってくる。
「引かれたくないんだよ」
「普段から引いてますけどね?まあ、分かりやした。これ以上は引かないようにしますんで、教えてくだせィ」
なんとか自分なりに優しい言葉を返すが、イライラはMAXになってしまいそうだ。
「何か腑に落ちないな」
「それ、俺の台詞です」
そう言葉を吐き捨て沖田は大きな溜め息をついた。
「分かった、じゃあ…」
土方はそう言い、右手をポケットに突っ込む。
そんな小さなモノなのかと、沖田はズボンのポケットを見つめた。






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2へ続く。

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