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銀 魂:沖田誕生日三夜目 2
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銀魂

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2012.2013年の沖 田誕生日の続編です。
『引くも引かぬもアンタ次第』←サブタイトル。





「副長!」

廊下から呼ばれ、土方は動作を止める。
ポケットから手はだしたが、その手には何も握られていない。
まあ何かがポケットに入ってるとは思うが…、邪魔が入ったんじゃしょうがない。間が悪いんだよと声の主を沖田は睨む。
「ザキかよ」
「と、取り込み中でしたか?」
その沖田と目が合い、山崎は怯んでしまう。
数歩後ずさりする山崎を、沖田は睨み続ける。
「取り込み中って?」
「あ、いや…」
「用件は?くだらない内容だったら…」
言いながら沖田は山崎に見えるように腰の刀に手を回した。
「いえいえいえいえ、事件です!事件っ!!辻斬りです!」
「事件ですって、土方さん」
刀から手を離し沖田は土方を見る。
その土方は何も握られていない自分の手を見つめている。
「…ああ」
「土方さん?」
「あとで向かう」
「「あと?」」
らしくない土方の返事に、沖田と山崎がはもる。
「近藤さんが先に行ってるだろ」
「それはそうですが…」
上司の言葉に山崎は反論できず困ってしまう。
その山崎の代わりに沖田が言葉を返す。
「土方さん、事件は屯所で起きてるんじゃないんですぜ。現場で起きてるんですよ」
「総悟…」
「そんなんじゃ、レインボーブリッジは封鎖できませんよ。ザキ、行くぞ」
ポンッと山崎の背中を押して、沖田は廊下に出た。
「沖田さん、古すぎですよ…」
「忘れかけが丁度いいんでィ」
言って二人は土方の部屋を後にし、残された土方はもう一度ポケットに手を突っ込む。
中で握りしめたモノの感触を確かめ、一つ呟く。
「はあ、何やってんだ、俺…」


人集りが出来た路地は、異様な雰囲気に包まれている。
辻斬りなんてそう珍しい事件ではない。
だが集まった人のどよめきや、隊士の表情はいつもとどこかが違う…。
「あ、副長」
やっと来たかと言いたいのを我慢して、山崎は野次馬の中にバッと空いた空間を見た。
それはまるでモーゼのような…とは流石に言えない。そこを歩いてくる人物は、どちらかと言えば真逆の存在、鬼の副長だ。
「状況は?」
「えーと、見ての通りなんですが」
山崎の横に座り、土方は遺体に掛けられたゴザを捲る。
「本当に辻斬りなのか?」
「目撃情報では、そうらしいです。刀を構えていたそうなんで」
「…」
ゴザ下の遺体は鈍器で殴られたような痕が何カ所もあり、頭部も潰れている。鋭利な刃物の痕なんて何処にも見当たらない。
「よほど切れない刀だったんですかねえ」
「刀だとしたらそれはそれで問題だな。刀を腰にぶら下げているとしたら、切れようが切れないが違法だ」
「攘夷浪士ですかね?」
「ならもっと良い刀を持ってるだろ」
「あ、あれですかね?エクスカリバー!」
山崎の言葉に、ハッと土方は顔を上げる。
随分懐かしい星の名前だが、あの天人…。またあんなのの仕業だとしたら、そしてまた総悟が真っ先に接触するような事があれば…、確実に二の舞を舞うだろう。
つまりは世界の終わり、ラスボスが復活してしまう!
「総悟はどこだ!?」
「沖田隊長なら、犯人を追跡中です」
「勝手に追跡させるな!地球が破滅するッッ!!」
エクスカリバーと総悟の最凶タッグを組ますわけにはいかない!!
「何言ってんですか、副長が来るの遅いんですよ。犯人は結構派手に動いてるようで、被害は拡大してるんですよ」
「近藤さんは?」
「他の被害現場を回ってます」
「それを早く言え、犯人はどっち行った」
一人テンションのおかしい土方に山崎は冷ややかな視線を送る。
「えーと、お言葉ですが副長。犯人追跡は沖田隊長に任せて、副長は局長と手分けして現場の指揮を執った方が良いんじゃないですかね?現場は人手不足ですよ」
「そうか、分かった。被害現場をすべて教えろ」
「はいはい」
やっと我に戻ったかと、山崎はやれやれと小さな溜め息をつく。
一緒にすぐ来てくれていれば…、そう山崎は頭の中で愚痴り、地図を広げ土方に場所を説明した。



夕刻が過ぎ、なんとか現場を片付け、遺留品から遺体の身元を探し、一通りの捜査を終える。
まだやらなければならない事は山ほど残っているが、とりあえず夕飯を早食いし腹を満たす。
その残っている仕事の中の一つが犯人追跡の件なのだが、追っているはずの沖田からは未だ連絡がない。

夕食後も土方はガッツリ仕事に向かい、一息つこうと土方は煙草をくわえる。
仕事に集中していて気づかなかったが、いつの間にか屯所は静まり返っていた。
もう就寝の時間かと時計に目を向ける。確かに時刻は深夜十二時を回っており、これといった特殊任務についていない者は既に夢の中だろう。
「遅いな…」
壁越しに隣の部屋を見る。
もちろん何も見えやしないし、部屋に誰も居ない事は知っている。
―だが遅い。
「まだ追いかけてるのか…」
別に一日中屯所を離れて町中を走り回ってたって構やしない。
犯人を追いかけて戻ってこないなんて、警察じゃ日常茶飯事だろう。
だけどこの収まりの悪い気持ちは何なんだ?
本当に犯人を追いかけているだけなら良いが…。
机に向かう気になれず、携帯を手に取る。じっと画面を眺め履歴から沖田の名前を探す。

ガタタッ。

物音が耳に入り、携帯から手を離す。
立て付けの悪い引き戸の音、廊下の奥から聞こえてくる足音、まだ顔は見ていないがやっと戻って来たかと胸を撫で下ろす。

床のきしむ音が次第に大きくなり、隣の部屋の前でそれは止まる。
そして部屋へ入ろうと襖を開けた所で、自室から出て声をかける。
「遅かったな」
「あり?土方さん。起きてたんで」
少し驚いた表情で沖田はこっちを見てきている。
その沖田の顔を土方はじっと見返す。
「当たり前だろ」
「あー、ちゃんと捕まえましたよ。今は治療中ですね」
「また、派手にやらかしたのか」
「俺のせいじゃないですよ。諦め悪い奴さんが悪いんでさァ」
「血、出てるぞ」
「返り血です」
土方に指摘され右頬を制服の袖で拭う。
「こっちは違うだろ」
今度は左頬を指差され、沖田は面倒くさそうに言葉を返す。
「まあ、たまに切れちゃうコトもありますよね」
「ちゃんと手当しろよ」
「タダのかすり傷ですよ」
よほど面倒くさいのか、沖田は言うだけで今度は血を拭おうとはしない。
かすっただけの傷のわりに出血が多い。
「黴菌が入ったらどうするんだ」
「心配し過ぎ」
「傷跡が残ったら…」
どれぐらいの深さかと土方は沖田の頬に手を寄せるが、ハエをたたき落とすような勢いで手を払われてしまう。
「残ったって良いだろ」
「良いわけけないだろ」
「は?なに言ってんの?気持ち悪ィ。疲れたんで俺はもう寝ます。報告は明日で良いですよね」
少しイラッとした表情を見せ、沖田は自室に足を踏み入れる。
「まて」
「待ちませんよ。じゃあ、おやすみなせぇ〜」
「おい」
土方の制止を無視し、沖田は部屋に入りピシャンッと襖を閉めた。
「…」
頬の傷の心配はもちろん、まだ訊きたい事、言いたい事があったというのに…。
ずっと起きて待っていたのは、仕事だからじゃない。



―恋仲だからだ。




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3へ続 く。

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